第12話 過去

部室練3階、超研部(仮)


部室にもどると、意外な人物に出会う事になる。

ポニテのみず希しずくとお茶している、プラチナショートボブの冬木リンだ。


「リンさん、アザ〜〜ス。」

違和感を感じながら、彼女に手をふって、次にしずくを手招きする。


「どうだった?風紀委員、何かわかった?ちょっ、、、、」

天文準備室の方へ彼女を、連れ込む。

「リン。どーしたんだ?」

小声でささやく。

「どうって、、、近い〜〜〜!!」

少年を押しのけるしずく。

大衆の面前でチュ〜した仲なのに。冷たいぜベイビー(バーチャルだけど)


「部室の前の廊下に立ってたのよ。」

「立ってたって、、、」

ネコの手も借りたそうな風紀委員に、そんなヒマがあるように、思えない。

それにリンはズルしてサボるタイプでもないだろう。


「様子が変なの。何かあったんじゃ?」

「ああ、、、って、ところでしずく。」

「はい。」

「なんで、お茶できてるの?」


「何でって、、、ああ!そういえば!」

そう、しずくのティーセット。調理道具は、まったく部室荒らしの被害に遭っていない。


考えてみれば、友樹のパソコンは、不自然に見えないよう、ついでに荒らされていたように見える。

犯人はここの内情に詳しい。


そして、那智には伝えていない事実がある。

徹底した、現場鑑識活動の結果、犯人の指紋は、すでに採取出来ているのだ。


問題は、アダム、3層のデータベースにアクセスできないこと。

Aクラス以上の能力者のデータは、国家レベルで厳重に管理され、ハッキングはかなりのリスクがともなう。やってみるのは、最終手段だろう。


つまり、ここに詳しい、Aクラス以上の能力者が犯人という事だ。

(ちなみに、しずくは除外する。Dクラスだった頃の指紋データが保存してあったので、照合済みだ)


「う〜〜〜〜ん。」


魂が抜けたように、紅茶を飲んでいる、リンの横顔が見える。


「しん!キミ、まさか、リンさんを、、、!」

ありゃ、そんなに、疑わしそうに見てたのか?

いや、それにしても、何でわかる?


