第2話 前夜
琴音は腕時計を見てからちらちらと周囲を見渡し、階段の近くに透の存在を確認したかと思うと突然笑顔になり透の方へと駆け寄ってくる。
もちろんそんな状況に透がびっくりしないわけがなく、
な、なんか水瀬さんがこっちに近付いて来てるんですけど!?
も、もしかして俺を待ってたのか??
わなわなとテンパっていた。
そうこうしている間に水瀬さんは俺の目の前まで移動してきていた。
「白石くん!今ちょっと時間いいかな?」
「んぁ、だ、大丈夫!なにか俺に用かな?」
うっわぁ〜、テンパりすぎて変な声出た…。
最悪だ…、変なイメージ持たれたかも…。
そんなことを気にもとめてない様子の琴音は透の前で頬を赤らめもじもじと羽織っているオーバーサイズの薄いカーディガンの袖を擦り合わせるなど、落ち着いていない様子であった。
「…えっと、その…。」
「お、おう…、ゆっくりでいいぞ?」
透がそう伝えると琴音はこくんと頷く。
そんな姿を当然透が見逃す訳がない。
こくんっていう聞こえるはずがない効果音聞こえたぞ??
あまりにも可愛すぎるだろ…
なんなんだこの可愛い生命体は!?!?!?
などと言う感情を己の内側に秘め、表面上は冷静に取り繕っていた。
「あ、あのね!急なお誘いでほんとにごめんなんだけど…、明日私とデートしてくれませんか?」
「…えっ?」
神様ごめんなさい。
今日という最高の日を数分前に最悪の日と表現してしまって…。
どうかこの不敬をお許しくださいませ。
あの件は日付の数字で発表者を決めようとする教師共のせいなのです。
俺が悪い訳ではないのです。
どうかお許しを…。
一通り神への謝罪ををしたところで透は現実へと視点を変える。
するとそこには透が現実世界を離れている間沈黙が続いていたため焦った琴音が若干涙目になってるのを確認した。
「それで、あの、どうですか?返事をくれませんか…?」
琴音を泣かせてしまったことに罪悪感を覚えた透は急いでデートのお誘いへの返事始めた。
「ご、ごめん黙り込んじゃって!ちょっと神への謝罪をだな…。じゃなくて!返事だよな返事!」
「んぅ、ちょっとよく分からないけど、返事はどう…?」
「もちろんおっけーだ。こっちこそよろしくお願いします。」
俺がOKサインを出すとさっきまで目に浮かべていた雨粒のような涙が乾き、曇っていた表情がにっぱぁと晴れやかなものに変わった。
笑った顔にまた俺は惚れ直してしまう。
そのくらい破壊力の高い攻撃だったのだ。
「ほ、ほんとに?」
「ほんとに!えっと、デ、デートって明日だよな?時間とか、どこに行くとかはどうするんだ?」
琴音はぐっと小さくガッツポーズを見せる。
そんな姿に俺はまた惚れ直しそうになってしまった。
めちゃくちゃちょろいな俺
自分でも自覚してしまうくらいに透はめちゃくちゃちょろかった
「良かった!あのね、そのことなんだけど…。実は行く場所は勝手に決めちゃってて、時間とかは透くんの予定を聞いてから決めようって思ってたの。だけど私これから塾があるから時間とか集合場所とかはLIMEで相談したのでもいいかな?」
琴音は安心したような口調で話しかけて来ると同時にLIMEの友達追加のためのQRコードを移した画面にしたスマホを差し出してきた。
「行く場所決めてくれてるのはめちゃくちゃ助かる。それとLIMEのQRコードありがとね。」
ありがたく俺はQRコードを受け取り、水瀬さんを友達追加してからスマホをポケットへとしまった。
「いいよ、こっちこそありがと〜。じゃあ私はもう塾の時間も近いから帰るね〜、また土曜日に会おうね。」
琴音はそれだけ透に伝えると駆け足で靴に履き替え、塾へと走り去って行った。
「まるで嵐のように現れて、嵐のように走り去って行ったな…。」
俺ももう帰るか、水瀬さんの塾が終わるまで予定を決めることも出来ないだろうしな。
そう考えた透は自宅へと帰宅するのであった。
☆☆
俺は玄関を上がり、リビングへの扉を開いた。
「たっだいま〜」
ピュ〜ピュ〜
「あら、おかえり今日はやけにテンションが高いのね。何かあったの?」
普段なら絶対に見せることの無い口笛を拭きながらの帰宅を目の当たりにしたことに疑問を抱いた透の母である
「まあ、ちょっとな?いいことがあったんだよ」
