第13話 ブレイク オフ


東アルカ、外縁部、住宅区域、とあるマンションの12階、一室


「くっそおおおおおーーーーーーーーーー!!!」

ヤケドしそうな高温のシャワーで、ワシャワシャとシャンプーを流す。

「あのバカ!あのバカ!あのバカはーーーーー!!」


必要にして十分な、女性的曲線と長い手足。スリムなプロポーション。輝くような肢体を伝い跳ねるお湯の粒。

かんしゃくを起こしながら、ひとり、バスルームで騒ぐ野川那智。


なにを騒いでいるのやら。

「那智ーー!牧から電話よーーー!置いとくからね!」

妹にかかってきた電話を取り次ぐ智由。子機を着替えのかごに入れておく。

携帯に繋がらないので、宅電に掛けてきたらしい。


「わ、わ!忘れてた!」

慌てて出てくる那智。

「こら!ちゃんと拭きなさい!」

辺り一帯びしょ濡れだ。小学生か、こいつは!


とりあえず、着替えの入ったカゴとバスタオルを抱えて、洗面所からは右手の自分の部屋に駆け込む。

牧さんに、生物化学センターの再調査をお願いしていたのだ。

子機のスピーカーをオンにして、ガラスの小テーブルの上に置く。

時刻は8時を少し回ったところ。牧さんはまだ、中央警察署にいるらしい。


素早く体を拭きながら質問する。

「なにか、わかりましたか?」

(なっちゃんの〜言う通り〜みたいだよ〜〜)

いつもの、間延びした牧さんの声だ。なんとなく脱力する。


(違法な〜〜超能力の〜〜実験〜〜。動物実験もあったみたい〜〜)

一人で焦ってもしかたない。人間万事サイオウノ、、、、、とか馴染んでる場合じゃない!


「ホントですか!牧さん!」

(本当〜〜。逃げた動物もいるって〜〜〜くわしく〜〜わかったら〜〜また連絡〜〜するね〜〜)

今は藁にもすがりたいんだ。どんな情報でも集めなければならない。

「お願いします!」


一応進展はあったのだが、アイツには知らせない。腹立たしーからだ。


ベットに寝転がる少女。

また明日、話せばいい。その時はそう考えていた。


遡って、下校時、風紀準備室。


真っ黒な、ナタのようなサバイバルナイフが押収物保管箱に入っていた。

「何これ!こんなのあったっけ?」

「あらた生徒会長が押収したって。持ってきたよ。」

グロテスクなそれは、ダブルヒルトブラックサバイバルナイフ

全長370mmオーバーのよく手入れされた一品だった。


「にしても、悪趣味〜〜ゾンビとか戦ったりするのかしら。」

「アハハ。」

笑いながら風紀委員たちが、施錠していく。


山下しんが、自分の自宅、川崎の七号土手に着いたのは、とっぷりと日の暮れた深夜になってしまっていた。

父と母、二人とも、海外だ。親権をもってるのは、父のほうだが。


一戸建ては、ひとりでは正直、広すぎるのだが、文句を言うのはお門違いだろう。

階段を上がって、自室のクローゼットに白衣を掛ける。

各種センサーが、白衣の基礎データ、および各種アタッチメントの状態をチェックしていく。

実はこれ、かなりのオーバーテクノロジーの産物だ。

我が、天才マッドサイエンテスト、パパンが、世界中で開発研究した極秘成果をふんだんにブチ込んである。


クローゼットにはビッシリ、状況により入れ替え可能なサブウエポンたちが並び、防弾性はもちろん、思考援助ヘッドセットを装着すれば、簡易のパワードスーツとしても機能する、男のロマンの塊と言っていい匠の逸品なのだ!! 


