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 ヨダカから受け取ったスマホは、クローゼットにかけたワンピースのポケットに隠した。洗濯物は全て私が洗って干して片付けているから、まず剛史に見つかる心配はない。

 同棲相手への隠し事について回る罪悪感を踏まえても、ヨダカとのやり取りは楽しかった。ツーエルのアカウントをもう一つ作成し、中古のスマホでログインしてメッセージを送る。ヨダカはあまりスマホに没頭するタイプではなかったけど、私も逐一チェックする暇はないから、丁度よかった。

 朝灯町に住んでいた頃、近所の友だちの家で、一緒に手持ち花火をした。その後スイカを食べて、庭の木に梟がとまっているのを見つけた。少し歩いた先の川ではホタルの光が舞い、見上げた夜空では綺麗な天の川が輝いていた。そんな取り留めのない思い出話を交わし、同じ時に同じ場所で同じ感動を覚えた相手の存在に、私は胸を弾ませた。

 けれど本命のアカウント、YuIの投稿も疎かにはできない。普段通りを装い、私はそちらにも定期的にログインし、作品をアップしてたまに写真も載せる。顔は出さず、メインは手作りの夕飯の写真。一人分には多すぎる大皿のおかずは、いわゆる彼氏の存在を相手に悟らせる匂わせ投稿。恋人のいる自分の生活はこんなに充実してますよと暗に訴えることで、男子も女子も水面下で戦っている。間断なく、日々優越と敗北を感じる。ネット環境は私たちに表現の自由と殺伐としたランキングを課している。広くて狭い不思議な世界だ。

 バスの座席で、私はふと一つの投稿に目をとめた。

 中学生の頃に親しくしていた自由子みゆこのアカウント。受験をしない私と自然に疎遠になった彼女は、嘗ては地味で目立たないタイプの女子だった。今は女子高生らしく、ホイップクリームたっぷりのフラペチーノや、友だち同士お揃いの格好をしてテーマパークではしゃぐ写真をあげている。天然パーマだった黒髪を真っ直ぐ肩に流し、眼鏡からコンタクトに変えたらしい彼女は、顔を隠すこともなく、どの写真でも満面の笑みを浮かべている。さり気なく写り込むバッグにはお高めのブランドのロゴが光っていた。

 確か彼女は一人っ子で両親が共働きだから、お金にも余裕があるんだろう。疎遠なはずなのに、私は彼女が弓道部員であることも、先月ライブに行ったアーティストの名前も知っている。レストランのテーブルで向かいに並ぶ食器から、恐らく彼氏がいることも。

 私は自由子にかなわない。

 輝かしい女子高生の姿に目がくらみ、私はツーエルを閉じた。あまりに眩しくて、目がチカチカしてしまう。羨ましいのとは近いけど少し違う、追いつけない焦りにも微妙に似ている、敗北感というのはダサいけどかなり近い。いつの間にか嘗ての友人と張り合っている自分の姿を、暗い画面の反射に見つけて気分が悪い。だけど、彼女のフォローを外すと、過去の楽しかった思い出まで失ってしまう気がして怖い。SNSなんて、始めからこの世になければいいのに。都合の良いことを考えている内に、バスは目的の停車場に到着した。

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