第8話 簡易裁判当日! え~なんとなんと!!

08:00 起床

09:00 スーツで家を出る

10:00 簡易裁判所に到着

11:00 裁判終了。勝訴


という流れを想定していた。

駅から簡易裁判所まで歩きながら、すこしワクワクしている自分がいた。


不動産屋と家主は被告として世間に知られることを恐れて、こちらの言い分をおおむね飲むものと高を括っていた。


9:30に受付で手渡されたのは不動産屋と家主それぞれのの答弁書だ。

答弁書を出すことで、裁判に顔を出さなくても参加したことにできる効力がある。

また、訴訟する旨の申し出が記載されていた。


 *


裁判開始まで少し時間があったので、わたしは裁判で話をすることを整理していた。

民法601条のこととか、債務不履行とか、答弁書への反論を紙に書き連ねていた。


 *


すこしすると、法廷に通された。

法廷は学校の教室のような広さの部屋に、大きめの楕円形のテーブルが置かれていた。テーブルは重厚なもので配置されている椅子6脚は革張りのビジネスチェアーで座り心地のいいものだった。


わたしが座っている背後には木のパーテーションがあり、その向こうは傍聴席で誰もが裁判を見ることができるように椅子が並べられていた。ただし、きょうは誰もいない。


 *


10:00に簡易裁判が始まった。

不動産屋と家主は来なかった。


わたしの対面に裁判官さん、左に公証人さん、右に書記官さんが座った。

学校や会社面接のように立ち上がって「よろしくお願いします」と挨拶をした。

想像より緊張しなかったのは、裁判官さんたちの雰囲気が自然だった。テレビで見る裁判モノのドラマで裁判官さんは上から判決を語るシーンが定番だが、同じ高さの床の上にいたからというのも大きい。近くに座ったわけではなかったが、身近に感じられた。


 *


裁判官さんはピシっとスーツを着た男性で、法律素人のわたしにも分かるようにゆっくり話をしてくれた。

公証人さんは、裁判官さんより年配の方で落ち着いた雰囲気だった。現場の空気に左右されないように、気配りがされているように見えた。

書記官さんは、裁判の記録だけではなく、裁判官や公証人とのパイプ役としてわたしと接してくれている。


御三人様とも、とても穏やかでありがたかった。なにしろ、人生初の裁判でとても緊張していたのだから。


 *


裁判官さんが話した内容は以下のとおり。


 ・原告からの訴えと証拠は確認した

 ・被告らから答弁書が届いている

 ・被告側に弁護士がついた

 ・被告らは簡易裁判から通常裁判を選択したため通常裁判に移行した

 ・次回は来月半ば通常裁判をする


 *


わたしの目論見は簡易裁判での結審だったが、被告側は徹底抗戦の意思を伝えてきた。それで、わたしを威圧する作戦かもしれない。

裁判官さんは今後通常裁判になった場合も、被告側は裁判には来ない可能性もある。答弁書を提出すれば、裁判に参加したことと同じ効力がありますと教えてくれた。


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しばらくして、裁判官さんと公証人さんとで話し合いをするので、しばらく席を外して欲しいと言われた。わたしは法廷を出て5分程待合室で目を閉じて待った。


 *


法廷に呼び戻され「できるだけ少ない手続きでできるように」進められるようにしましょうと裁判官さんが仰った。YouTubeの動画で弁護士さんたちが語られていたとおり、手続きを簡素化するというのは、裁判官たちの評価に繋がるらしい。

それに、わたしにしても被告らにしても、得策なのだろうなということは分かる。何度も裁判をすればそれだけお金が掛かる。簡易裁判で求めているのは40万円だがそれよりはるかにお金が掛かるだろう。

被告側の作戦はこちらの兵糧が付き得るのを待つことだ。


裁判に疲れて、日常生活に支障が出るのが日常化してしまったら、勝訴敗訴の前に生活が破綻してしまう。できるだけ手続きを少なく判決に導くというのは裁判の歴史でも常識ということか・・・。


 *


裁判官さんは、今回の被告らの答弁書を受けて、わたしも書類を作成するように伝えた。内容は答弁書に対する反論、それから当時の害虫に関するより詳しい情報の提供だ。また、証拠があれば提出して欲しいとのことだった。証拠は特に重要だ。簡易裁判が退けられたということは、わたしの勝ち筋は証拠集めしかない。


 *


通常裁判は費用がかさむので怖いが、通常裁判の方が細かいところまで話し合いができるので、メリットがないわけではない。


今年の4月頃、市役所の法律相談に出向いたときに担当の弁護士さんが「人生経験として一度裁判をしてみるのもいいかもしれないね」と仰った。

まさにこのような状況のことを想定していたのかもしれない。

わたしは裁判所に人生経験をしに遠くの世界に行くような気持ちでポジティブに捉えることにした。


もし、お金の制約がないなら、もちろん最高裁判所まで戦いたい案件であることに間違いはない。どれだけ借金を抱えることになるかは分からないが、この裁判を諦めたらいけない。


自分のためでもあるし、今、害虫屋敷に泣く泣く暮らしている人たち、そしてこれからそこに住むことになる人たちのためにも、不動産屋と家主には心を入れ替えてもらわなければならない。


 *


明日から、証拠集めをがんばりたい。ゴキブリの画像集めなんで恐怖でしかないので撮影していない。物的証拠がないと不利だ。困った。なにか作戦を考えなければ!


 *


おわり


 *


お読み頂きありがとうございました。

次からは「簡易裁判」ではなく「通常裁判」となりますので、別タイトルにします。

この話は第8話にておわりです。


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アパートにGが出まくるので人生初の簡易裁判をした話 ぐらこ @guraco

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