第3話 ファースト マッチ

(、、、、、、気付かれました。)

淡々と状況の説明が、携帯から流れる。

「さすが、アダム。か。」

クルリと窓方面に向きを変えて、くつろぐ、あらた。


(アダムではありません。犯人です。)

携帯を落としそうになる、長身の男。

彼を知るものが、この場にいたら、目を丸くしただろう。

死んだような、濁った瞳に走るのは、紛れもない、驚きの感情だった。


「状況を、教えてくれ。」

リモコンで会議室をロックする。携帯のモードを全方向モニターに切り替え、音声はワイヤレスイヤフォンで対応する。

彼を囲むように、中空に電影モニターが、いくつも配置される。


カプセルの少女のバイタル、創薬基盤研究所のデータ。さらに、アルカ中の関連施設から、総動員している、電力、マシンパワーの数値。

そして、立夏とアダム。盗撮犯をわかりやすく配置した、相関図が表示される。


(犯人はまず、私の追跡を躱すためダミーデーター、妨害処置を開始。

と同時に、私がアダムに開けた穴を利用。時限式、リモート式、幾つものウイルスを侵入させ被害を拡大させています。さらに、アダム第二層のセキュリティーの分析をしている模様。)


ケラケラ笑う少年を思い出す、あらた。

苛立っているようだが、自覚はない。


「止め、、、」

(一方で、)

説明が続く。

(アダムの侵入口から、こちらのシステムに潜入。現在、グリッドしている、周辺研究施設が次々とダウンしています。)

たしかに、モニタの相関図、立夏の周りの研究所が、ポツリ、ポツリとブラックアウトしていく。


「ふざ、、、、」

口ごもる、あらた。

冗談ではない。確かに犯人が警戒していたなら、侵入を察知する可能性は0ではない。

しかし、アダム、第一層を突破する立夏のオペレーションに対応するのは無理なのだ。

人間では。


だが、例外は何にでもある。特にこの街では。


瞬時に、認識を改めていく、あらた。想定外の事が、多い。

「犯人は複数なのか。」


これほどの、多方面からの、攻撃、防御は組織化された、グループでなければ不可能だ。


(いいえ、オペレーションのアルゴリズム。パターン。ロジック。あらゆるモノに共通するものが多すぎます。オペレーターはひとりです。)

当たり前のように、否定する、立夏。


「、、、、、、、」

あらたはもう、驚く事をやめた。


同時刻  超研部(仮)

「ギャハハハハ!ヤッパ、あっっっめ〜〜〜〜んだよ!防御が、スッカスカじゃねーーか!」

まあ、全能力をハッキングに注ぎ込んだ立夏は、見事にスキを突かれてしまっていた。

「もうすぐ、、、もうすぐだよおお。ウサギちゃん!!穴ぐらから、ほじくり出してまっ裸にひん剥いてやるうう〜〜〜」

血走る眼、泡を吹きそうに興奮する少年。


「、、、、、、、、、」

側から見ると、とても気持ちが悪い。付き合うの止めようかと思う友樹。


「ウハハハハハ!」


タイピングがとてもうるさい。

彼からしたら、身元バレも内職も、もう、どうでも良くなっていた。


アダム、第一層の突破。

前人未到の奇跡を見せた人物の、情報が、どうしても、死ぬほど欲しかった。

もう、訳も分からず、パソコンにのめり込む、しん。


同時刻  生徒会 会議室


中空の電影モニターにレッドアラートが増加していく。

脱力したように、腰を下ろす、あらた。

「立夏。状況を予測してくれ。」

それでも口調はいつも通りだ。


(犯人が私にたどり着くのは、阻止できそうですが、そろそろアダムが事態を収拾し、こちらの探索に移る可能性が、あります。)

当然だろう。

(現状での私の存在の発覚は、計画、遂行の妨げになるでしょう。いかがしますか)

わかっている。しかし、珍しく躊躇する、あらた。

一白の後。

「盗撮犯の追跡は中止だ。足跡を残すな。すべて、シャットダウンしろ。」


(わかりました。)

データの撹乱と共に、次々とアクセスの切断を始める、立夏。


(残念。もう少し彼と遊んでみたかったですね。)


