第4話
今日は彰吾さんのお母様と会う日だ。
手土産も抜かりないよう、ネットで調べて良さそうな物にした。
『こんにちは。』と声掛けしながら店内に入る。
すると御両親が既にいらした。
『こんにちは、いらっしゃい。』
『凪桜ちゃん、いらっしゃい。どうぞこちらへ』
今回は、裏庭からでなく店の奥から居住スペースへと入った。
『お土産ありがとう。おもたせどうぞ』
お母様が、お茶とお菓子をテーブルに置く。
お茶をひとくち飲んだのを見届けたお母様が、
『凪桜ちゃん、何か不思議に思う事があったりしない?』
いきなりの核心を突く質問をしてきたのだ!
どう切り出せば良いか、悩んでいた自分をヨシヨシしてあげたくなる。
『…はい、いくつかあります。』
『どんな事?』
『急に彰吾さんと連絡が取れなくなる事です。あとは、勘がするどい事。』
『そう…。』
『これ、差し上げるわね。』とテーブルに置かれたものは、月の満ち欠けがわかるカレンダーだった。
よく見ると同じものが、室内に掛かっていた。
『…これは?』
『彰吾にとって大切な意味を持つものだと言ったらいいかしら。
実は、私もお義母様から、同じ様に話をされたのだけれど、若い人は、満月カレンダーがあった方がわかりやすいかなと思って。
カレンダーで、きっと気付く事があるけれど、
決してその事を彰吾に問いただしたりしないようにしてね。この先、彰吾と過ごしていきたいなら、尚更。これ以上に探ったりしないでね。
あと、この事は絶対に口外しないで。
今、私から言えるのは、このくらい。』
『…はい。』
その後は、お父様も顔を出してくださって、
楽しく色々なお話をした。
帰宅し、すぐにお風呂に入る。
湯船に浸かりながら、深呼吸をする。
行きには全くなかった‘’強い気持ち‘’が芽生えたのを感じた。
お母様とお話出来て本当に良かった…。
お風呂から出ると早速、満月カレンダーを掛けてみた。
それを眺めながら、美味しいご馳走とお菓子をたくさんいただいたので、‘’お腹が空かないなぁ‘’と満ち足りた気分でいた。
すると、スマホが振動した。
’今日、家に来たんだって?‘’
‘’うん、お邪魔しました。楽しかったし、ご馳走がたくさんだったよ‘’
‘’母さん、ご馳走作るの張り切ってたからなぁ。バタバタしてたよ、昨日なんか‘’
‘’え?あのお母様がバタバタする時があるんだ、意外ー‘’
‘‘いや、肝が据わっているようで、あの人は、そういうトコあるから。うん、どこか凪桜さんに共通する所が、あるのかもしれない。‘’
‘’そうなの?嬉しいな……”
今日は、他愛もない内容で長時間のやり取りをした。
幸せな1日だったと声を大にして叫びたい!
そうだ!このカレンダーがヒントになるなら、、
色々と書き込んでみよう!
早速、御両親にお会いした事、彰吾さんと長時間のやり取りした事を書き込んでみた。
今日は、予定のない休日。
のんびり起きて、ブランチをした。
そして、連絡のあった日や、会った日などを遡ってカレンダーに書きしるしてみる事にした。
数カ月間分の書き込みを眺めてみると、
満月前から満月後の数日間が、連絡が途絶える期間と合致していた。
これは、偶然じゃない…よね。
何か秘密があるんだ…。
不安にならないように、お母様が教えてくださったのだ、信じよう!
満月カレンダーを掛け直し、次の連絡を待ってみようと思った。
思った通り、次に彰吾さんから連絡が来たのは、
満月から5日経ってからだった。
目の前の彰吾さんは、どことなく落ち着かない様子だった。
夜ご飯を食べて、デザート何にしようかなぁ?と思っていると、『店を変えよう』と言う。
『なら、ちょっと待って!行ってみたいお店が近くにあったはず…』
『…うん、わかった。』
慌てて次の店を検索する。
『何分くらい歩くの?』
『えっと、、10分くらいかな。』
『…わかった。』
そう言ったきり、彰吾さんは黙ってしまった。
しばらく道なりに歩き、赤信号で立ち止まる。
横の彰吾さんを見上げると、じっとこちらを見ていた。
ーあ、もしかして、、告白されるの?ー
ようやく今日の彰吾さんの様子と結びついた。
『凪桜さん、これからも側にいてください。』
彰吾さんからの嬉しい言葉があった。
『はい。』
きれいな瞳、、、吸い込まれそう…と、見惚れながらも見つめ返す。
『あの…これ…』
『ん?』
彰吾さんの手のひらには、疎い私でも知っているブランドの小箱があった。
きれいに包まれたリボンをほどくと、可愛らしい指輪があり、指輪をはめてもらうと、ぴったりだった。
『ありがとう。大切にするね!』
『うん。』
『今日の彰吾さん、何か変だなあって思ってた。』
『仕方ないよ、…プロポーズなんて、初めてだから。』
何度か見送っていた青信号を渡るべく、彰吾さんが歩き出す。
『え、プロ…ポーズゥゥゥゥ!!??』
自分の身に起きた信じられない出来事に足がもつれそうになり、更に彰吾さんとの差がついていく。
横断歩道を渡り終え、こっちを向いて待っていた彰吾さんは、手を差し出している。
やっと追いつき、そっと手を繋ぐ。
(今日は初めてが多いね。)
『急でごめん。でも僕はそのつもりだから。』
『ううん。びっくりしたけど、すごく嬉しい。』
指輪のサイズがぴったりだったのは、お母様の協力があったからだそうだ。
お誘いを受けたあの日、お菓子を結んでいた針金入りのリボンをお母様が、指に回しつけていたのだそうだ。
私はお話をしながら無意識に、お母様と同じ動作をしていたらしい。
『“はい、これ凪桜ちゃんの指輪のサイズ!
お母さん、凪桜ちゃんの事好きだわぁ。
お父さんも、早くお嫁さんに来てもらいなさい。って”
って、母さんに言われてね…あれには参ったよ。』
デザートのケーキを食べながら、彰吾さんがそう話してくれた。
こうして私達は、婚約した。
翌日、姉の深冬に報告すると、
『え?婚約??まだ付き合ってないって、言ってなかった?』
『…言ってた。』
『おめでとう!わぁ!可愛い指輪ー!』
『ありがとう。私もびっくりしたの。』
『まぁ、いい感じだとは思ってたけどさ。
まさか、先を越されるとは思ってなかった。
ねぇ、ねぇ、ドレスは?いつ見に行くの?
私も一緒に見に行きたい!』
『いや、具体的に決めた訳ではなくて…気持ちの問題って言うか…。2人で話したのは、彰吾さんが薬剤師になってからかな。』
『何だ、まだまだ先じゃないっ。私も婚約したーい!あっ、プロポーズの言葉は??』
『あはは。言葉は内緒♪』
『ケチー!』
『ケチで、いいもん♪』
明日は両親に報告しに行かなきゃ。
そして、彰吾さんに両親に会ってもらおう。
彰吾さんの秘密は、秘密なままだけれど、いずれ伝わってくる事がありそう。
それは、お母様に頼ろう。
幸せな、不思議なヴェールにでも包まれている感じ
がしているこの頃だ。
安心して、その中に居よう。
Another Story 3 そらと @e_sorato333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます