第3話

 それから15年。男は同じマンションの部屋で煙草をくわえていた。

 あれから男はずっと彼女のことを考えていた…訳でもなく、人並みに結婚もし、離婚もして、独り身を楽しんでいた。働いていたバーもいつのまにか店長を任され、やってみると案外性に合っていたのか店は繁盛し、オーナーから気に入られ今では何店舗かを行き来している。

 持ち前のルックスと話術で結婚中も離婚してからも女性に不自由することはなかったが、深く関わることはしなかった。


 今日は元々の店へ出勤する日だ。

 着替えをしながらふと棚に置かれているワインに目が止まった。

 彼女が置いていったものだ。何度か捨てようとも思ったが、なんとなく捨てられず置いたままになっている。もう今ではいつもの風景として馴染んでいるのだが、今日はなぜだか目に止まった。

 あれから彼女とは会えていない。

 いつだったか彼女の友達を街で見つけ声をかけたことがあるのだが、自分を見るなり物凄い剣幕で怒りだし、彼女のことは知らないと一蹴されてしまった。

 嫌われてしまったんだろうな、と漠然と考えた。


 ワイシャツのボタンを止めながらふと彼女と過ごした時間のことを考える。

 彼女のことを考えると恋い焦がれる…と言うわけではないが、彼女との気の置けないやりとりが自分の腹の中をじんわり暖める気がした。

 体を重ねたのだって数回だったのに…

 …甘い時間だった

 今考えれば、彼女のことを好きだったのだと思う。


 その後店の客と付き合い結婚もしたが、長続きせず妻は離婚届を置いて出ていった。男も素直にそれにサインし役所に提出した。


 その後は決まった相手を作ることなく、一夜限りだったり、中には告白してくれた相手もいたが、お断りした。誰かとずっと一緒にいるということが向いていないんだろうなと思っていた。


 あの人からの呼び出しはあの後も何度かあったが、今は年に一度ほどになっていた。

 女性としての気持ちはないが、大切であることに代わりはなかった。

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