周囲の電影モニターが次々と消えていく。うるさいアラームも一斉に途絶えた。

川崎方面の対岸が夕日をバックに美しいシルエットを東京湾におとす。

オレンジ色に包まれる会議室に静寂が戻っていた。


しかし、醒めない悪夢の中に醒めてしまったように、硬直している、あらた。

アンバーTYPE01の最後の言葉。

それは、まるで、人間のような感情が溢れていた。


昔、彼のそばにいた、大切な人間の声、そのものだ。


夕日を浴びて長く、延びていく影。

やがて辺りは闇に閉ざされていく。



数日後、放課後。超研部(仮)


目の前の長テーブルの左側、パソコンの前に突っ伏している、茶髪メガネが見える。

とても、鬱陶しい。


「あああ〜〜〜ヤダヤダヤダ!も〜〜イヤだ!」

突然頭を上げ振り回す。

「どした〜友樹。木更津。嫌になったか〜〜」

一応聞いてみる、しん。


「黙れこの変態!!この部だよ!ここ!」

両人差し指で机をタップする友樹。

「なんだよ。こんないいくつろぎ空間、ないだろ。いつだって、休みたい放題だ。」

友人を宇宙人を見るようにながめる。


「女だ!オレは女子とキャッキャウフフしたいの!」

今度はゴンゴン机にヘッドパットする友樹。

「いいか、しん!ここの状況は、青春の季節の1番まずい状態なの!」

「はあ、、、、」

青春の季節って、、、、痛々しい事を言い出す友人を憐れむ少年。


「女子と接点の無い部活なんて、なんの意味もないの!いないのに、どうやって、仲良くなるの!どうやって青い春るの!」

血を吐くような熱弁。

いや、春るって何?

「4割打者だって、打席に立てなきゃ、ヒットは打てないの!オレは打席に立ちたいんだよお〜〜〜!!」

血の涙を流す友樹。後ろに上体をひねり、両手を広げる。

野球、好きなのか?


「う〜ん。女子ならしずくがいるだろ。」

よく分からんが、聞いてみる。


「本気で言ってんのか。」

グリンと上体を戻す友樹。目がすわっている。

「いいよ。お前みたいな、ぶぁか。死んでろ!」

また、突っ伏してしまう。

「大体あの娘、天文部だろ!それに、最近、全然、遊びに来ないし!」

グチる。グチる。


「そういや、、、」

最近さっぱり、しずくの姿を見ていない。どうしたのだろう。

「ぶぁ〜〜〜〜か!人は失くしてはじめて、大切なモノがわかるのさ!ザマアミロ!」

だんだん、面倒くさくなってくる、しん。


「でもな、オレだって、まだ夢を諦めちゃ、できねーんだよおー!」

泣きの演技に入る友樹。もう、訳が分からない。

「春には桜を、夏には海を、秋には枯れ葉を、冬には雪を、いかしたあの娘とエンジョイしたいんよおーーーーーー!」

「がんばれ〜〜」

手を叩いてやる。

「黙れ変態!」

人を指差すな。と思う。

「お前みたいな変態と違って、2次元だけじゃ嫌なんだよお!オレはまだリアルに夢を見たいんだよおお!」


ブワサッ、

大きくひらめく、白衣。机を飛び越え、長テーブル、しずくの席に着地する、しん。

意外に運動能力は高い。

「ウハハハハハ!バカめ!随分、舐めた口をきくな。友樹!」

唖然とする、友樹。机のパソコンが振動で、グラグラしてる。

危ないだろ。このバカ。


「我が愛!我が希望!そして我が野望の一端を知るがいい!」

携帯のモニターを全方向モードで展開する。

おびただしい光の幕が、部室一杯に広がる。

昔の記録アーカイブで見た、ディスコのミラーボールとかいうのの光の乱舞を思い出す、友樹。


どこかの、ネイティブの人達の踊りを舞う、しん。こいつは、微妙に間違っている。


「げっ、、、」

光のピースは、画像データだった。戦慄する友樹。どれもこれも、年端もいかない幼い少女達だ。

「こぉのーーー変態!ロリコン野郎ーーーー!」

さすがにまずい。シャレになってない。炎上待ったなしだ。


「フハハハハ!ロリは否定はしないが、間違ってるぞ、友樹!この子達はオレが昔会った事がある、少女達だ。」


いや、否定しろよ。と思う、

データをよく見ると、嫁13号。嫁28号と謎のナンバリングがされている。


「気が付いたか!これぞ我が野望!出会った女子全員、嫁にしたら、素晴らしな!