とはいえ、テンションは上がらない。

落ち込んでいても腹は減る。天宮駅、名物の立ち食いそばやで、バカでかい唐揚げの入ったそばを食べてはみたが、いつものようにうまくはなかった。


ベットに寝転がり、ゴソゴソとズボンのポケットからUSBメモリーを取り出す。

放り投げて、机の側のゴミ箱に捨てる。


リンの指紋データだが、もう照合の必要はないだろう。

犯人であろうと、なかろうと、どうでもいい事だ。彼女の行動を止める権利は誰にもない。

もし、本当に復讐を望むなら、それは仕方ない事だと思う。

彼女にはその権利がある。


オレはただ、いつも通りの日常を送る事にした。



翌日、

学園の長すぎる、いちょうの並木道を走破した、野川那智が、昇降口、下駄箱に立ち止まる、白衣の少年を見つける。

パッと表情が輝くが、昨日の今日だ。彼にはトラブルの可能性があるのを思い出す。

よく見ると、ふるえているようだ。


「だ、、大丈夫?しん。」

恐る恐る声をかけてみる。


「見ろ、、、、、見ろ那智!!ラブレターだあああああーーーーーー!!!!!」

ピンクの便箋と手紙を掲げて高笑いを始める。


「は?」

憮然とする少女。

「ひゃっっほ〜〜〜〜〜〜!!我が世の春が来た〜〜〜〜!!オノ〜〜レミラボ〜〜!!」

クルクル回っている。

「大好きです♡お昼に、部室で会いましょう♡だって〜〜〜〜!モテる男は辛いわ〜〜〜〜〜〜!参ったわ〜〜〜〜!!リア充ですわ〜〜〜!ひがむな〜那智〜〜!!」


「、、、、、、、」

まあ、どうでもいいが、非常に腹が立つ。人が心配してやれば、、、、


ドタン、

「ギャア!!」

回転軸の足元を、少女に足ばらいされ、ひっくり返る少年。

「よかったね!お幸せに!!」

行ってしまう、那智。

牧の調査の事の連絡もすっかり、忘れてしまっている。


同時刻、本校舎、3階風紀委員、準備室。


「あれ?誰かここにあった、ナタみたいなナイフ持ってった?」

数人の風紀委員たちが騒いでいる。

「誰か間違って、学生課に持ってたんじゃない。」

「まったく。落とし物じゃないっての!」


同時刻、本校舎4階、生徒会室


一人楽しそうなあらた生徒会長。

学内のカメラを監視していたアンバーTYPE01が予想通りに、“彼女”が準備室のナイフを持ち出すのを知らせていた。


「いや、うまいこと動くものだ。」

どんよりとした瞳に、暗い喜悦がよぎる。


(なぜ、こんな手間を?それに、彼が邪魔なのですか。)

感情がゴッソリ削ぎ落とされた声が、ヘッドセットから聞こえる。

「嫉妬だよ。」

(嫉妬?ジェラシーですか?)


「そう、ボクと彼は似ているそうだ。それが何か考えるに、どちらも、どこか、いびつで、おかしな人間という事さ。

おかげで、ボクは人の世から、乖離、離れてしまった。

なのに彼は、彼女にとても愛されている。」


(憎しみ、なのでは?)

「違うよ。立夏。愛憎の反対は、無関心だ。」


とても楽しそうな、あらた。

「まあ、ただの暇つぶしだよ。」


(、、、、、、)

本当のところはアンバーにも、理解できなかったようだ。


同日、学園中央食堂、

昼には大多数の学生で賑わう、ここは、ちょっとした、大ホールのような敷地面積をもつ。

高い天井は、途中緩やかに傾斜し、ガラス張りのテラスに続く。


数量限定、日替わり三つ星シェフの特別メニューなどもあるが、おおむね、おそろしくリーズナブルに和、洋、中華と、あらゆる食事を楽しめ、育ち盛りの学生たちの胃袋を満たしている。


「あ、野川さん。」

めずらしく、食堂に来た、ポニテのみず希しずくは、デザートブースであれやこれや悩んでいる野川那智を見つける。

「那智でいーよ。しずく。よし!」

決まったようだ。ミートスパゲティに山のようなミニケーキや、プリンアラモードが並んでいる。

「、、、、、、太るよ、、、、、那智さん。」

顔をしかめる、しずく。見ているだけで胸焼けしそうだ。


めずらしい組み合わせの二人が席を並べる。

周囲は息を呑んで、遠巻きに盗み見ている。つい先だって、本校舎を破壊した二人だ。


これが一般的な反応といえる。那智にアプローチしようとする、鉄砲玉は今、現在、あまり存在しない。


「食べなきゃやってられない、てーの!まったく!」

スパゲティを食べながらケーキを平らげていく那智。絶対、栄養バランス悪いと思う、

しずく。

彼女は器用に塩ジャケをバラして食べている。

「何かあった?」

「う〜〜〜〜。」

ブブ、

うなる彼女に合わせるよう、携帯が振動する。

「ゴメン。」

スマホを取る彼女に、気にしないよう、手を振るしずく。


牧さんだ。しまった!すっかり忘れてた!

