剣と杖とクリステラ

早乙女創作局

第1話 異世界転移と紺色の誘拐者

「起きて!お兄ちゃん!」


鍋とオタマをぶつけ合う騒がしい音が聞こえて俺は目を覚ます。


「うるさいな美涼、近所迷惑だぞ。しかも俺はまだ寝ていたいんだ…」


眠そうな声でそう言うと布団に深く潜り込む。


「ダメだよお兄ちゃん、今日は一緒にお母さんの誕生日プレゼントを買いに行くって言ったじゃない。」


「そうだっけ?」


俺は顔を見せずにとぼけた声でそういう。


「お兄ちゃんサイテー!大切なことを忘れるなんて。」


妹は俺に向けて持っていた鍋とオタマ、そして近くにあった俺のフィギュアを投げつける。


「痛え!?」


鍋とオタマは素直にぶつけられ、フィギュアはキャッチすると外の寒さに体をふるわせる。


「何も、こんな寒い日に行かなくてもいいじゃないか!」


「別の日に行ってもお母さんの誕生日は12が月なんだからずっと寒いわよ。ほら、さっさと着替える!」


妹は傍にあった収納から俺の服一式を選びながらほおり投げ俺は降ってくるそれをキャッチし着替える。


「先に下に居とくから、早く降りてきてよね。」


妹はそう言うと部屋から出ていく。


俺も急いでその後を追い階段を滑り落ちるが、妹は遅刻した俺のために気を配らない。



「お待たせ」


「本当に待たせるわ、さっさと行くよ。」


「へい」


と自分としても頼りない返事をして玄関を出る。


外に出ると一面、白い雪景色だった。

息を吐けば白くなるほど、肌を刺すような寒さだった。


「本当に行くのかよ」

とこの期に及んで俺は戻るための交渉をしようとしたが前へと突き進む妹は聞く耳を持たない。


話は誕生日プレゼントを買う予定の店に着くまで出来なかった。


確か誕生日プレゼントはお花にしたいという妹の意見だったはずだ、しかし妹は作り物の花を買った。


「ホンモノじゃなくていいのか?」


「うん、こっちの方が枯れないし、世話しなくていいから。お母さんの邪魔にならずに目の保養になると思って。」


妹は目の保養にだけなればいいと俺の1歩上の考えを持っていた。


「なるほどな、じゃあお兄ちゃんが金出すよ

。」


「じゃあってなによ、当たり前でしょ?」


と妹が言う、いやはや、最近手厳しくなったものだ。


花を抱えて一緒に外へ出る。


家の寸前にまで来たところだった。


空気が変わった。


「なにか、感じないか?」


「ん?なにも。」


妹は何も感じてないらしい。

それでも俺は何かを感じている、鳥肌というか、悪寒というか。

それに似た何かを感じる。


パッ…と"風景"が変わった。

まるで、いや、俺たち2人は転移してしまった。

としか、考えられない。


妹は周りを見るが、何も言えない。理解ができず言葉に出来ないようだ。


「どこだ、ここ?」


突然ザザッと俺たちの周りを囲む人間たちがいた。


「お前ら誰だ。」


妹を俺の傍によらせ抱きしめる。


「ちょっとお兄ちゃん!気持ち悪い。」


「仕方ねぇだろ、不審者集団から妹を守る最前の行動だと思うからやってんだ。」


紺色のローブを身につけている集団は何もアクションを起こさないと思いきや。


いつの間にか妹は集団の元へ連れていかれて縛られていた。


「助けて!お兄ちゃん!」


何が起こった?さっきまでいた妹がもうあそこにいる。


俺は急いで口枷をしようとするローブの人間に向かって振りかぶるが。

後ろから何かをぶつけられた。


背中が痛い


俺は倒れた。


妹の叫び声が消えていく。


俺は何が起こったのか分からないまま死ぬらしい。


笑えるぜ、惨めな最後だ。


「突貫!」


ゾロゾロと足音が騒がしくなり馬の駆けるような音以外は徐々に消えていった。


「大丈夫か!」


女性の声が聞こえる。


背中に多分、矢かなんかが刺さっている俺を見て言ったんだろう。

大丈夫では無いさ、致命傷だ。


陰鬱になっている時に背中に激痛が走る。

声にできないほど疲弊しきっているので涙を出すだけで終わったが徐々に背中の違和感は消えていき、自分の体力もみるみるうちに元に戻っていった。


起き上がれると確信すると俺は土を払いながら起き上がり声のした方を見る。


赤い髪の鎧を身につけた女が居た。

腰には剣というものがどんなものかほぼ知らない俺にも長いと思わせるほどの剣がしてあった。


「これで、とりあえずは大丈夫だろう。何があった?」


女はそう聞いてくる。


「お前は誰だ、あいつらはなんなんだ。」


淡々と問いかける。


「すまない、自己紹介がまだだったな。」

「私はカリス・オルトー、ミリスタシア王国特務騎士団第1騎士隊長をしている。」


明らかに和風ではない名前に妙に長く分かりにくい肩書き。


俺は一体どこに来てしまったんだ。


「奴らは王都の周りの森で不祥事を働く罪人達だ。私、いや、特務騎士第1騎士隊は奴らを追う任務を王から直々に承っている。だから何が起きたのか教えてくれないか?」


「カリスさんには申し訳ないが、事の顛末を全て話すぞ。」


「ん?構わないが、複雑の事情があるのか。」


「多分、複雑すぎる事情がある。」


俺は彼女に今まで起こったことの全てを話した。

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