、、だ、多分」

「なんだ、多分って?」

「わからん。記憶が無いんだ。だが、親に聞いたところ、オレは実際彼女らに会った事があるらしい!」


ひとり何枚かのデータがあるようだ。位置情報も記載されている。

全国津々浦々、こいつは引越しの多い奴なのか、日本くまなく網羅している。


いや、チラホラ海外まで。


そういえば、以前しずくちゃんに聞いた事がある。こいつの父は科学者で、世界中を渡り歩いているらしい。


「昔から、変な奴だったってわけか。」

なにかの、執念でもなければ、この人数はありえない。子供時代でなければ、犯罪になっていた可能性もある。


「愛だな!愛!!」

また、奇妙なポーズを決める、しん。

「今もその情熱は、我が胸に宿る!盗撮商売もその一環!被写体への愛がオレをかきたけるのだ!

彼女らは俺の嫁!!その愛を広めたい!オレは愛を伝える伝道師なのだっ!」


こいつは、ヒモかポン引きでも目指すのだろうか。こんな、社会不適合者は、ここで始末した方がいいかもしれない。


「ウハハハハハ!それでは、オレはこれから、紳士達の集会に出掛けなければならない!さらばだ!我が友よ!」


高笑いしながら、行ってしまうしん。


「帰るか、、、、」

なんの集会か知らないが、どうせろくでもない事だ。

どうでもいいが、それよりも、本当にしずくが最近ご無沙汰で、寂しい友樹だった。


学生が学区内から南下し、繁華街に向かう場合、区内を走る新都心環状線を使うのが早い。

オフィス街、行政区を横切るルートは中央、巨大なターミナルタワーを見物できる人気路線だ。

繁華街の、中央リゾート駅は、京急ライナー及び、リゾート区域を回る、ゆんゆんモノレールと接続する、一大観光地になる。

リゾート区域には、マリンリゾート、スパリゾート、ホテル、商業施設、レストラン、劇場、映画館、アミューズメントパークとあらゆる設備があるが、メインは、日本最大の規模を誇るカジノ施設だろう。

関東近隣はともかく、羽田、成田からの利便性の良さから、莫大な海外からの観光客の集客を誇る。


その中の、繁華街。とある、複合娯楽ビルの8階、カラオケルーム

少年が到着した時、すでに他校の変態紳士のリーダー達は全員、集まっていた。


照明を落とした室内に、はつらつと弾む女子バーレー部員。

もちろん、現実ではない。3Dホログラムだ。

スラリとした長身。跳ねるポニーテール。

彼女は天宮第二学園、人気ナンバー1。電撃使い。Aクラス

日向まこ。16才。

デバイスレスでレールガンを、ぶっ放したりはできないが、異名の雷神トールの名の通り優秀な能力者だ。

映像はもうひとつ、

鮮やかな真紅のコスチュームで躍動する、ラクロス部の少女。

天宮第三学園のエース。野川那智が登場するまでは、炎熱系最強と目されていた、16才。

王城たまき。火鞭使いだ。気位の高い、美少女お嬢様。そのムチに打たれたい、変態紳士達は後を絶たない。


「ウハハハハハ!見事だ!諸君!相変わらずのクオリティー。驚嘆の念を禁じ得ない!」

大笑いの少年を迎える、ビア樽のような男。天宮第二学園、東のリーダーである。


「いやいや、山下氏の伝説の水着生徒会に比べれば、とてもとても、ゼイゼイ。」

タップリついた贅肉が気管を圧迫するのか、喋るだけで苦しそうだ。とても、長生きできそうもない、太く短く人生を謳歌する変態仲間だ。


天宮第三学園、西のリーダーは、中肉中背、ボサボサ頭のアーミーコート。特徴は、常に装着しているガスマスクだ。どうやって、職質をかい潜っているのか謎の多い、各リーダーも素顔を知らない、お宝スナイパーだ。

「コーホー。」

そして、ガスマスクが持つ携帯が表示する立体映像の黒い石板。

サウンドオンリーの赤文字がオシャレな、天宮第四学園、南のリーダー、匿名希望だ。

彼にいたっては、氏素性、性別も定かではない。ボイスチェンジャーの音声は宇宙人風だ。


『全員ソロッタワネ。ソレデハ、緊急ノ懸案事項ニツイテノ、審議ニハイリマショウ。』

匿名希望がお姉言葉でミーティングを始める。

こいつは、油断すると男の映像ばかり集めてくる、困ったオカマだ。いや、性別不明なのだが。

ちなみに、オレは、北の白衣のリーダーで通っている。匿名希望がしつこく椎名葵の映像のリクエストばかりするので、少しウザい。しかし、意外と需要が多そうで、一考の価値はあるかもしれない。


