第3話 告知

診断された病名は、癌。


また・・・・・・

静かなため息の中に、

もう、次はないのだと、どこか、希望を欠いた空気が流れた。

無表情の私に、ふと視線が向けられる。

「どうしたらいいと思う?」

無機質な声で呟く母。小さな細い希望という名のロープを手繰り寄せるかのような、母の手が見えた気がした。もちろん、母のその手は、彼女の膝の上でギュッと硬く握られている。

「できる限り、しんどくない治療を・・・・・」

誰もがそう望んだ。

「しんどくない治療は、ありませんね」

切ない望みの返事は、とても冷たく鋭い刃で切り付けられた。

「そう・・・ですよね」

苦しい治療を何度も受けてきた母の、精一杯の言葉だった。

絞り出された、少し上擦った声。

たまらず、診察室を飛び出す妹。

そこいらじゅうを走り回って、わーーーーっと叫び出したい衝動に駆られる。


重い空気の中、淡々と治療方針を語る医師。

真向かいに座った母は、それをじっと聞いている。

その隣に、なんの役にも立たない、ただそこに立っているだけの私がいた。


そっと、母の背を撫でた。


大丈夫・・・

私は、ここにいる。

あなたのそばにいる。


こんな私は、ただ、無力だ。


でも、

「ありがとう」

母は、笑顔で言った。

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おかあさん かすみん。 @kasumin27

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