第2話「魔法使いの夏休み」
「あの、ありがとうございました……」
「喋り方が変わらなすぎて、ちょっと寂しいかも」
「あ、ごめんなさい……」
「いいよ、無理させたくないから」
私と
そんな共通があるのは知っていたけど、私たちの距離は同じクラスになってからも一向に縮まらない。
(ずっと、魔法使いだってこと黙ってたから……)
変わっていくものもあれば、変わらないものもある。
こうして、結翔くんのクラスメイトとして過ごす日々は変わらない。
ずっと続いていくと思う。
未来も、この先も、これからも、結翔くんのクラスメイトという関係は変わらない。
「
「おばあちゃんからの押しつけです……」
「ああ……古い人って、あの、魔女が来てるような真っ黒なワンピースが大好きだもんな……」
魔法使いは箒を使って空を飛ぶ。
夏限定の、短い時間の催しは、今年も物語を生み出していく。
職種は、全部で5つ。
暑中見舞いと朝顔の花を届けるメイル。
箒を使ってレースを行うアトレ。
箒で空を飛ぶ技術を競うコンペティ。
魔法を使えない人々に空を飛んでもらう体験イベントを開催するエクス。
空を飛んでパフォーマンス力を競うショウ。
「真っ黒なワンピースなんて、お葬式ですよ……」
「ははっ」
賃金は、能力に応じて。
アルバイトへの参加資格は、空を飛ぶ魔法を使えること。
「メイルに比べると、アトレとコンペティは花形で羨ましいです」
私は、物心つく頃からメイルのアルバイトに強制参加させられている。
どんなに年齢が若くても、魔法使いの労働に年齢は関係ない。
夏になると、小さな魔法使いもおとなたちに混ざって、箒で空を飛び始める。
「毎年、結翔くんの入賞は記事になっていますよね。毎年、拝見するのが楽しみなんです」
「
「はい?」
「花形ってことは、それだけ注目を集めるってことなんだよ」
世間的に有名な古畑結翔くんとクラスメイトの関係が始まってから月日は流れているのに、結翔くんの表情は見飽きることがない。でも、私が一方的に結翔くんを見つめたところで、世界は何も変化を見せない。
「ものすっごくプレッシャー」
聞いたこともないくらいの低音で、結翔くんは未来への絶望を語った。
「あ、すみません……! 結翔くんのこと、何も考えていなくて……」
「ふっ、真面目すぎ」
プレッシャーという言葉に重みを感じた。
だから謝ったけれど、結翔くんは気にするなと言わんばかりの優しい笑みを私に向けてくれる。
「魔法使いが空を飛びまくってた時代なら、こんな風に注目集めることもないんだろうけど」
結翔くんの声が、いつもに戻ってきた。
私が好きな、クラスのみんなが注目する、いつもの結翔くんが戻ってくる。
「空を飛ぶ魔法が苦手な魔法使いもいるってこと、誰もわかってくれないから」
窓硝子との内緒話が得意だった私だけど、今は結翔くんと言葉を交わす時間。
輪の中に入ることができない教室が心地よかったけど、その心地よさに浸ってばかりいたら未来は変わらないのだと気づかされる。
「苦手……なんですか?」
「嘘みたいだろうけど、本当の話」
魔法を使うことができる人の数が減った。
飛行機や自動車といった乗り物が開発されたおかげで、魔法使いは空を飛ぶ必要はなくなった。
「アトレとコンペティの優勝常連だって、苦手なものは苦手なんだって」
結翔くんはスポーツ選手でもなんでもなくて、あくまで夏季限定で人々を魅了する魔法使いでしかない。
それでも彼が空を飛ぶ以上は、多くのマスコミやスポンサーが彼の元へと殺到する。
「……魔法、嫌いですか」
冷房が効いていない廊下は、気温も湿度も高くて呼吸がし辛い。
「人を幸せにするための魔法は好き」
早く、早く、彼を冷房の効いた場所へ連れて行きたい。
そんな願いが生まれたけれど、視界に映る彼のおかげで感情は変化をみせる。
「人を魅了するための魔法は嫌い」
結翔くんが、穏やかな笑みを浮かべる。
この笑顔が好きで、この笑顔に救われている人が大勢いることを私は知っている。
「
普通の人は、魔法なんて使えない。
「私も、人を幸せにするための魔法が大好きです」
普通じゃなくていいって言ってくれる人がいたから、人間と魔法使いは共存を始めた。
「でも、人を魅了するための魔法は、ほんの少しだけ苦手です」
誰かが亡くなったわけでもないのに、真っ黒のワンピースを強制的に着用する。
多様性が叫ばれる昨今でそれはどうなのかなって唱える人もいるけど、私たちが生きる時代を作ってくれたかつての魔女が着ていた漆黒色のワンピースを着て喜んでくれる人たちがいる。
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