別れ

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別れ

「卒業、おめでとう」


 生徒や親のすすり泣く声が聞こえる中、僕は彼女に向かって、今思っている本心──感謝の気持ち──を告げる。  

 彼女はまっすぐ僕を見つめるが、その口元は開かない。


 そりゃ当然だよな、と僕は自分に言い聞かせる。

 だって、彼女とはつい先日別れたのだから。こうして今日卒業式だったっていうのに、目前でこういう終わり方になってしまうなんて……。まだ理解が追いつかない。


 でも、今思えば、一方的な僕の片思いだったような気がしなくもない。一緒に帰ってるときに彼女は僕なんて見てなかったように思えたし、誕生日プレゼントを渡したときも、まるで喜んでいる表情をしていなかった。


 そうなってしまった原因は一体何だったのだろう?

 彼女に心の中で別れを告げ、僕はそんなことを考えながら帰路を歩む。答えはきっとこの先もずっと出ないか、あるいは誰かに諭された”それ”を鵜呑みにするかのどっちかだろう。どちらにせよ、だ。


 家につくと、特に目的があるわけでもなくテレビをつけた。真っ先に目に飛び込んできたのは今日の出来事だった。



「今日、殆どの公立中学校で卒業式が行われました。


(以下、◯◯中学校での取材音声)

テロップ:これからの高校生活に向けて何か意気込みはありますか?

生徒A『勉強がこれからさらに難しくなるのでちょっと尻込みしそうですが、高校でいっぱい部活頑張りたいので何とか乗り切っていきたいと思います!』

生徒B『彼女作りたいです(笑)』

生徒C『絶対東大行きます!』


 このように、新しく始まる高校生活に胸を高鳴らせる卒業生に、これからの期待が伺えます。


 さて、一方でこの卒業式という節目に悲しい事件が起こってしまいました。

テロップ:◯△中学校に所属していた【個人情報に触れるので、この文章で実名は伏せる】さん(15)が自室で亡くなっているのを彼女の親によって発見。目立った外傷はなく、本人の自殺によるものと考えられる。遺書のようなものは残されてはいないが、後日取材によると、彼女は友人に『顔は見ていないが、人に付けられているかもしれない』と相談していた。警察は現在、調査を進めている。


コメンテーター『……いやぁ、卒業式でこんなことが起きてしまうなんて、ねぇ。卒業まで学校に来ることができないほどよっぽど精神的に追い詰められ」


 そこで電源を切った。むしゃくしゃして抑えきれなかった。

 彼女が精神的に追い詰められていただって? じゃあ、どうして僕に言ってくれなかったんだ。僕はこんなにも彼女を愛しているというのに。


 しかし、もうこの世には彼女はいない。理由を聞いたって、虚空に吸い込まれるだけだ。一旦落ち着いて、ひとまず後日発表される学校の事情や会見待ちに徹するしかない。


 僕はあの学校に所属する人間ではないのだから。


 彼女の写真で埋め尽くされた部屋の中で呟く。


「一体、何が間違ってたんだ……?」


 それが、今思っている本心。

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