第3話 自然と一体となる瞬間

朝の光が静かにテントに差し込んだ。夜露に濡れた草が朝陽に輝き、森の静けさがまるで世界そのものを包み込んでいるかのようだった。二人は早朝の清々しい空気に目を覚まし、自然に囲まれた贅沢な一日がまた始まろうとしていた。


「おはよう。」

彼が微笑みながら、まだ寝ぼけ眼の彼女に声をかける。彼女はゆっくりと目を開け、外から差し込む光に瞬きをした。「おはよう……もうこんな時間?」


二人は少し無言のまま、テントから顔を出し、自然の息吹を感じ取っていた。小鳥のさえずり、木々の間をすり抜ける風の音、すべてが一つになって響いていた。


「今日は何をしようか?」

彼女が言うと、彼は少し考えた後、「そうだね……何もしなくてもいいかも。ここにいるだけで十分じゃない?」と微笑んだ。彼女もそれに応えるように頷き、二人はただ自然の中に身を委ねることに決めた。


その日、二人は一切の予定を立てず、ただのんびりとした時間を過ごした。時折、彼女は彼の肩に頭を預け、無言のままそっと寄り添う。言葉がなくても、そこには深い繋がりがあった。


午後、二人はテントの外に出て、近くの小川へと向かった。冷たい水が静かに流れ、太陽の光が水面に反射して美しく輝いていた。彼らは靴を脱ぎ、裸足で小川に足を浸す。冷たい水が肌を撫で、昨日のロウリュウで温まった体を再び冷やしていく。


「こうしていると、まるで自然の一部になったみたいね。」

彼女が静かに呟く。彼も同じように感じていた。都市生活では決して得られないこの感覚。自然と自分、そして彼女との境界が消え、すべてが一体となっているような感覚に包まれていた。


小川から戻ると、二人は再びテントのデッキでお茶を楽しんだ。今度はお茶の準備に時間をかけ、ゆっくりと茶葉の香りを楽しむ。彼女が淹れたお茶から、再び立ち上る湯気。それはまるで二人の感覚を包み込み、再び二人を自然の流れの中へと引き戻すかのようだった。


「また茶柱が立ったわ。」

彼女が微笑みながら湯呑みを覗き込む。彼はその姿を見つめ、穏やかな笑みを浮かべた。「君が淹れたお茶はいつも特別だね。」

彼女は少し照れたように笑い、二人はその静かな幸運を無言で共有した。


夕方、再び焚き火を囲む頃には、二人は言葉以上のものを共有していた。自然の中で過ごした時間が、彼らの心に静かに浸透していた。彼女は彼にそっと寄り添い、彼も彼女を優しく抱き寄せた。火の温かさが、再び二人の体と心を包み込み、夜の冷たさとの絶妙なコントラストを作り出していた。


「ここにいると、本当に全てが完璧に感じる。」

彼が呟くと、彼女も静かに頷いた。「そうね……この瞬間、まるで永遠に続けばいいのに。」


そして二人は、星空の下で静かに寄り添い、自然と一体となったその瞬間を噛みしめていた。夜が深まるにつれ、火の灯りも小さくなり、やがて静寂が全てを包み込んだ。彼らはただ、互いの温もりを感じながら、その瞬間に溶け込むように眠りについた。


この旅が終わった後も、彼らの心にはこの特別な時間がいつまでも残り続けることだろう。

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自然の極楽ご満悦記 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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