第4話

 職場に到着し、掃除や仕込みを始める。

 もう何も考えなくても身体が動く。慣れたものだ。

するとカランとドアが開く音がして、人が入ってきた

「すみませんまだ営業前です」と顔を上げるとそこには制服を着たスラリとした女の子が立っていた。思わず目を見開く


『あなたが陽彦(あきひこ)さん?』

 目が合うとそう聞いてくる。なんとなく懐かしさを感じる声に脈が跳ねる。


『私は、はるか』

 名前を名乗りにこりと笑った表情には見覚えがあった。


『母親は…』

「紗夜か?」

 口に出したもののまさかと思っているとその女の子は少し驚いて

『びっくり!ママのこと覚えてたんだ?ようちゃん』



 彼女がふざけて呼んでいた男の名前だった。

 懐かしさに表情が緩んだ。


「昔少し仲良くしてただけさ」

「それで?今日はそのママはどうしてんだ?」


 彼女のことだひょっこり現れるのだろうかなどとかんがえていると


『亡くなったよ。3ヶ月前に』


 女の子の言葉にひゅっと息を飲んだ

 周りの空気が急に冷えた気がする…


「…病気か?」


『うん…ガンだったんだ』


 沈黙が流れる…

 彼女の記憶が急に甦ってくる

 ようちゃんと呼ぶ彼女の笑顔と声… 


「ここはなんでわかった?」


 絞り出すように言葉をつなぐ


『ママがよく話してくれたんだよね。

 大学生だったときの話や、東京で働いてたときの話、お友達の話だったり』


「そこに俺の話が?」


『うん、仲良くしてたって』

 少し含みのある笑顔で見てくる女の子に、元カレだとでも言ったのか?と考えながら


「そのママは勝手にいなくなったけどな」


 …と、声に出ていたか。

 俺の言葉に女の子は少し泣きそうな顔で笑った。


『昔のことはわかんない』


 彼女の言葉にそうだなと笑った





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