21

「だから、そんなんじゃないってば」

 我慢することなく、こみ上げた苛立ちを彼にぶつけた。いつまでたっても同じ台詞を繰り返されて、私もいい加減うんざりしてしまっていた。

 今日はハンバーガーもポテトも頼まず、ドリンクのカップだけが私たちの前にある。彼のコーラと私のオレンジジュース。ヨダカは不満そうにむくれた顔でコーラを口にして、何も言わない。同い年のその余裕が余計に私を苛立たせる。

「異常だのおかしいだのって。私、放っといてって言ったでしょ。私も剛史も不満はないの、ただ二人で生きてるだけなの。悪いことをしてるわけじゃないんだから」

 相変わらず、ヨダカは私たちの関係を共依存と呼んだ。このままでは良くないと、訳知り顔で諭すように言った。彼の台詞の中に母親や柊哉の顔までがちらついて、私は我慢ができなくなった。

「歳の差なんて今どき関係ないし、剛史の言動がヨダカにとって不満でも私には許容範囲なの。お互いに愛していて、理解し合ってるんだから、当然なの」

 愛してるなんて恥ずかしい台詞に羞恥を覚えないほど、私は興奮している。ヨダカはカウンター席の真正面にそびえる壁を、頬杖に乗せた顔で見上げている。細い首を反らせて、私とは対極的な態度で何かを考えている。その何かは、間違いなく私の気に入らない。

「共依存なんて、まるで病気みたいなこと言わないで。ヨダカは剛史に会ったこともないのに、私たちの関係を決めつけないでよ」

 知らない内に、めちゃくちゃなことを言っていた。剛史とヨダカが会って一番困るのは私に違いない。なのに、そんな台詞が出るほどに、私は彼の言葉や態度に腹が立っていた。

 私が更にまくし立てて、やっと一息ついて、オレンジジュースのストローを咥えた頃、彼は「分かったよ」と壁を見上げたまま呟いた。

「俺はもう、唯依とそいつの関係に口出ししない。二人は幸せで、悪い所なんか一つもない。全ては俺の勘違いだった。そう認識する」

 納得したというよりも、自分に言い聞かせる口調なのが気にかかったけど、私は頷いた。私たちは異常じゃない、お互いに相手を必要としている恋人同士に間違いない。自分が自分へそう言い聞かせているのに、私は気が付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る