少し離れてしずくに、背を向ける那智。

「もしもし、何か分かったんですか?」

焦る少女。


天宮中央警察署、捜査特殊四課。


雑然と並ぶデスクの終わりに警部補の彼女の席はある。

ノーパソに事件の詳細情報を表示させて、サンドイッチをパクつく、牧。


アルカ全域の能力関係の事件が集まるので、四課は大体、てんやわんやだ。

超能力ポン引事件。

超能力JKリフレ。

超能力ストリーキング事件など、訳の分からない連中が、連行されてくる。


「あ、那智〜〜〜逃げた、ニャンコちゃんの〜〜〜情報が〜〜〜分ったの〜〜〜。」

電話しながら野菜ジュースを飲む、牧。


ゴクリと息をのむ那智。

今何て、、、、騒がしくてよく聞こえなかった、、、、


「ね、、、、、ネコですか、、、?」

真っ青に立ち尽くす少女。


(そ〜よ〜。イリオモテヤマネコの子猫ちゃん。ビックりね〜〜〜。超能力を使えるんだって〜〜〜。)

「能、、、、、、力、、、、、」

息が止まる。

(マインドブースター〜ですって〜〜〜。ハッピーな人はよりハッピーに不幸な人はよりドン底に〜〜なるんだって〜〜〜〜)


「たとえば、集団の暴徒化のきっかけになったり、、、、」

(そうそう〜〜〜早く保護してあげないと〜〜〜大変だよ〜〜〜。」


ほんとうに、一連の騒動は、あの子ネコが原因だったのだ。

「で、、、でも例えば、Aクラス能力者には、精神操作系はききませんよね。」


何を言ってるのか、要点のわからない事を聞いていると思う。

訳の分からない、焦りがジワリと湧き上がる。

(そうだよ〜〜〜でも、テレパスの子は要注意だよ〜〜〜接触しようとしたら〜〜かなり影響でるかも〜〜〜だって〜〜〜)


那智は知らなかったが、副会長の瀬里奈も子ネコに接触して、異常行動を起こしている。

発信テレパスの彼女からしてコレなのだ。


「く、、、、、っ」

最悪だ。受信テレパスのリンは、もう何日も、何週間も子猫とすごしている。


白衣の少年は言っていた。

「りん、オレを恨んでるかもな。」


もし、、、もしも、ほんとに憎しみが、増悪があったなら、どれ程の憤怒となって彼女を蝕んでいるのか。


茫然自失する那智。知らず携帯をしまってしまう。

会話が終わったと思った、みず希しずくが話しかけてくる。


「そう言えば、今日は一人なんだね、那智さん。なんかね、部室練に向かうリンさんを見かけたよ。声をかけたけど、そのまま行っちゃった。」


今日のおひたしは美味しかった。どんな出汁を使ってるのだろうと思う、しずく。


口を開き、妙に、白っちゃけた顔の那智がこちらに、顔を向けている。


「部室、、、、、」

つぶやいている。

少年が、昼に待ち合わせと言っていた。


「ゴメン。ちょっと、、、」

唐突に食堂を出ていく那智。

そのあまりの異様さに、食事が途中なのも、指摘せず見送ってしまう、しずく。


食堂から部室練に行くのは、一旦外に出て連絡通路を通るのが早い。


那智の歩みは深い海底にいるよう重く安定を欠く。


どうせ、、、、、どうせ、、、、

取り越し苦労だ、、、何もない、、、、前みたいにノホホンと、あいつは、あのバカは部室に、いるだろう、、、、ラブレター?どうせ、誰かのいたずらだ、、、、笑ってやればいい、、、、だから、、、、だから、、、、、だから、、、、、


身体が重い、ホントに窒息しそうだ。必死に進む少女。


部室練3階、超研部(仮)


「ホムホッホムム〜〜〜〜」

変な鼻歌まじりに、手鏡で髪型を直している、山下しん。

まあ、ピンピンはねるくせっ毛は、直らないのだが。

もうすぐ!愛しいマイハニー(仮)がもうすぐやって来るのだ!


