第2話 朝の時間

「嫌い・・・」


校門で待っていた彼女はそうとだけ言って、帰って行ってしまった。


(まだ怒ってる・・・)


僕は彼女の街頭に照らされた後ろ姿をただ眺め、追いかけようとはしなかった。



次の日。


僕は教室に着く頃には、決まって彼女、星宮はもう座についている。そして友達と楽しそうに話しながら、朝の時間を過ごす。


そして、僕もそうだ。教室に着くや否や友達が僕の席に集まり、談笑する。いつもの流れだ。


「なぁ吉英、今日の宿題やった? ちょっと答え見せてくれない?」


友達の山田がいつものノリで僕に話しかけた。


「いや〜、俺もまだやってない」


「おい、吉英。お前、頭いいんだからそんぐらいやっておけよ」


「それは関係ないだろ。何限目だっけ?」


「二限目の数学。あっ、あいつに聞くか土間」


(まただ。またこの流れだ・・・)


僕たちのグループでいつも話題にしてる土間。あまり人とは関わらないタイプで、今も必死に何かの勉強をしている。別に変に目立っていた訳ではない。だが、それがだめだったのかもしれない。


「あいつほんといっつも、カリカリ勉強してるよな・・・」


山田は土間をバカにするような言い方で言葉を口にした。


「ほんとだっっせよな」


もう一人の話相手の東堂が、山田に合わせてそう言った。


「あぁ・・・」


僕は心の無い相槌を打つ。


その時、一人の女子が吉英の肩を叩く。


「ねぇ、吉英くん。これなんだけどさ?」


「ほら、吉英行ってこい!」


二人が、僕を彼女のいる方へ背中を押した。


「どうしたの?」


いつも星宮と一緒に話している女子。その女子が、困った顔をしながら問題集を広げ、僕を頼った。


「これの解き方、吉英くんならわかるかなって?」


「そうだね。あっ、これ難しいよね。でもこの公式を当てはめると・・・」


「あっっっ、分かった。ありがとう吉英くん。吉英くんって、ほんとに優しいよね。頭も良くて、かっこいいし」


そういう彼女は、キリッとした目を向けて僕を見ていた。


「あ、ありがとう」


そう、彼女が言ったすぐ後に授業開始のチャイムが学校中に響き渡った。


「じゃぁね、吉英くん」


可愛く、その女子は僕に軽く手を振り自分の席に戻って行った。


僕も席に着き、横の星宮の様子を伺う。


可愛い女子から頼られ、褒められて浮かれていたのだろうか。彼女の横顔がとても冷たく、凛としていたからか、その温度差に心が締め付けられた。


ただ、彼女の横顔はどの誰よりも心惹かれた。














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嫌われた吉英と嫌いな星宮 @Esin

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