第33話 パワーアップ
わたしが見上げている中、天真さんと陸明さんはマーブル模様の空から矢のように放たれるビームのようなものを片っ端から攻撃していた。天真さんが剣で斬り、陸明さんは杖の先に出現させた鏡のような膜で弾き返す。見事な連携で互いを補い合う姿は、流石姉弟とわたしは目を丸くしていた。
「凄い……」
まるで、踊るような戦い方だ。二人が日本でアイドルをしていた頃の、華麗で力強いステップを思い出す。陸明さんが躱すと、天真さんが後を引き取って斬る。反対に、天真さんが斬りあぐねると陸明さんが見事に弾き返した。
「でも、あのままじゃ埒が明かないんじゃ」
ただ空から落ちて来るものを叩き斬ったり弾き返したりするだけでは、空を正常な姿に戻すことは出来ない。そう思ったのはわたしだけではなく、天真さんが「埒が明かない!」と叫ぶ声が聞こえた。
「陸明、俺が斬り込むから援護を頼む」
「わかった。無茶はするなよ」
「ああ」
天真さんが空に向かって斬撃を浴びせかけると、抵抗するようにマーブル模様の空から複数のビームが放たれた。そのビームを叩き割るのが、陸明さんの杖だ。
「――っ! これなら、いける」
そんな陸明さんの声が聞こえた気がした。確かに、最初に日本で力を見せてくれた時とは明らかに技の威力が違う。ちらっと見えたロゼットの宝石が輝いて、陸明さんのまとう魔力の波動が強さを増しているんだ。
「天真!」
「了解っ」
応じると同時に地を蹴った天真さんが、気迫と共に剣を振り抜く。斬撃は衝撃波となって空にぶつかり、耐えようとする異常現象との一騎打ちになる。
(――天真さんなら、お二人なら、大丈夫!)
不安で揺れそうな気持ちを奮い立たせ、わたしは胸の前でペンライトを握り締めて祈った。言葉には言霊が宿るから、大丈夫。
「えっ?」
その時、わたしの手がじんわりと暖かくなった。驚いて目を開けば、ペンライトが青と赤に輝いている。二つの光が勇気付けてくれる気がして、わたしはおもむろにペンライトを振った。その途端、上空で衝撃が爆発する。
「……勝った」
爆発の煙が晴れると、そこには青空が広がっていた。あの奇妙なマーブル模様は何処にもない。
「よ、よかった」
ほっとしたら、力が抜けた。その場に座り込んでしまって、空を見上げる。赤と青の光が見えて、一つ倒したんだと胸を撫で下ろした。
「これは、終わったのか……?」
「ああ。やったみたいだな」
「力が、力が湧き上がってくるみたいだった。凄いな、陽華……陽華?」
青空の中で話をする二人の声が聞こえて来て、次いで何故か焦りを感じさせる天真さんの声が届いた。緩慢に頭を上げると、丁度誰かが目の前に降り立つ。陰になっているけれど、天真さんだとすぐにわかった。
「天真さん……」
「怪我でもしたのか? 大丈夫か、陽華」
「ほっとしたら力が抜けてしまったんです。お二人のお蔭で、わたしは怪我一つないですよ」
ほら。両腕を広げて笑ってみせると、天真さんがわたしと目線を合わせるためにしゃがんでくれる。と、それだけでなく、突然抱き寄せられた。
「てっ……天真さ……!?」
「お前、やっぱ凄いな! お蔭で、いつも以上の力が出せた。陽華、ありがとな」
「あっ……えと……その……ひぅ……」
待って。推しに抱き締められてるってどういう状況ですか!? 何でこんなにアイドルムーブというか、そういう動きが自然に出来てしまうのこの人!
心臓は超特急で爆走していて、顔だけじゃなく体も熱い。それでもわたしは天真さんを突き飛ばすことは出来なくて、パニックになりながらも彼の気持ちは理解出来た。わたしも驚いていたから。
「……っ。て、天真さんと陸明さんのお蔭、ですよ。わたしは、お二人がいなかったら……推し活すること自体、考えられませんでしたから」
「陽華……?」
どうした。天真さんが腕の力を緩め、わたしの顔を正面から見つめた。その時になってようやく、自分の声がわずかに震えていたことに気付く。
「……すみません。思い出したくないことを思い出したみたいです。でも、もう大丈夫ですから!」
「なら、良いけど。……もしも何か話したくなったら、いつでも言うんだぞ?」
「はい、ありがとうございます」
折角達成感で満ちていたのに、水を差してしまう。わたしは今その話をすべきではないと判断して、話題を逸らした。
「――あの、オーロラは消えましたし、城に帰りますか?」
「いや、学園長に挨拶をしていこう。ボクたちは彼女の通報ですぐに動けたようなものだからね」
「……」
天真さんがもの言いたげにしながら、あえて何も言わずにいてくれた。わたしは心の中で「ごめんなさい」と謝ってから、そっと天真さんの腕を押す。すると天真さんは、わたしをようやく解放してくれた。
「……学園長って、この学校のですよね?」
「そうだ。この学園都市の一切を取り仕切る頼りがいのある女性なんだよ。……おや、噂をすればだね」
陸明さんの顔が向いている方を見ると、建物の方からだれかがこちらに向かってるいて来るのが見えた。
「陸明様、天真様。そして、推官様。ようこそおいで下さいました」
「お久しぶりですね、学園長」
「お久しぶりです」
「は、初めまして」
学園長と呼ばれた女性は、凛々しい目元とふくよかな体格が特徴的な中年と呼ばれる年代の方に見えた。
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