いばら姫になれなかった人生

ミコト楚良

大舞台で言いまちがえられて

 カッと稲妻が走り、城のバルコニーに、黒い影が降り立った。

 楽師たちは、その異様に、ぶるぶると震えだし、指揮者も、ガチガチと入れ歯を鳴らした。

 姫の誕生を祝う王家の宴の席に、招かざる客、13番めの魔女が現れたのだ。


 この王国では姫が産まれると、その祝いの宴に、13人いる魔女のうち、ひとりだけ招かないという儀式設定があり、お約束のように宴の最中に、招かれなかった魔女が乱入する。


 老木の杖を振りかざし、13番めの魔女は血走った目で、おどろおどろしく叫んだ。

「姫は15歳になった年に、死ぬ! 糸車の紡錘つむに指を刺されて!」


「待ったァァ!」

 まだ、姫に魔法の贈りものをしていなかった12番めの魔女は、バクバクする心臓を、どうにかなだめて、13番めの魔女の前に進み出た。

 しかし、この女、正式な魔女になりたて。本日の大役に、大変、緊張していた。

 若木の杖を振りかざし、叫び返す。

 姫への呪いを打ち砕くために。

「ひ、姫は! 100歳の年に! 死ぬだけでちゅ!」


 しまった。噛んだし!

 いや、そこじゃない!

 台本通りなら、「100年、眠るだけだァァ!」(ドヤ)と、やり返すはずが。



 100年後に姫が目覚める頃には、世界平和は為され、文明は今より発達し、流行性の病気もワクチンが開発されている。そんな世になっているはずだ。

 姫が眠っている間に、王さまとお妃さまは嫁ぎ先を熟慮選考、次の代に委託しておく。もちろん、姫の気持ちを尊重する。嫁がなくてもよい。姫の好きに生きればよい。それが王さまとお妃さまの願い。そこで、しあわせに生きて、めでたしめでたしとなる。はずであった。

 が、失敗した。

 12番めの魔女が台無しにした。


「すいません……」

 12番めの魔女は、しょげかえっていた。


「大丈夫」「なんも、なんも」「せわねえよ」「でーじょーぶ」「かまひん」「よかよか」、口々に、1番めから11番めの魔女は慰めた。


「意外と、よい贈り物だったかもしれません」

 13番めの魔女がほほえんだ。



 たしかに、その姫は100歳まで生きて、十分しあわせな生涯でしたとさ。





      〈了〉

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