第5話

「詩絵良、セックスって気持ちーな」


 満足そうな表情で穂高くんはパンツを履いた。


 お腹が痛い。

 苦しい。

 助けて、優斗くん。


「あっ、ゲロの掃除は自分でしろよな。はいチーズ」


 と、穂高くんがスマホで私の裸姿を撮ろうとしてきたので、私は慌てて掛け布団で身体を隠した。


 すると、穂高くんは舌打ちをして、


「本当におもんねえ女だな、お前」


 おかしい。

 昨日から穂高くんはどこかおかしい。

 以前までは優しかったのに。

 気性が荒くなった。


「穂高くん、最近おかしいよ」

「あ?」

「なんでこんなことするの……?」


 私は穂高くんが好きだ。

 好きだから、こんなことしないでほしい。


「お前が好きだからだよ」


 少し照れながらそう言う穂高くんが可愛いと思ってしまった。


 ああ、好きだな。

 どんなに酷いことをされても私は穂高くんが好きだという気持ちは変わることはないと思う。

 ごめんね、穂高くん。

 実は私、優斗くんとシちゃったの。


 私が明かした罪。

 謝るべきものだ。

 けれど、告白なんてできない。

 してしまえば、私は殺されてしまうかもしれないから。


「今から雑巾と袋用意するから待ってろ」

「う、うん!!」


 頼りになるなあ、穂高くんは。


 そんなことを思いながら、あの日のことを思い出した。



 穂高くんの家、ベッドでいきなりキスをされ、私は目を大きく開けた。


 ドキドキ、と心臓が鳴り響く同時に恐怖に駆られた。


 幼い時の記憶がよぎる。

 お父さんにヤられたことが。


 同じだ。

 この人もお父さんと同じ目をしている。


「ご、ごめん、穂高くん」

「詩絵良」


 私の言葉など届かないほどに穂高くんの目は完全にスイッチが入っていた。


「ま、まだ、無理なのごめん!!」

「無理?」

「う、うん……私初めてで……」

「本当か? 俺も初めてだ。大丈夫、AVでめちゃくちゃ練習したからよ!! パンパンを部屋中に響き渡せよう!!」


 え……。


 あの人と同じ言葉だ。

 

 お父さんと穂高が重なってしまった。


 やめて。

 穂高くんは穂高くんなんだから。

 あの人じゃない。


「頑張って潮も吹かせるからさ」

「ごめん、穂高くん。無理……」

「無理じゃないよ。大丈夫、シてみようぜ」


 私の言葉など彼には届かないんだ。


「もうよ、こんなに大きくなっちまってるんだ。な? 詩絵良。ヤろうぜ」


 私を抱きしめた。


 優しく。

 なのに強くという矛盾。


 なんなんだろう。

 身体が優しさで温かくなるのと同時に恐怖で冷えていくこの感覚は。


 無理。

 無理無理無理無理無理無理無理。


 私は穂高くんの身体を押してベッドに倒した。


「おっ、詩絵良からシてくれるのか?」

「ごめん、穂高くん」


 慌ててスクールバッグを掴んで走り出した。


 助けて。

 誰か助けて。

 私のこの気持ちを消して。


 なんでだろ。

 

 真っ先に助けを求めようと思った相手は女友達ではなかった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしも学年一可愛い親友のカノジョを寝取ってしまったら さい @Sai31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