狂気短編集

コオロギひかる

桜の木の下に死体を埋めた

 桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!

 これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。(1)

「桜の木の下には」梶井基次郎より


 私は、山の上にある桜を見上げて、にこやかにそれを見つめていた。ここに、死体を埋めたからだ。


 「今日も綺麗な桜が咲いているね」

 そう、彼女は山の桜を見て言った。

 私は、その時、桜を美しいとは思わなかった。

 私は、彼女を愛していた。報われぬ恋をしていた。彼女は、私と比べて、見合わぬほど高貴な生まれの女だった。

 

 ある日、いつもの昼下がり、彼女は、予定があるといって、私はつかの間の休みを町をぶらぶらと散歩して楽しんでいたのだった。だから、私は、その通り過ごしていた。町を歩いて八百屋で買ったレモンを持ち歩いていた。だが、そのレモンを落としてしまった。コロコロと転がって、歓楽街まで追いかけていると、私は見た。

 彼女が、男の人とラブホテルに入っているのを。


 私は帰って悩み続けた。何度も。どうすればいいのかわからなかった。私は、「帰りは遅くなる」と連絡を入れて、家のクローゼットの中に入り込んだ。

 彼女が帰ってきた。私は驚かせようと思った。だが、彼女は男を連れていた。

 驚かせたい。そう思った。私は、隠し持っていたナイフをもって、彼らの行為中に出てきた。

「やーいやーい」

 彼女は、怖がっていた。ああなんて可愛いんだろう。男は、怖がりながら、夢中に彼女のをついている。私は、男の首元に刺した。彼女は、とてつもない声をあげていた。

「怖い?」

「うん」

 私は夜の嬢王みたいになっていた。

「股開けこの糞女」

 私は、股を開いた彼女と性交をした。彼女は泣きながら、抵抗する。

「許して」

 彼女は、涙にぬれていた。

「どうしたら、浮気できなくなるの?」

 私はそう聞くと、彼女は泣きながら答えた。

「許して」

 私は、許せなかった。指があれば、メッセージアプリを送れないだろう。そう思った。彼女は悶絶した。苦しむ声を聴くと、それは気分の良いものだった。

「あ、でも、口で男口説けるじゃん」

 喉を潰そう。そう俺は気づけば、彼女を殺していた。人って簡単に死ぬじゃん。


 どうしよう。この死体。そのとき、ふと思った。

 桜の木の下に埋めてしまおう。そう思った。彼女がそこを綺麗といっていたから。良い死に場所になるはずだ。そう信じている。

 

参考文献

「桜の木の下には」梶井基次郎より 青空文庫 https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/427_19793.htmlより 2024年10月22日閲覧

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