デスゲームのルールがゆるすぎる

ちびまるフォイ

ゲームはルール作りが大事

『気がついたようだね、参加者の諸君』


「ここはいったいどこだ?」

「なによこれ。なんで閉じ込められてるの」

「誰か助けてくれ!」


『おっと。大きな声を出さないほうが良い。

 120デシベルより大きい音を出すと

 君たちの首輪が反応し首から上がふっとぶだろう』


「ひっ!」

「なんでこんなことを……!?」


『君たちは私のデスゲームに参加してもらう。

 そこで人間の汚い本性をさらけ出すのさ』


「デスゲームだって……?」


『テーブルを見たまえ』


「トランプ……?」


『そう、ここで始まるのは

 命をかけた究極の心理戦。

 名付けて"デス・大富豪"!!』


「この監禁されたメンバーで大富豪をやるのか?」


『そう。そして優勝者をひとり残し、

 他の人間はその場で死んでもらう』


「ひどいわ! 私たちが何をしたの!?」


『それはこのデス大富豪であぶりだされるだろう。

 君たちはゲームを通して自分の醜い感情と

 真正面に向き合うこととなるのだ。くっくっく』


全員が席についた。

今まさに人生最後のデス大富豪がはじまる!!



「ちょっとまってくれ。11バックはアリなのか?」




『コンビニチェーン……?』


「ちがうよ。11を出すと、場が流れるまで

 数字が逆転する一時的な革命状態のことだよ」


『なにそれ』


「うちじゃ基本ルールだったけど、

 地域によっては使ってないとこもあるらしいから」


『いやそんなローカルルール知らんし……。

 今お前が勝手に作ったルールじゃないよね?』


「はあ? そんなわけないだろ。

 11バック使えないと戦略的にも大きく変わるんだが」


『ええ……?』


デスゲームマスターとしては、

お互いの知略をぶつけ合うような極限の試合を望んでいた。


「ちょっと待ってよ。

 それなら"スペ3返し"もアリよね?」


『はあ!?』


「スペ3返しよ。常識でしょ?」


『知らない知らない! だから変なルール足すなって!』


「スペードの3に限っては、

 ジョーカーの単発出しの上に出すことができるのよ」


『なんだそれ!』


「おいおい待ってくれよ。

 そんなルールが通るなら"オーメン"は当然アリだよなぁ?」


『はい!?』


「666と、6を3つ合わせて出すことで革命ができるんだ」


『もうそれ大富豪と関係ないだろ!』


「ちゃんとルール決めてくれよ」

「そうよ! 場合によっては私が不利よ!」

「このルール以外の大富豪を知らない!」


『うるせええええ!!』


デスゲームマスターは頭をかかえた。


『じゃあもういい! みんなそんな勝手言うならデス大富豪やめます!』


「ええ……?」


『デス・ババ抜きにします!!!』


「うわぁ……」


急に知略要素が弱まったのを感じた。


『ビリの人から死ぬルールでババ抜きをしていきます。

 最後のひとりになるまで続けていくこと。

 ババ抜きなら、勝手なルール差し挟めないだろう』


「たしかにそうだけど……」

「勝手なルールって……」


『はい! はじめてください! デスババ抜き!!』


「それでいいのかよ。

 お前最初は人間の本性がどうとか言ってなかったか?」


『それはお前らが変なルール足してさ!!

 僕のゲームをめちゃくちゃにしようとするんだもん!!』


「自暴自棄になるなよ」


『もういいからババ抜きしろよ!! そして早く死ね!!』


「雑になってる……」


全員がカードをシャッフルし、ババ抜きを始めようとしたときだった。


「あ」


『あ……?』



「ふと思ったんだけど、ババ抜きでデスゲーム無理じゃない?」



『え?』



「これ、参加者で協力すればずっと同じカードを引き続けて

 永久にループできるタイプのゲームじゃん」


『……』


極端な話、全員がジョーカーを引き続けて

ジョーカーをただ交換し合う行為を続ければ

ババ抜きは一生終わることなく続けることができる。


そんなこと。もちろんゲームマスターは気づいていなかった。


『なんでさぁ! そういうずるいことするの!!!

 普通に! やればいいじゃん! デスゲームを!!』


そしてキレる。理不尽。


「こっちだって命かかってるし」


『デスゲーム参加するならちゃんとルールに従ってよぉ!』


「わかった、わかったって。

 それじゃやっぱり大富豪にしようよ」


『大富豪だとお前ら勝手にルール足すじゃん』


「ならゲームマスターが最初にルール決めればいいよ。

 俺らはそれに従うからさ。な? それならいいだろ?」


『それなら……』


最初からそうすればよかったとゲームマスターも思った。


早く短いコミュニケーションに慣れている現代人。

こういうルールのすり合わせが不十分になるのが現代病であった。


ゲームマスターは自分の思う大富豪のルールを説明した。


『……というのが大富豪のルール。

 これ以外は認めません』


「わかった」

「わかったわ」

「OKだ」


『ではゲーム開ーー……』


「おいどうした」


急に言いよどんだゲームマスター。

参加者はざわつく。


『さっきのババ抜きでちょっと思ったんだけど』


「ああ」


『デスゲーム参加者って変な悪知恵はたらくじゃん』


「悪知恵って言わないでほしいけども」


『今回は大富豪でちゃんとルール決めたけどさ……』


「うん」


『やってみて、やっぱりこうしたほうがいい!

 そんな風に後で気づくことあると思うんだよね』


「まあな。初回なら……なおさらな」


『せっかくこしらえたデスゲームを、

 めっちゃルールのあらを指摘されると傷つくわけ』


「ん……まあ。そうかもな」


『だからーー……』


デスゲームマスターは今回はじめてハッキリと断言した。



『だから、今回のデスゲームはテストとしてやって

 実際にデスゲームできそうか試すことにします!』



「「「 それだとみんな死んじゃうだろ!! 」」」



全員の声が120デシベルを超えたため、首から上がふっとんだ。

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