「あんたが口笛を拭きながら上機嫌で帰ってくるなんて珍しいからお母さんビックリしちゃったわ。でもどうせその内容を聞いても教えてくれないのでしょうけど?」
嫌味ったらしく言ってくるなぁ母さんは…。
まあいつもの俺のせいではあるんだが。
母さんが「学校どう?」とか「今日の体育は何したの?」とか学校に関する出来事を聞いてきた時は常に「べつに?何も無いけど」といちいち話すのが面倒臭いので断っているので因果応報ってやつ?だ多分。
「今日は特別に話してしんぜよう。」
「あら、口笛拭きながら帰ってくるより話してくれる方がよっぽど珍しいわね。そんなにいい事でもあったの?」
「まあまあ、焦るなお母様よ。聞いて驚けぇ?なんとだな明日気になる子とデートに行くことになったのだよ!」
「あらまぁ?とうとう透にも春が来たのねぇ…、お母さん感激だわ?」
「そうだろう、そうだろうってなんかリアクション薄くない?」
沙苗は夕食の準備をしながら片手間に透への会話を聞いていた。
それを踏まえた上で透は今扱っている包丁を手からポロッと落とすくらいのリアクションはするだろう踏んでいたが存外うっすいリアクションに戸惑う。
「いやまぁだってねぇ。この歳にもなれば恋愛の一つや二つくらいするのもでしょう?」
おい、今しれっと俺の母さん全国の陰キャをバカにしたぞ?
「一つも二つもしない陰キャはこの世にごまんといるぞ??実際俺も1年の頃なんの音沙汰もなかったじゃないか。」
「それはあんたが1年の頃に努力してなかったからでしょ?2年に上がってすぐの頃見た目に気を使い始めたんじゃない。あっ、もしかして明日デートする子によく見られたくて髪型を変えてみたり、皮膚科に行きたい!とか言い出したりしてたの?」
なんで分かるんだよ、きっしょ…。
やっぱり2年に上がって「突然皮膚科に行きたい!」なんて今まで美容に興味のなかった俺が言い出したら怪しむのも当然か。
まじでミスったなこれは。
「全く…、勘のいい親は嫌いだよ。」
「あら、当たりなのね?まあ後で詳細は聞かせてもらうからとりあえず手とか洗ってきなさい。」
「うぃー、りょうかい」
手洗いうがいを終わらせ、リビングに戻った透はちょうど帰ってきた父親も話に加わわって出来上がった夕食を3人で食べながらその子との出会いなどを根掘り葉掘り聞かれることとなる。
普段なら絶対に話すことはないが今日は上機嫌だったこともあり、勢いよくベラベラと饒舌になっていたのであった。
☆☆
「っぷぅ、いい湯だったぁ〜。さて、ようとぅーぶでも見るかな。」
それからお風呂に入るなど、就寝前の身支度を整え自分の部屋でゴロゴロくつろごうとしようとしたタイミングでスマホに着信が入った。
「ん、水瀬さんからかな」
透の予想は正しく、内容はと言うと
『今塾終わりました!明日のデートの事で相談なのですが、映画館に行きませんか?お互いにとってこれが初めてのお出かけですので、ちょうどいいと思いまして。映画で大丈夫ですか?』
と言うもので、それに対し透は
『全然大丈夫だぞー、それで映画はなんのジャンルを見るんだ?』
などと明日のデートについて具体的に着々と計画を進めて行くのであった。
─────それから約10分後
明日の計画について話をし終えた透はベットに寝転がり、カレンダーアプリに集合場所や時間について記入を始める。
「えっと、集合時間は午前10時で、場所は市駅前と。それから映画のジャンルは恋愛映画だったよな、あんまり実写の恋愛映画なんて見た事ないからどんななのか楽しみだなぁ…。もちろん私服の水瀬さんに会える方が楽しみではあるんだけどなぁ…。」
予定を記入した透はスマホの画面と部屋の電気を落とし目を閉じながら明日のことを考えていた。
明日水瀬さんはどんな私服を来てくるのだろうか?
やっぱり勝手なイメージだが、初夏に入り暑くなって来たけど肌の露出の少ない清楚な感じの服だろうか。
白のワンピースとかめちゃくちゃ似合いそうだもんなぁ…
そんなこと考えず明日の楽しみにして今日はもう寝るか。
初デートで目の下に隈を住まわして行く訳にもいかねぇし。
それから程なくして透は意識を失うように眠りについた。
アオハルリセットボーイは今日も君の好意を忘れる はくすい @hakusui-910
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