第7話 激闘、ブランぺ
「さてと、とっととここから出なくちゃな」
「でも、中から開けられないよ?」
「いや、ここの内鍵がアナログ式で助かった」
ジョンはロングコートの内から小さなクリップを取り出すとそれを折り曲げ、鍵穴に突っ込んだ。
「えーと、ここをこうして、こうやって……こんな感じか?」
カチャカチャと音がなり、ガチャリ、と扉が開く音がした。
「こんな古風な芸当も役に立つときがあるんだな……案外あの修行は無駄じゃなかったのか……」
なんて遠い過去の記憶に想いを馳せた。
扉から頭を出し、構成員がいないことを確認。ルミナの手を引き、慎重に足を運ばせる。
そのままアジトを隔てる扉の前へ。
「ところで、ルミナ以外に捕まってる子供はいないのか?」
「うん。今は見たことない」
「よし。ならいい」そう言うと、ジョンは黒いロングコートを脱ぎ、ルミナに包ませる。
ロングコートの下は白いシャツだ。もちろん、防弾、防刃機能もないので、1発の攻撃が致命傷になりかねない。
「それと、俺のサイフがどこにあるか知らないか?」
「狼の人がボスに渡してた」
「取り返すにはブランペを叩くしかないってことか」
ここから先は激闘が予想される。とてもディナーの約束には間に合いそうもない。ハァ、とため息を吐いて覚悟を決める。
「そいつに包まってろ。防弾に耐刃機能もあるからな。この扉を開けたら顔をだすなよ」
「……うん」
ルミナが頷くのを見て音を立てないように扉を半開きにする。
視界に入る敵は3人。入ったときは無我夢中でわからなかったが、障害物は中央に置いてあるソファひとつ、他にはなにも物が見当たらない。玄関の役割をもったフロアのようだ。
「障害物はソファだけか……なんとかなるだろう」
ホルスターから銃を抜き、先手を打って銃撃。構成員一人の脇腹を貫いた。
ソイツは
「なに!?」
残り二人の構成員が気づいた時には遅かった。ジョンは疾風の如き瞬発力でもう一人の構成員の間合いを詰めていた。
間合いを詰められた構成員は大上段にナイフを振り下ろすが、ジョンはその動きを利用し、関節を破壊。
叫びを上げる間もなく鳩尾に膝を叩き込む。
すかさず、背後の構成員が懐から銃を抜き、弾丸を撃ちだす。ジョンは飛んでくる射線を予測して回避。そして飛び込むようにソファに身を隠して、弾丸を装填する。そして弾丸を2発放ち牽制。
相手が狼狽えたところでソファを飛び出し、気を失っている構成員の体を盾にして、最後の構成員に接近。
「く、来んじゃねえ!」
やたら滅多に撃ち込んでくる弾丸は、盾となった構成員が一身に引き受けてくれた。
そのまま盾を最後の構成員に向けて投げる。
「があっ!」
盾に激突した構成員は、そのまま転倒。
すかさず、転倒した構成員の両肩、両腿に弾丸を撃ち込んだ。そして断末魔を上げられないように靴裏で喉を潰した。
これで一階は制圧完了だ。
「すごい」
と、ルミナは自然に言葉を溢していた。
(――――ジョンの実力ならブランぺにも勝てるかも)
そう思わずにはいられなかった。
「今のうちだ!」
ルミナの手を引き、正面扉を目指す。
扉を開け、外を確認。だいぶ暗くなっているが、敵影らしきものは見受けられない。
「あそこの茂みに隠れてろ」
ジョンが指差す方向には、大小様々な木々やたくさんの雑草が生い茂っている。
「…………だけど」
「安心しろ。約束しただろう?美味いもんたらふく食わせてやるって。絶対迎えに行ってやる」
「うん、わかった」
黒いロングコートを返してもらうと、ルミナはスタスタと走り出し、茂みの中に身を潜ませた。
ジョンはルミナの安全を確認し、正面扉を閉めた。
「これで思うがままに動けるな」
そして、急いで上階に駆け上がる。
2階、3階と制圧していく。そのいずれの階にもボスの顔は見当たらなかった。
構成員はどいつも魔法を扱えない雑魚だけだった。
「残すは4階か……」
そこがブランぺの自室だろう。
そこは金色の彫刻が壁一面に置かれた、
床一面には赤い絨毯が敷かれており、部屋の中央に置かれた高価そうな革張りのソファ。
そこに青髪のエルフ。ブランぺが座っていた。
「ハハハッ!まじかよ、C級如きがあいつら突破してきたってワケ?」
「無能な部下ばっかで助かったよ。ボスの教育が行き届いてる証拠だな。」
「お前……あんまいい気になってんじゃねぇぞ!」
ブランぺが立ち上がる。周囲から魔素の奔流を感じ、攻撃が飛んでくる前に銃弾を撃ち込んだ。
「がぁっ!!!」
銃弾はそれぞれ、ブランぺの右肩と左胸に命中。衝撃で再びソファに沈み込む。
「…………痛いじゃないか」
