第4話
一瞬時が止まった。
正確には止まっていないのだけど。
そう錯覚してしまうほどに俺の全身に恐怖が襲う。
バレた。
死ぬ。
終わりだ。
「ま、待ってくれ。そのっ、実はさ」
くそ、なんとかして誤魔化さなければ。
「ごめん、本当はお前が新庄さんと喧嘩したの知ってたんだ」
「どういうことだよ?」
どんどんと心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
何としてでもこの修羅場を乗り越えなければ、穂高との仲が崩壊してしまう。
ダメだ。
穂高とも親友でありたいし、新庄さんともまたシたい。
実に俺は欲張りだ。
強欲だ。
人間だもの。
欲深いくらいがちょうどいいに決まっている。
「昨日、たまたま帰り道に元気がない新庄さんを見かけたんだ」
「帰り道? お前、なんでそんな遅くに外にいたんだよ?」
「そ、それは……勉強してたんだ。ほら、図書室で」
俺を睨むように見る穂高。
「信じていいのか?」
「ああ、信じてくれ。な、親友じゃんか」
頼む。
信じてくれ。
お前と絶交だなんて嫌だ。
「それで?」
「そ、それで……新庄さんが心配で理由を教えてもらったんだよ。そしたら、一旦家で落ち着きたいって言われてうちに行くことになったんだ。もちろん、何もしてない。んで、理由を聞くとお前が無理やりシようとしたって教えてもらって、相談役になってたんだ」
ボロを出さないように、なんとか言い切ることに成功した。
大丈夫。
新庄さんも本当のことなど言うはずがない。
そう、俺とヤっただなんて言うはずがないのだ。
「ま、まあ、いざお前を注意しようってなってもなかなか言い出せなかった。俺って本当ヘタレだよなー」
ははは、と作り笑いをする。
「な、なんだそうだったのか……悪い優斗」
お?
「だよな、お前が詩絵良みたいな高嶺の花となんかあるはずないよなー」
「そ、そうだよ、ははは……」
穂高のこういうところが俺は嫌いだ。
人を見下しやがって。
俺だけじゃない。
こいつは人をランク付けするようなクソ野郎だ。
正直言って、こいつはいいとこより悪いところの方が多い。
なのに。
なのに、どうして俺はこいつに惹かれてしまうんだ。
「そっかあ、それ知ってんのか〜」
顔を赤くする穂高。
どうやら恥ずかしがっている様子だ。
「お前、本当に最低だぞ」
「最低ねえ、まあ、あれはあいつが悪いからなあ〜」
ちっ、と舌打ちをする穂高。
「あいつムカつくぜ本当に」
なんだか不安な予感がする。
気のせいか?
そう、だよな……?
○
「お前さ、優斗にチクったな?」
俺は詩絵良の腹部に向かって思いっきり拳を入れた。
「うっ」
その場に腹部を抑えながら倒れ嘔吐する詩絵良。
「うえ」
俺は詩絵良が好きだ。
だって、俺の人生で一番可愛いから。
人生においてこれ以上可愛い人に出会える気がしない。
だから、俺はこいつを一生俺のものにするんだ。
「ひとんちで吐くなよゴミ野郎がよ」
思いっきり、詩絵良の背中に右足を押し付けた。
「無理やりヤろうしとしたのは確かに俺が悪いけどよ、全部、全部お前が股開かねえのが悪いじゃねえかよ。なあ、もう付き合い始めて二ヶ月だぜ? ヤらせろや」
ムカつくムカつくムカつく。
優斗にとっての俺はきっと、男の正解的存在。
そんな俺の印象をぶち壊しやがって。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も何度も謝罪を連呼する詩絵良。
トーンから泣いているのがわかる。
俺は詩絵良の右頬を右足で蹴った後に、
「ならよ、服脱げよ。セックスで誠意を見せやがれ、お前は顔と身体にしか取り柄がねえんだからよ」
優斗。
お前は知ってるか?
セックスってな、めちゃくちゃ気持ちいいんだぜ。
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