4話 憧れの背中

「撃てーー!」


 一人の掛け声とともに何発もの銃弾とミサイルがヤツ―黒い巨大な骸骨―に向かって放たれた。けたたましい音が鳴り響き続ける。


 遠隔部隊も来てたのか。てっきり機獣部隊だけだと思ってた。




「止め―」


 その合図で砲撃が終わる。初めてヤツを見た人らは確信の笑みを浮かべ凝視する。


 俺は少し不安を抱く。さっきの敵がそんなに簡単にやられるはずがない。


 汗が額から零れ落ちる。


 的中した。


 さっき見たく黒のシルエットが現れ、風でその灰色の空気が飛ばされる。


 やはりダメか……。今回もダメージはなかった。




「クソォ……。突撃ー」




 さっきまで余裕綽々だった指揮官が自分の想定通りじゃなかったのか、再び命令を下す。合図とともに三機のロボット―横幅は人間の約3倍、縦の高さは2倍ほどある堂々とした体格が特徴。筋肉を思わせるような構造が外部に見え、四肢は力強さを感じさせる太い造り。―がヤツに向かって突撃する。




 三機がそれぞれ持つ剣を振り上げる。


 ヤツはゆっくりと構え、剣を振り回す。刃が光を受けて冷たく輝く。腰を落として低い姿勢を取り、待ち構える。


 飛ぶ。


 まるで嵐の前の静けさのように、一瞬の沈黙。


 剣を振る鋭い音。


 ロボットの関節や装甲を寸分違わず捉える。その刃は操縦士の居場所に干渉せず、内部のコクピットを巧妙に避けて通り抜ける。


 位置を把握していたのか、敵の手はロボットの裂け目から操縦士を引きずり出した。重厚な機械の守りを超えて捕らえられた操縦士は、その瞬間、自分の死を悟る。




「うぁ。助けてくれー。」


 




 三人の悲鳴が響く。ヤツは片手で捕らえた彼らを空中に投げる。そしてヤツはジェイクにしたように骨になるまで切り刻んだ。




 リアム班以外の人が全員唖然とする。中には耐えられず嘔吐する者、悲しみからか、恐怖からか、泣き出す者。




 俺は少し冷静な自分に気づき驚く。多分人は、一度とてつもない恐怖を味わうと慣れてしまうのだろう。儚はかなもセレネもただ下を向いてるだけだ。


 


「……。」


 力の差を感じたのか、指揮官は沈黙し、体が震え呼吸は荒くなる。彼の部下たちが指示を仰ぐが、本人もどうすればいいのかわからなくなっているようで、その声は彼に届かない。


 


「貴、貴、貴様ー!いったい何者だ?」




 遠隔部隊の一人の戦士が震えた声で聞く。


 ヤツは剣を上に振り上げる。皆の視線も上につられる。重力に抗う限界まで行き、刃が下を向き急速に落ちてくる。視線が下に向くにつれ気が付く。


 


 剣が屋上に突き刺さり床が崩れ粉じんが立ちこむ。


 そこにヤツの姿はもうない。その場を驚嘆の空気が包み込む。


 その空気を断ち切るかのようにどこからか声が流れる。




「私の名は、ニゲル。お前たちのような愚かな人間を滅ぼす命を受けている。これから起こることに抗うことなどできはしない。人の死は平等だが、その時は私が決める。味わうがいい。絶望を、死を。」




 その言葉とともに空が急速に暗くなり、押し寄せてくる黒い雲。冷たい空気が吹き髪をなびかせる。遠くの空からゴロゴロと低い雷鳴が響き、次第に近づいてくる。雷の音に混ざり前方から大きな重い音が聞こえてくる。


 その方角の遠くには山がありる。今は霧で覆われていてよく見えない。


 しかし、大地の震動がここまで伝わってくる。




「なんだ、この振動は?」


 


 不安の声があちこちから漏れる。


 俺も緊張でうまく呼吸ができない。だが、相変わらず隊長に動じた様子はなく、前方をじっと眺めていた。




 次の瞬間。巨大な影が山の奥から現れた。直径が五十メートルは超える円盤状のロボットだった。昆虫のように地面を這い、建物を飲み込みながら砂煙を立てこちらに向かってくる。




 絶望に満ちた目。


 当たり前のようにほとんどの人間が戦意喪失していた。剣を捨て跪く者。髪り祈る者。俺ももう無理だと思いかけていた時、


 


「ほほぉ~。あれはヤバいね。でも、やりがいあるなぁー。ほら、お前らも作戦考えるぞ」




 リアム隊長目は輝いていた。こんなにも戦士がいる中でたった一人だけ……。


 違った。一人だけじゃなかった。

 ほかにも彼らが立っていた。俺たちの隊長が。




 ―戦士候補生として俺は優秀で、俺以外にも十一人いた。そして、そいつらは戦闘部隊の中で特に優秀な五人の隊長の班員となった。一人が俺たちの班リアム・レーヴァン隊長。二人目がアスナ・アレクサンドロス隊長。三人目がフェリス・エインズワース隊長。四人目がブリッツ・マーフィー隊長。最後にドジル・アミティエ隊長。




 彼らの背中が心を奮い立たせた。俺だけではない。はかなや別の班の仲間。遠隔部隊の人たちもだ。




 だんだん近づくそのロボットに全員が覚悟を決め待ち構える。この時は憧れていた。俺もいつかそうなれるように。


 開戦の合図かのように再び雷が俺たちの前に轟いた。




 

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Second Brain "AI覚醒"〜人類最後の戦い〜 睡魔人太郎 @datugoku

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