第1話 大事な出会い

 この世の中ではみんな何かしらの超能力を持っている。ただそれに気づく人は少ない。ちょっとしたことがきっかけで気づけるものなのだが、人々はそれを偶然とみなして気づかない。だから超能力保持自覚者人口は日本ではたったの50人ほどしかいないのだ。

 これは去年旅行に行った時、観光地で出会った男性に教えてもらったことである。




 俺はとある公立高校の一年、木坂タカセ。一見どこにでもいる普通の可愛い女の子が大好きな男の子なのだが、実は希少な超能力保持自覚者である。人を少しだけ幸せにできるがその分自分に不幸なことが返ってくるというのが超能力保持自覚者の一人である俺の超能力だ。この説明だけじゃわからないと思うから実際に試してみよう。

 例えば……。


「やばい、家庭の教科書忘れちゃったかも」


 彼女は同じクラスの鹿波さん。長い髪と低めの身長。自信に溢れた明るく整った顔。クラスでは目立たない部類にいるがとても可愛い子である。ということで、鹿波さんに超能力を使ってみよう。超能力の使い方は簡単だ。鹿波さんが教科書を持ってきていますように、こうやって願えば


「あ、ロッカーにあった! よかったぁ」


と、叶うわけである。そして俺のカバンの中とロッカーを確認する。やはり、今日必要な家庭科の教科書が。持ってきたはずなのにカバンの中から無くなっている。ロッカーや机の中にもない。家に忘れてきたことになっている。と、まあ俺の超能力はこんなものである。この超能力の欠点である不幸は俺も嫌なので基本可愛い子にしか超能力は使っていない。




「ねぇねぇ木坂くん。もしかして超能力持ってる?」


「……」



 心臓がドクッと大きく波打った。


 急に話しかけられたからじゃない。何か秘密にしていることが見破られたような、そんな感覚がした。



 恐る恐る顔を上げてみる。


 なんと、そこには鹿波さんがいた。



 鹿波さんは確信している様子で、俺には誤魔化せそうにない。

 あの時の男性はあまり他人に言ってはいけないと言っていたけど、まあ仕方ない。

「なんでわかったんですか?」

「やっぱりそうなの?」


 鹿波さんはびっくりした顔をした。

 よく考えれば超能力を持っているなんて一般的に見たらなんて非現実的なことなのだろうか。誤魔化してもきっと信じてもらえたはずだ。


 俺は判断を誤ってしまった。



「なんか最近学校で最悪なこと起きないし、あとそういう時はだいたい木坂くんいるし、それに視線感じるなと思って」

 鹿波さんは素敵な笑顔で理由を語った。正直ずっと鹿波さんを見ているのがバレていたことがとても恥ずかしい。


 そういえば疑問だ。先程の鹿波さんの理由。超能力を持っていない人間の発言だとしたら不自然ではないか。どうしてそれだけの理由で俺が超能力を持っているなんて普通ではないことに気づいたのか。人が超能力を持っていることを知っているということは、もしかして鹿波さんもそうなのだろうか。


「もしかして鹿波さんも?」


 聞いてみた。しかし鹿波さんは首を右に傾けながら目線を天井に向け、五秒ほど動かなかった。どうやら持っているかわからないらしい。


「それより木坂くんの超能力は人を少しだけ幸せにする分、自分にちょっと不幸が返ってくる、あってる?」

 鹿波さんは話題を俺の超能力についてにすり替えた。

 鹿波さんの推理は正しい。鹿波さんはそこまで見抜いていたのだと驚いた。占いで自分のことを言い当てられるお客さんの気持ちもこんな感じなのだろうか。




 ちなみに俺がこの超能力に気付いたのは中学のとき。

 当時ニ年生だった俺は可愛い女の子の幸せをずっと願っていた。もちろん今もそうである。ジャンケンで可愛い子が勝った時には自分も心の中で喜び、可愛い子が先生に怒られた時には自分も心の中で悲しい気持ちになった。

 いつからか、教科書を忘れた可愛い子に「教科書を持ってきていますように」と、

晴れてほしいと願う子がいたら「晴れますように」と、

そうやって願うようになった。

 するといつも俺が願った通りになる。可愛い子が喜ぶ姿を見るたびに一緒にお願いしてよかったと嬉しい気持ちになった。

 でも数を重ねていくうちに疑問に思うようになった。


 これ、自分が願ってるから叶ってるのではないだろうか。


 心苦しいが願わない時を設けてみた。

 するとなんということだろう。偶然か否か、俺が願わなかった時はほぼほぼ可愛い子たちの願いが叶わないのだ。

 俺はこの時願いを叶えられる超能力を持ったのだと思った。

 しかし自分の願い事をしても一つも叶わない。

 どうやら俺は他人の願いしか叶えられない、他人を幸せにする超能力を持っているようなのだ。

 自分で自分を幸せにできないのは悔しいが、でも嫌ではない。可愛い子たちを幸せにできるのだ。まるで陰のヒーローみたいでかっこいいじゃないか。


 ちなみに人を幸せにした分、自分に不幸が返ってくるという事実を知ったのはつい最近である。これを知った時は流石に悲しかった。





 放課後、俺はいつも通りリュックを背負って教室を出る。俺は部活に所属していない。授業が終われば駅に向かい、寄り道せずに家に帰るのだ。

 しかし、廊下に一歩踏み出したところで肩を叩かれた。

 誰かと思ったら鹿波さんだ。


「セーフ! 今日一緒に帰らない?」


 突然の可愛い子からの誘いに俺は驚いて脳が動かなかった。

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超能力保持自覚者の俺と鹿波さん 夢居式紗 @shikisasan

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