「いや。ぜんぜん。」

マズイ

「疑ってる、、、彼女に何かしたら許さないからね!!」


何で人の行動をこんなに的確に予想するんだ。この地味子さん。

とはいえ、リンの指紋、採取するけどね。


しかし、この可憐で、無口な少女を疑うのは、さすがに、気が滅入る。

色々やる前に、少し、調べてみようと思う。


ところで、いつ、しずくはリンと仲良くなったのか。


なんで、そんなに庇うのかもわからない。

ネガティブキャラ同士、気が合うのだろうか。

ああ、スタイルも、、、、、

胸を凝視する視線に気づかれた。


バシン、

「セクハラ!!」

たたかれた。


一方、本校舎3階、風紀委員室前の廊下


「ン〜ムムム。ヌ〜〜。」

変なハミングをしながら窓際で、携帯をいじっている少女

しんのアドレスゲットが、けっこう嬉しいらしい。


もう、校舎にもグランドにも生徒はまばらだ。すぐに日が落ちる。


「野川さん。彼氏?」

「びヒャア!」

奇声をあげて、携帯をジャグリングする那智。

「ち、違います!」


クスクスと笑ってる先輩の風紀委員たち。

「早く帰りなさい。閉門だよ。」

「誰か待ってるの?」


「ええ、、と。リンを。」

ここなら、すれ違いはないし、廊下には、リンのロッカーもある。今日はまた、子猫を見せてもらう約束をしていたのだ。

「え、、、、リンさん。だいぶ前に帰ったはずよ。」


「ホント、、、ですか?」

どうなってるのだろう。最近、様子が変だし、連絡もつきにくい。このまま寮に押しかけようとも思ったが、今日は遅すぎる。あきらめて、帰るしかないだろう。


「野川さん!」

「那智さん!お帰りですか!一緒に、、、」

突如わらわら物陰から現れる、男子生徒たち。


「は〜〜い。最終下校時間ですよ〜〜〜。帰宅しましょう〜〜〜。」

有無を言わさず、まとめて連行していく、風紀の先輩達。実に手慣れている。

「まだ、湧くのか。こんな連中。」

「那智。気をつけて帰りなさいよ〜〜」

手を振っていってしまう。


とうの少女は、上の空だ。

想像の映像だが、

ネコとリンが遠くに去って行く。

「子猫〜〜〜〜〜〜!」

そういえば、まだ名前を聞いてなかった。


「う〜〜〜〜。ひどいよ。リ〜〜ン。」

先に帰るなら、連絡して欲しかった。

帰り道、ショートカットして帰ると、結構人通りの少ない河べりを歩くことになる。

夜は少し不気味だ。

まあ、近道しなければいいのだが。


京葉線の下を降り、緑地公園を抜け、複雑に絡む川の支流を渡っていく。暗い駐車場の先に柵に囲まれた、変電施設、鉄塔が建ち並ぶ。

ひどく、淋しげで、薄暗い。今にもなにか、なにかが、、、、


知らず知らずに、歩みが早まる。息が上がる。心臓が早鳴る。塗りつぶされた不安に、後ろを振り返った瞬間、高架の影から、男が現れた!

コートの前をはだけて、、、、、


「キャアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!!」

「ウハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーー!!!!!」


ズゥドドドドドドドン、ドドドド!

那智の爆裂が容赦なく炸裂する。


バラバラと砕けるアスファルトとともに、白衣の少年がひっくり返る。

「変態!変態!!ヘンタイ!!!、、、、あ!ヤッパ変態!」


「ウハハハハハ!夜道にひとりは危険ですよ。お送りしましょう。セニョリータ!」

ひっくり返っていても、結構元気な山下しんだった。


「ビックリさせないでよ。」

立ち上がる少年を見て、胸を撫で下ろす。

ちゃんと手加減出来たようだ。


次に率直な疑問が湧く。

「なんでわかったの?道、、、、」

自分の帰宅路だ。当たり前のように待ち伏せする少年。


「当たり前だろ。一時期、生徒会、風紀委員と敵対したんだ。主要メンバーの行動パターンは、調べておくだろ。」

「あんたね、、、、」

頭痛がする。当然のように何を言っているのか。

「なんだね、ここの連中、危機意識が足りてないって言うのか。帰宅路や行動がパターン化したら簡単に待ち伏せされるんだぞ!」

「はあ、、、、、」

どうもこいつは、本気で言ってるらしい。


「瀬里奈Sフィールズの、でかいリムジン!これもバカの象徴だ。VIPがどこにいるか、宣伝してるようなもんだ。登校ルートもワンパターン。狙ってほしいんかい!!」


とても、痛々しい人なのだが。まあ、一理あるような、気がしなくもない。

おとなしく聞いてると、だんだん乗ってきたようだ。


正面、左手に橋が見えてくる。2車線の道路が交差している。


「はい、野川君。前方交差点において、注意することは?」


なんだろう。リンの原付の問題集を、見せてもらった事があるが、そんな感じだろうか。

「えーと、一時停止して、車両の確認、かな。」

特に右側には、路線の高架が立っていて視界を遮っている。


「はい。減点です。」

「なんでよ!」

「前方に車が見えますね。」


確かに白い大きなワゴン車が、止まっている。

「エンジンかかってるだろ。」

そう言えば。人がいるのだろうか。

「アイドリングしている車には、不用意に近づかないように。簡単に拉致られ、誘拐されます。」

「え~~。」

路駐してただけで、犯罪者扱いされたら、たまらないだろうが、聞いたことがあるような気もする。


「あれは、バンタイプですが、犯行に利用される一番多いのは意外にも、セダンタイプです。

音楽を聴いたりスマホなど、ながら歩きの女性が狙われるようです。気をつけるように。」


「う、、、うん。わかった。」

「、、、、、」

彼女の場合、いらん心配とか、反発するとか思ったら、聞き入れたようだ。意外と素直な性格なのだろうか。

なにか、モジモジしている。

「心配、、、、なんだ。それで、、、送り、、、に?」

それで思い出した。

「そうだ!無駄話してる場合じゃない!リンの事を聞きに来たんだ!」

「リ、、、、、」

固まる少女

「あっそう!」

スタスタ行ってしまう。突然、不機嫌になる。ワケが分からん。


橋を渡って、川沿いの右の道を行く。こちらは、若干広めの道路だ。

通行人はほとんどいないが。


「様子が、おかしいんだ。何か知らないか?」

歩みをとめ、ため息する少女。

ユックリ流れる暗い支流を見つめる。


 「わかんない。様子が変なのは、知ってるけど、理由は不明よ。」

一連の事件とは、別の苦悩の影が端正な横顔をよぎる。

相当仲はいいらしい。


彼女から、少し離れて、川を隔てる金網に白衣の背を預ける。

「リンもオレのヨメだ。昔と今、なにがあったのかな。」

最近とは別の、

彼女の変化の理由を聞いている。那智は答えてくれるだろうか。


ジロリとコチラをにらむ。

「ほんとに、、、心配してんだね。」

ウソだったら大変な事になりそうだ。

「もちろん。

オレのヨメに対するロイヤリティは、文字通り、地球より重い。信じろ。」

探るような少女の瞳が、迷いに揺れている。

そして、

「、、、、、、、わかった。」

意を決して那智が、頷く。


ポツリとポツリと語られるリンの半生は、想像以上に過酷で悲しいものだった。


両親が病死して、死別した後、リンは親戚たちの間で、たらい回しにされる事になる。

当時でもAクラス能力者には、国からの莫大な援助金がでた。

たとえ、善意で彼女を引き取る人間がいたとしても、それは、無視できない事だ。


その頃、リンには自分の能力が制御できなかった。建前と本音。その全てが彼女に流れ込む。人間関係など維持、構築などできるワケがない。


いっそ、施設に預けられた方が、まだ救いはあっただろう。


しかし、親戚たちは、彼女を手放さず、拘束しては破綻を繰り返させた。数年後には明るい少女の面影は一切なくなり、無口で無表情、感情のない子供が出来上がってしまう。


「そして、最悪な奴が、リンを引き取った、、、、、」

ブラウンのフワリとしたセミロングが彼女の表情を隠す。バキバキと奥歯が欠けそうなほど歯を食いしばっている。


「ネグレクト、、、ただ、部屋にリンを閉じ込めて、ロクな食事も与えずに何年も監禁したんだ。その男はただ、自分がギャンブルや豪遊するために、ずっと、ずっと、、、、、薄ら寒い何もない部屋にずっと、、、、、」

掴む金網はひしゃげ、暗い支流の水面が彼女の怒りで波立っていく。

「ある日、酔った男がリンの部屋に押し入った。

そして、彼女を犯そうとしたんだ、、、、皮と骨だけになった、子供をね。

助けなんかない。だから彼女は、ただ、能力を暴走させていった。


サテライト サーチ。


世界中の人間の思考をスキャンし、読み込んでいく。

個人のキャパシティーを越えた情報は能力者自身を破壊する。

彼女は自分で自分を壊してしまったのよ。

まあ、、、ついでにその余波で、そのクズ男も意識不明で、今も病院に入院中だけども。


残念だよ。そうじゃなきゃ、私が八つ裂きにしてやるのに。」


むしろ静かに宣言する、野川那智。彼女の怒りは、誰にも推しはかれはしないだろう。


静かにマンションの明かりが、かわもに揺れている。


「その後、リンはアルカに保護された。

精神疾患の治療を続けてた、中学2年の頃、こっちに越してきた、リンに私は会ったんだ。少しずつ、少しずつ仲良くなって。ほんとは、とっても優しい子なんだよ。」

嵐のような怒りをなんとか、抑えて、彼女もクルリと体を回し、金網に背をあずける。


「皮肉なものね。壊れた心が、自閉症、、、、スペクトラム症が彼女の能力を押さえて、コントロールできるきっかけになってさ、

少しずつ、人との距離を保ちながら生活できるようになっていったんだ。」

遠く、電車の走る音が聞こえる。


「でもね、、、リンが言ってた。

記憶がところどころ、かけてるんだって、、、、

そして、

両親が自分を愛してくれていたか。霧のように霞んで思い出せないって。

それが一番悲しいって。」


体から力が抜けていく。なぜ自分は彼女の事を話してしまったのだろう。

この事は、姉としか話した事はない。それを、よりにもよって、こんな、、、、


でも、後悔と同時に、不思議と、唯一無二の正しい事の様な気がしていた。


しかし、、、


「なるほどな、」

ポツリとつぶやく、白衣の少年。

「リン、オレを恨んでるかもな。」

「なに、、、、を、、、、」

声が出ない。


「多分、オレとの接触で、彼女の能力は目覚めた。そのせいで苦労するハメになった。だろ?」

このバカは!この、、、

「バカにするな!!リンの能力は、そんな中途半端な力じゃない!あんたに会ってなくても開花した!そんな事が判断できないと思ってんの!リンを侮辱すんなら、絶対許さない!!もう最悪だよ!!せっかく、、、、この、、、バカしん!!!」


烈火の如く怒る少女は、嵐のごとく走り去ってしまった。

まあ、バカだってのはよくわかってる。


ただ、どうしても、考えてしまうのだ。

もしもオレに会わなければ、彼女はそんなクソみたいな目にあわなくてすんだのではないか、と。

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