コンコン、

というノックとともに入ってくる影。


「ようこそ!いらっしゃ、、、、、、、」

そして、気付く。


ああ、仕方がない、と。

あきらめなのか、後悔なのか、雑然とした思いが過ぎっていく。


そこに立っていたのは、、、、、、


準備室の、二つのドアを開けて入ると、

彼は笑っていた。


悲しいのか、嬉しいのかよく分からない笑顔だ。


自分は、彼に、聞いてみなければならない。お前はどうして、自分を能力者にしたのか。

お前は、どうして、知りたくもない、人間の裏の裏を自分に見せるのか。

お前は、どうして、自分を地獄に落とすのか。


どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、


「どうして!!!!、、、どうして、、、、、どう、、、、あ、、、あああ、、、、ああああああああああああああああああああああああああ!!!」


冬木リンは泣いていた。

絞り出すような少女の慟哭は、世界が終わってしまったように泣きじゃくる赤ん坊のようだ。


その小さな身体のどこに、これだけの、悲しみが、憎しみが、隠されていたのか。誰も知る由もない。


憎しみは、彼女が持つに、似つかわしくない、武骨な黒いサバイバルナイフに収斂され具現化したようだ。


ドン、


極限まで、加速された認識が、彼の動きを、心も含めて、神経パルス、ミリセカンドの変位まで、見逃さないよう、捉えていく。

彼は、那智の加速攻撃を何度もかわす、信じられない体術を習得している。

絶対に油断してはダメだ。最短、最速、最大の力を持って、開いている白衣の間、心臓を確実に破壊する。


能力によって身体強化された肉体が、ひと息に限界を越えた、速度、運動エネルギーをもたらす。


なんの躊躇も、迷いもない彼女の認識が、ほんのわずかな、少年の動きを感知してしまう。


それは否定ではない。彼女を受け入れるような、広げる、かいなの動き。


知っていた。それは幼い自分を向かい入れる、母の、父の、温かい抱擁。


どんなに変異しても。厚い憎しみが覆っても、彼女の心の奥、さらにその奥の、彼女の根幹をなす真実が、軋みをあげ、全霊で、行動の否定を命じていく。


それが、爆発的なスピードで、冗談のように正確無比に心臓に向かう、ナイフの切先をほんの少しずらす。


ドシ、

致命傷は避けられた。

少年が冒頭のように、あらぬ妄想が出来ていたのも、こうして、即死が免れたからだ。

だが、それだけだった。


「グ、、、、ボホッ。」

激痛が意識を引き戻す。

人智を超えて加速した壮絶な運動エネルギーはそのまま

ろっ骨を砕き、肺を切り裂き容赦なく、少年の身体を破壊して消費されていく。


バキバキ、メキメキと嫌な音を立ててもつれ合う二人。

少年が立っていられたのはある意味、奇跡だった。


「リ、、、、、ン、、、、」

開いたままの天文部、準備室に続く入り口に、立ち尽くす野川那智がいた。


彼女からはリンと少年が抱き合っているように見えるが、同時に、顔面蒼白で血へどを吐く少年と、おびただしい、出血が足元に、今もみるみる、血溜まりを広げていくのが見えていた。

                             