てなことをやっている商業区域で、血相を変えて風紀粛正に励んでいる少女達がいた。

野川那智と冬木リンである。

風紀の巡回パトロールは学園で推奨される、アクティビティだ。


天宮の制服と風紀の腕章は、それだけで、恐るべき防犯効果、犯罪抑止力を発揮する。

彼ら、彼女らにちょっかいを出そうとするのは、モグリの馬鹿か、決死の覚悟のプロフェッショナルぐらいだ。普通はドラゴンでさえ、尻尾を巻くとされている。


「あった!あのビルの8階!見える?リン。」

ギリギリと歯ぎしりしそうな、那智。メインストリートからは多少外れているが、人で賑わう、シネコンやボーリング場を網羅する、複合商業施設の奥、ゲームセンター、フードコート、カラオケ、ビリヤードが入る小規模の古いビルがあった。


丁度この地区の巡回に来ていた那智達が、迷子の保護などをしていた時、第三高の風紀から、盗撮グループの集会の情報が入る。

最短で対応可能なのは、彼女達だけであった。急ぎ現場に急行。目標の確保を目指す。

本来、他校の援護を、待つべきなのだが、いかんせん、野川那智は頭に血が登っていた。


犯人のひとりに、小柄、白衣の容疑者がいる事は、風紀で周知の情報だ。


あのバカを助けたのを、大いに後悔する少女。吹っ飛ばして、東京湾に撒いてやる決意を胸に走る。


「確認、、、、不能。」

ポツリとリンがつぶやく。

「え、、、、、?」

これは、考えられない事態だ。

Aクラス受信テレパスの彼女が、この距離でサーチできないはずが無い。


以前、警察、特殊四課の知り合いから、超能力を阻害するキャンセラーの存在を聞いた事がある。

ESPジャマーは巨大な設備が前提で、日本では小規模なキャンセラーは最近やっと、導入されたばかりである。

そんなものを持つとしたら、相当資金が潤沢なテロ組織ぐらいだそうだ。


「上等じゃん。」

ギリ、と凄まじい笑顔を浮かべる少女。

テレパスは相性が悪いが、本来キャンセラーが制御できるのは、Bクラスまで。

もうひとつの方法を使わないとAクラスには通用しない。



さらに稀有のAAAである彼女には、力押しで軽く突破可能だ。


「行こう!リン!」

突入を開始するふたり。


8階 カラオケルーム

「それは、本当なのか?」

がくぜんとする少年。

「う、、、うん。ゼイゼイ。」

「コーホーーー。」

『本当ナノヨオ。シ〜ン♡』

各リーダー達が肯定する。


彼らの話を要約すると、こうだ。

天宮第一学園の女生徒達のR指定データーが、我らの知らぬ所で、流通していると言う。


これは由々しき事態だ。我々のスペシャルなネットワークのモットーは、モデル達のポロリやチラリズムは、徹底的に排除。流通には乗せない事をムネとしている。

(個人で楽しむのは、グレーゾーンだ。)

なぜならば、モデル達への愛!それがなければ、愛の伝道師たる資格がないからだ!


