芳香剤が呼んでいる
縮図 岬
芳香剤が呼んでいる
僕はずっとじぶんの輪郭をさがしている。
揺らめく秋に。
鼻先がひやりとした。
数日前に秋を知らせてくれた金木犀は、「新そば」ののぼりの揺らめきに攫われて、もうずいぶんと遠くなっている。
少し前まで、僕は金木犀という植物を知らなかった。香りだって嗅いだことがなかった。
「トイレの芳香剤」
僕の友達はそう説明した。
誕生日にはわざわざ金木犀の香りのするハンドクリームをくれて、
「ほら、芳香剤」
まぁ、確かに。
そう言われると、頭はもう芳香剤で一色だ。
それにしたって、「トイレの」は別につけなくたっていいだろう。それにわざわざハンドクリームまで買ってきて、『ほらいい匂いでしょ』でなく『ほら、トイレの芳香剤でしょ』とやる人間なんて初めてだ。
おかげで僕は、秋が来るとトイレを思い出す人間になった。
いったいどうしてくれようか。
遠くの芳香剤を嗅ごうとしたら、鼻がつんとした。
僕はずっとだれかの輪郭をさがしている。
揺らめく空きに。
芳香剤が呼んでいる 縮図 岬 @meri_niko3
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