「リンーーーーーーーーー!!!!」

凄まじい激怒が、制御不能の破壊を目の前のプラチナショートの少女にもたらす。

野川那智の能力、人体を粉砕するに十分な爆裂が解放される。


グワガアアアッ、


机が、イスが、吹き飛び、棚のガラスが飛び散る。が、リンは生きていた。

少年の白衣が生き物のように、少女をおおてっている。


APDS徹甲弾を跳ね返す特殊高分子耐久ポリマーだ。


「いーんだ、、、、那智、、、友達を吹き飛ばすな〜。」

吐血で話し辛そうな少年。

爆圧で窓際まで後退しながらも、リンを守っている。窓際のプランターも滅茶苦茶だ。


「あ、、、、、。」

愕然とする那智。真っ青になる。自分は何を、なんて事を、、、、


「あ、、、、、あ、、、、、」

わかっていた。

彼の白衣の中で震えるリン。


多分、彼に会わなくても結果は同じだ。


能力は身に宿り、運命は狂っていく。


ではなぜ自分は、彼を憎んだのか。


「いいん、、、だ。」

震える体を抱きしめて、笑う。

「お前、、、は、オレの嫁だ、、、悲しい事も、辛い事も、なんでもぶつけていい。

、、、そんな、、、溜め込んだら、、、、しんどい、、、やろ。」


「あ、、、、あ、、、、」

ポロリポロリ泣き出すリン。


とりあえず、いけそうなので、キスしてみる。少年。


ドン、


瞬間、実際に、物理的衝撃を伴って

冬木リン、彼女の能力がオーバーロードしていった。


眩い光に包まれ、次の段階の力が解放されていく。


眼下に巨大な弧を描くエメラルドブルーの地球が見える。

漆黒の遠い彼方から、光がさして来る。夜明けだ。


拡大する彼女の認識に巻き込まれ、こんな映像が見えいるのだろう。


二人は成層圏、中間圏、熱圏、を超えて、外気圏に存在した。


プロビデンス サーチ


発現したその力は、受信型テレパス最高峰の能力だ。

世界中、どこの誰でも認識、サーチが出来る。他人を、人間を、言語、人種、主義、思想、関係なく、誤解なく、理解できるのだ。


一気に夜の部分へ移動する。点在する街の灯りが凄まじいスピードで、次々とズーム、クローズアップされていく。

その度に、人々の喜びと悲しみ。生と死が、繰り返される人の営みが、万華鏡のように交錯、展開していく。


「すごい、、、、、、」

つぶやくリン。


しかし、そんなモノはオマケで付いてくる、オプションのようなモノに過ぎない。


「人を正確に理解、認識できる、、、、リン」

隣の彼女をうながす。

「それは、遠い、記憶の彼方の人達でも、だ。」


「、、、、、、、」

理解する少女。


冬木リンは時を遡り、彼らの元へ向かう。懐かしい二人の元へ。


とある寒い冬のある日、

岩手県、盛岡市の自宅に三人はいる。

フローリングにカーペットにコタツ。うち、二辺をコーナーローソファーに囲まれている。

その一角に母と一緒に座る、子供のリンは、泣き疲れて眠っていた。


友達とのケンカが、原因だ。目覚めたばかりのテレパシーによるトラブルだった。


その少し前、引っ越していくオレに、リンはいつまでも、友達と、頬にキスをしてくれた。

その時、オレの増幅能力が、彼女の潜在能力を目覚めさせた。


キスの事は、両親にも秘密だそうだ。

隣の高校生のリンが教えてくれる。


フワリとしたプラチナのロングヘアー、妖精のような母が、となりで眠る子供のリンの頭を撫でる。

「大丈夫かしら、、、、どうして、この子にこんな能力が、、、」

心配そうな彼女に、コタツの向かって左で、何かノートパソコンで作業をしていた、細身の度の強いメガネの父が答える。

「大丈夫だ、日本にもいずれアルカができる。きっとこの子の未来はあかるいよ。」


この二人の会話は、浅い睡眠状態の子供のリンが、無意識に能力によりトレースしていたものだ。

「でも、、、、」

家を預かる彼女には、周囲からの心ない、色々な声が入ってくる。

国からの莫大な援助金が原因だ。

「能力も何も、いらない。この子が普通に幸せになってくれたら、、、、」

頭を撫でる彼女の手に、重ねられる細い手。


「これはきっと、神さまの贈り物だよ。もしもボクらに何かあっても、この力はこの子を守ってくれる。幸福にしてくれる。

それに何よりも、ボクらはいつまでも、ずっと、この子の味方だ。」

やっと母親の顔が笑顔になる。


「そうね、、、愛してる。リン。」


暖かな団らんが、遠くなっていく。


とめどなく、止まる事なく、リンの頬を伝うなみだ。

その横顔はとても美しかった。


旅が終わろうとしている。


「優しそうな人たち、だったな。」

「うん、、、、、」


やわらかく微笑む、彼女の横顔は、現実のものとは思えなかった。


夢が終わろうとしていた。


部室練三階、超研部、


現実の肉体に帰還する二人、

「し、、、ん、、、」

自分を抱く、蒼白の少年を、ただ見つめるリン。

