超能力保持自覚者の俺と鹿波さん

夢居式紗

第0.5話 謎の男

 中学三年生の夏休み、父の提案でみんなで山を登った。と言っても車で、なのだが。


 車で登れる一番高いところまで行くと、そこには木でできた建物、おそらく売店と展望台があった。

 車を降りると家族はみんな売店に行ってしまった。俺は展望台に行く。


 展望台に向かう途中、一人の綺麗な女性がスマホを探していた。

「スマホどこにやったんだろう。気づかないうちに落としちゃったかな……」

 俺はスマホが見つかりますように、と願った。

 すると

「あった!」

女性はカバンの奥からスマホを発見した。心から自分を誇らしく思った。


 ちなみにこのあと転んだ。



 展望台からは自分が住んでいる街が見渡せた。だが、いつも見ている街とは違う街のように見えた。



 楽しんでいると背の高い人が俺の隣にやってきた。こっそり見上げると髪がボサボサで無精髭を生やした男の人だった。


 あ、目が合ってしまった。


 少し距離を取ろう。



「君、超能力使えるよね?」



 俺は思わず、え?と声を発した。

「君の超能力は……たぶん……人を幸せにする能力だね。あ、でもちょっと不幸が返ってくる? ただドジなだけだったらごめんね」

「……どうしてわかったんですか?」

「君さっき女性を超能力で助けてたよね? 見ちゃった」

 たとえ俺を見ていたとしても俺の超能力はなかなかわかりにくいものだと思う。まさか一回見ただけでバレてしまうとは。少しこの男性が怖い。

「あぁ、ごめんごめん。怖がらないでよ」

 男性は頭の後ろを右手で掻きながら笑った。

「俺が超能力を持ってるのがわかるってことはあなたも超能力を持ってるんですか?」


「持ってるも何も持ってない人なんていないよ」

「え?」

 信じられない回答だった。こういう超能力なんてものは人間が作った架空のものに過ぎないのではないのか。


「みんな生まれた時から何かしらの超能力は持ってる。ただなんというか小さい超能力だからさ、みんな気づかないんだよ。だから俺は超能力持ってるってわかっている人を"超能力保持自覚者"って呼んでる」

「ちなみにどれくらいいるんですか?」

「海外は行ったことないから知らないけど日本だと50人くらいかな」

 意外と多いような気がした。

「50っていう数字は多いようで少ない。だってみんな持っているはずなのに気づかないからね」

 男性は大きな欠伸をした。そろそろこの不思議な人との会話も終わりか。でも最後に聞いておきたいことがある。

「ちなみにあなたはなんの超能力を持ってるんですか?」


「秘密」


 男性は即答した。

「そろそろ行かなきゃ。あ、そうだ。超能力のこと誰にも言っちゃダメだよ」

「なんでですか?」

「人類が誕生してから何万年も経過してるのに明らかにされてないってことはそれほどみんな気づかないものだしそれほど信じられていないってこと。もし超能力持ってることが知られたらみんな怪しむし、最悪変な組織に連れて行かれるかもしれない。気をつけてね」



 俺は男性が展望台を降りるのをずっと見ていた。しかし、観光客の群れに入ったところで見失ってしまった。


 せめて名前だけは聞いておけばよかった。

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