第3話

「おはよう」

「ああ、おはよう」


 朝七時四十五分。

 いつものように、インターホンが鳴り、玄関を開けるとそこには穂高の姿があった。


 一緒に登校なんてしたくない。

 そんな気持ちがあるが、断る術がなく、今日もまたこうして穂高と登校することになってしまった。


「どうしたよ、落ち込んでよ」


 違う、下を向いているのは落ち込んでるからではない。

 穂高のことが見れないからだ。


「いや、落ち込んでないから大丈夫……」


 顔を上げて穂高を見た。


「流石に無理があるだろ、辛かったら相談しろよ」


 誰かに相談をすることが可能ならしたい。

 してしまえば楽になれるのだろうか?

 なれるはずがない。

 俺がこれから先一生背負っていく罪のようなものなのだから。

 それでも、誰かに告白すれば少しは楽になれるはずだ。

 ほんの少しでもいい。

 楽になりたい。


 俺と穂高は学校へと足を動かした。


「なあ、聞いてくれよ」


 穂高が口を開く。


「どうしたんだ?」

「実はさー、昨日、詩絵良と喧嘩しちまって」


 その言葉を聞いた途端、全身に寒気が走る。

 

「まじかよお前」


 なんとか顔には出さずに、いつもの俺ならここでなんて返すのか瞬時に判断し、


「あんま新庄さんを悲しませるなよ」


 このあと、こう言うだろう。


「俺が奪っちまうぞ」


 無意識に感情がこもってしまった。


 が、それに穂高が気づくよりもなく、


「ああ、できるもんならやってみろ!! 俺と詩絵良の愛は海より深い」


 なんて調子よく返してきた。


 ごめん、穂高。

 俺、新庄さんとシちまったんだ。

 穂高は知らないだろう。

 新庄さんの胸元にあるホクロ。

 乳首はピンク色。

 彼女の裸を知らなければ知る術のない情報。


「まだ喧嘩中なのか?」

「俺が悪かったし、今日学校で謝る予定だ」

「ならよかった」


 心の何処かで、穂高が別れてほしいと思ってしまった。

 そうすれば、俺は新庄さんと付き合える。

 このまま悪化すれば……俺は、俺は……。


 本当に俺は人として終わっている。

 親友の応援をするべきなのに、何別れてほしいだなんて思っているんだ。


「が、頑張って許してもらえよ」

「お、おう。仲直りHするわ〜」

「お前な……」


 どうせしない。

 なんたって二人はしたことがないのだから。

 

 見栄張るのやめろよ……。


「新庄さんの乳首は俺が舐めすぎて茶色なんだぜ〜」


 やめてくれ。

 新庄さんを汚さないでくれ。

 気持ち悪い。


「高校生恋愛なんて結婚までいかないのが普通じゃんか、俺ってさ、詩絵良と結婚できると思うか?」

「なんだよいきなり。まあ」


 無理に決まっている。


「お前ならいけそうだ」


 一年後、破局していてもなんら不思議ではない。

 むしろ、運命だろう。


「だよな、俺もそんな気がしてよ。最近、子供の名前を二人で考えてるんだ」


 ニコニコとする穂高。


 キモイ。

 だとすると、キモすぎるだろ。

 どうせ、話を振ってるのはこいつだろうし。


「早く大人になって詩絵良と結婚して〜。母乳飲みて〜」

「マジでキモイぞ、新庄さんがそれ聞いたらドン引きするぞ。いや、ドン引きで済めばいいな、振られるぞ」


 というか、聞かれて振られてしまえ。

 俺のためにな。


「なあ、優斗」


 声のトーンを下げる穂高。


 何やら真剣な話をするのだな、と身構えた。


「俺さ、詩絵良と位置情報共有してるんだけどさ」

「お、おう? それが……」


 穂高はスマホを俺に見せた。

 

 詩絵良と書かれたピンが俺の家に止まっているスクリーンショットだ。


 一瞬にして全身が震えだす。


 ドクンドクン、と心臓が胸を飛び出そうとしだす。


「なんで昨日、詩絵良がお前の家にいるんだよ……」


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