「よか、、、、、った、、、、な、、、、、リ、、、」

血が流れすぎた。肉体の損傷も深刻なものだ。そこで彼の意識は途切れた。


「あ、、、、あ、、、」

ナゾの白衣の装備込みで少年の体重はひどく重い。身体強化を放棄したリンでは、支えきれず一緒に膝をついてしまう。

「しん、、、、し、、、、」

彼女の腕の中で、冷たくなっていく身体。


「いや、、、、、いやああああああああーーーーーーー!!!!」

叫ぶ彼女の傍らに、那智がいる。


「落ち着いて。リン。」

「那智、、、助けて、、、しんを、、、助けて!!」

恐慌状態の少女


「大丈夫、まかせて。」

揺るぎない、確固たる決意と意志とともに、答える那智。


コポ、ポ、、

医療カプセルの中、細胞活性培養液の中で眠る、少年。

体内には大量の医療用ナノデバイスが投与されている。


ここは、天宮学園第一高校、保健室、野川智由保険医が管理する、なぜか、アルカでもトップクラスの設備を誇る医療機関である。


「どう、、、なの?智由姉。」

カプセルを覗き込み、尋ねる、那智


「学校では、先生!」

こんな時に、と思う那智だが、姉には色んな意味で、頭が上がらない彼女だった。

「先生!野川先生!!」

「よろしい。」

満足げにうなずく、白衣の美女。長身、フワリとしたブラウンのロングソバージュヘア、

野川智由。

「大丈夫よ。ギリギリ間に合ったわ。すぐに、回復するわ。」

「ホント!、、、よかった〜〜〜ありがと〜〜〜智由ね〜〜〜〜!」

心底ホッとした那智が、姉に抱きつく。

「はぁ、、、」

仕方がないとため息する智由。


実際のところ、この校医が存在しなかった場合、少年は死んでいただろう。

これほど酷くはなかったが、先だっても彼は半身不随で担ぎ込まれている。

「そう、ポンポン死にかけるなって、こいつに言っときな。那智、、って、どこ行くの?」

にんまり笑う那智


「野暮用!」

元気いっぱい飛び出していく。


後日、

中央病院に移された、少年が意識を取り戻した。

刃物で遊んでいたら、転んで刺さった、


と言う彼の供述により、事件性は無いものとして処理される事になる。

あらた生徒会長は、苦々しく笑っていたらしい。


さらに、その後、


大抵の物はそろう、学園のショッピングモールで、プラチナのショートボブの少女が、

プリザーブドフラワーを買っている。


たまたま彼女を見かけた、瀬里奈副会長たちが、声をかける。

「熱心ね。リン。またお見舞い?」

当然だが、彼女たちは、事の真相を知っている。


瀬里奈の問いに、コクリとうなずく少女。


「気にする事は、ありませんよ、リンさん。自業自得!あんな変態、トドメをさすべきです。」

けっこう辛辣な、よくわからない、フォローをする椎名 葵。

「そうですわね。試しに、むかし彼の心を覗いたことがあるけど、しばらく、男性不審になってしまいましたわ。」

発信に特化しているといっても、彼女レベルになると、心の表層サーチくらいは可能だ。


「副会長は、、、、知らないだけ、です、、、ほんとの彼は。」


聞く耳持たない、瀬里奈

「あなどらないで、いただきたいですわ。リン。私のサーチだって、それなりに、、、」

「お嬢様、、、、!!」

信じられないものを見たように、瀬里奈を揺する、葵。

「な、、、、なんですの?葵。」

「今、、、リンさんが、、、、わら、、、、」


「おーーーーーい!リーーーーーン!!」

そこへ、にぎやかに、なにかを抱えた野川那智が走ってくる。


「ア、、、、ル?」

どうやら、それが彼の名前らしい、リンの口から、こぼれる、名前

「ミ〜〜〜〜。」

那智の持つペットキャリーから顔をのぞかせる、イリオモテヤマネコの子供。


ため息する瀬里奈。

「大変でしたのよ。本来なら即、処分だったのに、どこかの困った人が、アルも被害者だって、この子が保護された、四課に殴り込んだのよ。」

「えへへ〜〜〜」

なぜか得意そうな、那智。別に褒められているわけではない。


「冗談じゃなく、周辺一帯、壊滅させそうだったので、仕方なくアルカの研究所で、この子を再調整させました。もう普通のネコちゃんですわ。」


簡単に言うが、これは、彼女の権力が尋常なものでない事を物語っている。


「国の認可もとりましたわ。はれてリンの、、、ネコちゃんですわ!」

「お嬢様、、、、」

また、自分のモノにしたいと言いださないか、心配な葵。


「ほれ〜〜〜ご主人様だぞ〜〜〜。」

カゴを渡す那智。元気にあばれる子ネコ。


「ありがとう、、、、副会長、、、ありがとう、、、那智。」


「リ、、、、、、」

絶句する瀬里奈。彼女ははじめて、やわらかく、微笑む少女を見ていた。


冬木リンは、笑っていた。


END

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