第2話 熱と冷たさの間で
夜の帳が降り、テントの外はすっかり静けさに包まれていた。遠くで風が木々を揺らす音が、まるで囁き声のように二人の耳に届く。焚き火の小さな炎が、ゆらゆらと揺れながら、暗闇の中で唯一の光となっていた。
「今日は本当に素敵な一日だったわ。」
彼女がぽつりと呟き、温かい毛布に包まれたまま、彼に寄り添った。彼は静かに焚き火を見つめながら、彼女の言葉に頷いた。「うん、自然の中にいると、時間の流れが全く違う感じがするね。」
焚き火の火が、二人の顔を柔らかく照らし出していた。炎の温かさが肌に心地よく伝わり、その一方で、夜の冷たい空気が彼らの体を冷やしていく。その温度差が、彼らの感覚をさらに研ぎ澄ませていくようだった。
「ねぇ、もう一度ロウリュウをやってみない?」
彼がふと提案した。彼女は目を輝かせ、「いいね!」と同意した。再びサウナに向かうため、二人はゆっくりと立ち上がり、テントから離れた。
サウナの扉を開けると、再びその独特な熱気が二人を包み込む。石に水をかけると、勢いよく立ち上る蒸気が空間を満たし、彼らの肌を柔らかく撫でた。静かな蒸気の音、汗が流れ落ちる音、それだけが二人を取り巻いていた。
彼は彼女の顔をちらりと見て、少し笑った。「君、すごくリラックスしてるね。」
彼女は目を閉じたまま、微笑んで応えた。「うん、こうしていると、いろんなことを忘れられるの。まるで、全てがここで止まってるみたい。」
その言葉に、彼は静かに頷いた。サウナの熱が彼らの体をじんわりと温め、心まで溶けていくような感覚。体が熱くなり、全ての感覚が鋭くなる中で、言葉はもう不要だった。
時間が過ぎ、彼らは再びサウナを出た。外の冷たい空気が、熱を帯びた肌に触れ、体を一気に冷やす。二人は黙ったまま、冷たい水に足を浸し、自然の冷たさが全身をリフレッシュさせていく感覚を共有した。
「こうして、熱と冷たさの間で過ごすと、自分がどこか別の世界にいるみたい。」
彼女が冷たい水に触れた足を感じながら、静かに呟いた。彼も同じように感じていた。熱と冷たさ、その両極の感覚が交互に訪れることで、彼らの意識が変わっていくのを。
テントに戻ると、二人は再びお茶を淹れた。蒸気が湯呑みから立ち上がり、ふわりと消えていく。二人の間に再び訪れた静寂は、心地よいものだった。焚き火の残り火が、二人を静かに見守っている。
「また茶柱が立ってるね。」
彼がふと気づいた。彼女は驚いたように湯呑みを覗き込む。「本当だ……全然気づかなかった。」
彼らはその茶柱に特別な意味を込めず、ただ二人でその瞬間を共有することに満足していた。お互いの存在を感じながら、言葉ではなく、静けさの中で通じ合う時間を過ごしていた。
その夜、二人は焚き火のそばで、星空を見上げながらゆっくりと体を寄せ合った。自然に溶け込むように、彼らの心もまた、溶け合っていくように感じていた。
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