通常なら致命傷であるそれを受けて、ハハハと笑いを溢す余裕。
「…………魔壁か」
魔壁。体内にある魔素を放出し、薄膜のような結界を自らにコーティングする基礎防衛魔法。
銃弾なんかでは、大したダメージは入らないだろう。
「なあ、それが限界か?所詮は
ブランぺは人差し指をジョンに向ける。その指先から幾何学的な紋様の円が現れる。
魔法陣と呼ばれるものだ。体内の魔素を魔法陣に通し、それを媒介にさまざまな現象を再現させる術。
燐光を放つブランぺの魔法陣から、水の塊が生成される。
「いつまでも余裕ぶった態度してんじゃねえよ!」
水の塊は弾丸のような速さで飛来し、ジョンを貫く。
「…………!」
すんでのところで横にステップして回避。頬に一筋の赤い線が走った。
回避した水の弾丸はそのまま背後の壁を穿ち、小さな穴を作っていた。
「なるほど水生魔法か」
「冷静に分析してじゃねえよ。ハチノスになっちまえ!」
ブランぺの両手の五指の指先から魔法陣が展開。それぞれが水の塊を生成して発射。ジョンに飛来する弾丸の雨。それはガトリングガンの如く、圧倒的な連射力と貫通力を秘めていた。
「どうだ?これでさっきみたいな余裕は出せるかよぉ!」
ハハハと笑い声を上げながらジョンに放たれる無慈悲な弾丸。ジョンは弧を描くようにして、ブランぺの周りを旋回。弾丸の雨はジョンを追尾し、壁や彫刻に無数の穴を開けていく。それらを回避しながらも銃口はある一点を定める。
そして、引き金を絞る。
つんざくような銃声と共に、ブランぺの悲鳴が上がる。
「ぐあぁ!!!」
弾丸は的確にブランぺの右人差し指に着弾した。指はその可動域を超えて、ありえない方向に曲がっている。
「吹き飛ばないだけマシだろ。これでご自慢のガトリングもおじゃんだな。お前程度の魔壁なら、ひ弱な指先を守る程の強度はないはずだからな」
「オマエェッ!」
「おっと、おしゃべりはここまでにしようぜ」
そして放たれる2発の弾丸。それらはブランぺの左人差し指、右親指に命中。
「ギャアァッ!!!」
それぞれの指はその可動域を大きく超え、ありえない方向に曲がる。
「魔壁を過信しすぎだ。お前みたいなやつは何人も見てきたし、何人も倒してきた。魔弾を使うまでもない」
「クソッ!オマエ!何者なんだ!?C級の
「そう言われてもな……こんな世界で泥水啜りながら生きてたら勝手に身についてた。としか言いようがないな」
「なら!なぜハンター階級を昇進しない!?ふざけやがって。こんなC級がいてたまるか」
「それは目立ちたくないから。階級が上がれば当然メディア露出が増えたりする。俺はそんな表舞台が似合うたまじゃねえよ」
「クソッ。なにからなにまでふざけてやがる!」
「まあ、そうカッカすんな。そんなに頭に血昇らせてると血管はち切れるぞ」
「ふざけんじゃねえ!死にやがれ!」
ブランぺの指先から水の弾丸がほとばしる。その弾丸はジョンに掠りもせずにあらぬ方向を貫いた。
ジョンもすかさず発砲。ブランぺの右薬指をへし折った。
「ぐっ…………!」
「諦めろ。次は魔弾を撃つ。その前にさっさとサイフを出せ。そうすれば命までは奪わない」
ジョンは降参を促す。できることなら命までは奪いたくはない。その最後の情けに応えるは……
「…………ハハ、お前こんなサイフのためにここまでやって来たのか?」
ブランぺは懐からサイフを取り出すと、ポイっとジョンに向かって投げた。
ジョンはそれをキャッチし、中に入っているライセンスを確認する。
「お、あったあった。なんだ物分かりがいいじゃないか。じゃあ、俺は失礼するよ」
ジョンは踵を返し、ブランぺに背を向ける。その背にぶつけられるのは「ハハハ」という薄汚い笑い声。
「なにがおもしろい?」
ジョンは身体を反転し、ブランぺを正面から見据える。
「ああ、おもしろいよ。お前のなにも知らない顔がなぁ!」
歪に口角を吊り上げるブランぺ。その笑みになにを含ませているのか。
ビリリリ……ビビビ
電流の走る音がジョンの耳に入り込む。
「…………なに!?」
その音の発生源に目を走らせると、ブランぺが先ほど放った水の弾丸が天井裏のなにかを貫いていた。
(……なにか、まずい!)
そのなにかから遠ざかるように、全身をガラス張りの窓に向かって投げ出す。
パリン!と窓が割れ、4階の窓から身を投げ出すのと同時。ジョンの背中に熱をもった巨大な質量が押し寄せた。鼓膜を震撼させる巨大な音。
背後で爆発が起きたのだ。
ジョンは爆風を受け、紙屑のように弧を描いて吹き飛ばされた。
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