第4章 世界の崩壊を防げ

揺れる空

第32話 学園都市ステーディアの異変

 学園都市ステーディア。確か以前教わったところによれば、国内外問わず門戸が開かれた学園を中心に発展した都市。学生たちは寮生活をしており、その生活にかかわる一切が都市の中で完結するとか。


「……これが、現れた異変」


 都市の中央に位置する、アルカディア王立学園のグラウンド。そのほぼ中央に放り出されたわたしたち三人は、真上の異変を見上げている。

 幸いかどうかはわからないけれど、異変はまだ広がってはいなかった。この学園の真上に渦巻き始めている。

 早速それぞれの武器を手にする二人を邪魔しないよう、わたしは数歩後ろに下がった。けれど天真さんが振り向き、わたしの前までやって来る。


「天真さん、どうかされ……」

「陽華、これを」

「これは?」


 手渡されたのは、一本のペンライト。

 この説明はしたかな? ペンライトは、アイドル等のイベントやライブでファンが使用する応援グッズの一つ。百円均一ショップやアニメグッズ専門店で見られる、マラソンのバトンのような形をしたライトのこと。スイッチを押すとアーティストのカラーで輝くの。単色のものも複数の色のものもあるし、公式グッズになると、そのグループの全色をそれぞれ光らせることが可能なんだ。

 Destirutaを例にしてみるね。天真さんを応援するなら赤、陸明さんを応援するなら青のライトにするの。それを振ることで、応援するんだよ。逆に合わせたり、振り付けに合わせたり。ただ振り回すのは危ないから、その場のルールを守ってくださいね。

 でも、どうして今ペンライトなんだろう。わたしが首を傾げるからか、天真さんが手短に教えてくれた。曰く、このペンライトは陸明さんが持っていたものらしい。


「前に、公式グッズだって貰ったのを荷物の中に入れていたらしい。陸明の発案で、それに俺たちの魔力を籠めた。ペンライトが陽華を少しでも守ってくれる」


 ペンライトをかざしてみろ。天真さんに言われるがまま、わたしはペンライトを高く上げる。すると突然ペンライトが青く輝き、わたしと天真さんを覆うドーム状の膜のようなものを創り出した。


「え……」

「うまく作用したな。ペンライトは公式グッズだから、俺と陸明のイメージカラーに光らせられる。陸明の力が守り、俺の力は攻撃寄りになっているから、使いこなして身を守ってくれ」

「つ、つまり、ペンライトが武器になるってことですか?」


 推しを全力で応援するためにライブや円盤の鑑賞会で振りまくってたあのペンライトが、この異世界では武器になる。それは、まさに青天の霹靂のようなアイデア。

 確かに今、ペンライトは陸明さんのイメージカラーである青色に輝いている。それがこのバリアみたいなものを作っているのなら、天真さんの色である赤にしたらどうなるのか、凄く興味があった。

 けれど、実験をしている時間はない。


「天真!」

「わかってるよ、陸明。……陽華、少し離れるぞ」

「はい。わたしなら、大丈夫ですよ。お二人の力が、ここに籠められているんでしょう?」


 そう言って、わたしは微笑んで見せる。危険のただなかにいるんだと空を見ればわかって、意識しないと震えを抑えられない。今は、空が危険だと本能が訴えて来るみたい。


「……陽華」

「早く行って下さい、天真さん。わたしはここから、お二人のことを信じていますから」


 天真さんが、わたしを気にしてくれている。嬉しいけれど、本当は傍を離れて欲しくはないけれど、今すべきことはそれじゃない。お二人を信じて、この異変を止めることが最優先だから。

 わたしの気持ちが伝わったのか、天真さんは頷くと踵を返した。その瞬間に、わたしの頭を軽く撫でていく。触れたのは一秒くらいなのに、気持ちが伝わって来た。


(わたしは、わたしたちは大丈夫)


 ちらりとロゼットが見えた。わたしが作って、天真さんと陸明さんが身につけている大切なもの。必ず、お二人の力になるものだから。


「……ねえ、ペンライト。貴方の力、わたしに貸して」


 手の中にある一本のペンライト。それには大好きな二人の魔力が宿っている。ならば、推官の力を重ねてより強固にすることも出来るかもしれない。わたしはぎゅっと両手でペンライトを握り締め、空中の二人を見上げた。


 ☆☆☆


 陽華にペンライトを手渡した後、俺は陸明の傍に戻った。


「悪い、陸明」

「陽華ちゃんのこと、心配なんだろう? だから、あのペンライトを渡したんだし」

「心配というか……ほっとけないんだよ、あいつのことを」


 これは本当のことだ。何となくいつも目で追ってしまう自分が不思議だが、それくらい陽華のことが気になる。非力な少女をこんな異世界に連れて来て協力させているという後ろめたさがあるんだろうな、と自分では思っているのだけれど、何故か陸明に呆れられるんだ。


「……まあ、それは自分で気付かないといけないことだよ」

「何か言ったか、陸明?」


 陸明が何か言ったようだが、あいにく空の異常が音をたてていて聞こえなかった。重要事項だと困ると思って聞き返したが、何でもないと返されてしまう。


「それより、気付いてる?」

「ああ。……凄く、暖かくて強い力を感じる。今なら、何でもやり遂げられそうだ」


 あいつのお蔭だな。俺が言うと、陸明も頷く。陽華が心を込めて作ってくれたロゼットが、俺たちに大きな力を与えてくれていることをひしひしと感じるんだ。

 俺が剣を、陸明が杖を出現させる。それぞれがより強い魔力を帯びていて、心強い。


「――来るぞ」

「おう」


 その時、異常の真ん中から俺たちに向かってビームのようなものが数本放たれる。それが地上に何本も突き刺されば、クレーターを作り出す危険性があった。

 俺たちは同時にビームに向かって突っ込み、武器を振るう。

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