「げえ、、、、」

絶句する、しん。

見せてもらった、エロデーターはどれも、見覚えがあるものだった。

一体全体どうなってるのか。


たん的に言うと、極秘、自分のお宝映像が流失、ダダ漏れになっている。と、言う事だ。


これは不味い。いろんな意味で。出元が知れれば、各リーダー達にも叱責されるだろう。

それよりも、なによりも我が嫁達に対して、申し訳が立たない。一生の不覚だ。


「ゆぅううううるっさっっんん!誰がこんな事おおおお!」

とりあえず、自分のデーターというのは置いておいて、怒りを爆発させる少年。

そんな記録を集めるヤツが悪いのだが。


ビーーーーーー、

突如、黒い石板の映像が、けたたましいアラームみ鳴らす。


『オホホホホホ。ソレハトモカク、不味イ事ニナッタワ。』

石板、匿名希望が笑う。

他人事のようだ。こいつが、こんな時はホントに、ロクでもない事になる。


『一階、エントランスニ、風紀委員ガ侵入ヨ〜〜第一校ノ、ナッチャント、リンチャンネ〜〜。ミンナ逃ゲテ〜〜』

この南の匿名希望はかなりの、ハッキングの腕を持つ。アダムのセキュリティー以外の防犯システムなら、簡単に掌握する。防犯カメラでの監視は任せて安心だ。

とか言ってる場合ではない。


よりにもよって、最悪なのが来た。風紀の炎鬼、怪獣、野川那智の通った後は、ペンペン草も残さず廃墟、もしくは荒野になるという。


アキバで苦労して、パーツを集め、製作したキャンセラーも何の役には立つまい。

まずは、皆を逃さなければならない。


「みんな、ここはオレに任せて先に行け!」


来たーーーーーーーーーーーー!

まさか人生で、このスーパーパワーワードを使う日が来ようとは!誰が思うだろうか!いや思うまい!(反語!)


「た、倒してしまっても、いいんだぜい。ゼエゼエ。」

サムズアップして、東のビヤ樽が笑う。さすが、わかってらっしゃる。


「つ、、、使え、、、、、」

西のガスマスクがマスクを外した!

オレの身元バレの心配だろう、ビックリだ。初めて素顔を見た。


釣り上がった三白眼の中で黒目がフラフラ泳いでいる。


『根性、見セタンサイ!シン!二人ハ、私ガ誘導スルワ!グッドラック〜♡』

どこか面白がっている、匿名希望が二人を非常階段へ誘導して行く。


さて、開戦だ。



「こんのおおおおお!」

建物内の階段を、駆け上がる那智とリンのふたり。

今は4階くらいか。

エレベーターが使用不能になっている。

偶然のワケがない。連中は、このビルの電気系統を掌握しているようだ。


当然、こちらに気が付いているだろう。焦りがつのる。

「なーめーるーなーーーーー!」

能力による身体加速行動に移る。


キャンセラーを使うという事は、相手に能力者はいない。そう思う。それが、僅かな油断を生む。

彼女は、階段に誘導されていたのを気付けない。


第六感というのは、観察力の賜物だ。普通とは違う異物を認識。違和感を意識表層に浮かばせる。


「那智、、、何か変、、、、」

加速しようとする少女を、懸命に止めるリン。


時すでに遅し。

バシュ、

ボ、ボ、ボゥ、


階段の所々に設置された、催涙ガスのボンベが、次々と炸裂する。

一面が一瞬にして、真っ白になる。

「な、、、あ、、、、!」

少女はなにが起きたか理解できない。出鼻を挫かれる。というヤツだ。

パニック状態になる。


かなり、炎症成分は押さえたガスのようだが、それでも、目に染みる。喉がむせる。

一面の煙は煙突効果により階段を駆け上がり、充満する。逃げ場はない。


踊り場にいたリンはともかく、一気に最上段に駆け上がった那智は、バランスをくずし、真っ逆さまに、階下に転落をする。常からの彼女らしからぬ失態だった。


(あれ〜〜なんか、やっべ〜〜〜!)

遅ればせながら思考がクロックアップ状態に突入したようだが、後の祭りだ。

視界はないは、方向感覚が滅茶苦茶だわ、もう、どうしようもない。身体強化しようが、踊り場に激突すれば、ケガの一つもするだろう。


観念して衝撃に備える。


グン、


その少女を何かの力が持ち上げる。訳の分からない身体操作が、彼女を定番のポジショニングにスッポリと収める。いわゆる、お姫さま抱っこだ。


ズドオン。

2人分の体重は結構足にくるのだろう。その白馬の王子ならぬ、白衣のガスマスクは泣きそうな声で笑う。

「ウハハハハハ!無様だな風紀委員!注意1秒、怪我、乾坤一擲。精進したまえ!また会おう!」

薔薇でも投げそうな、意味不明なセリフを残して去って行く。


「ま、、、まて!この変態!」

ごもっとも。

煙にむせる二人の少女を煙にまいて、逃亡に成功する少年。


モクモクと古い、複合娯楽ビルから立ち昇る白煙。

バラバラと逃げ出す人々。

消防車、パトカー、救急車、野次馬が集まり、あたりは、騒然として行く。


騒ぎは巨大な娯楽商業施設の、きらびやかなイベントの様に深夜まで続いた。

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