第30話 緊張帯びる会議
わたしたちが王の謁見の間に入ると、丁度カムイくんが何かを話し終えたところだった。その場にいた四人が、こちらを振り返る。
「陽華ちゃん、もう良いのかい?」
「はい。ご心配をおかけしました」
ぺこりと頭を下げると、陸明さんが「謝ることじゃないよ」と笑ってくれた。
「謝るべきは、ミリファの方だからね。カムイから話は聞いたよ、よく頑張ったね」
「助けてもらったので、なんとか。カムイくん、話してくれてありがとう」
「……別に。あの現象を引き起こしている奴らの動向は、全て同盟国で共有することになってる。だから、気にしなくて良い」
カムイくんはそっぽを向いてしまったけれど、ユキヤさんが苦笑気味に補完してくれた。
「照れてるだけだ。ごめんな、陽華」
「いえ、大丈夫ですよ。……オーウェル様、ご心配おかけしました」
オーウェル様の方を向くと、王様はうんうんと頷いて微笑む。「無事に帰ってきてくれて嬉しいぞ」と言ってわたしの左手を見た。
「怪我をしたと聞いた。……ああ、天真が手当てしてくれたか」
「ああ。だが、次はない」
「――っ」
はっきりと、言い切る天真さん。その気持ちに応えるためにも、わたしも精一杯頑張りたいと改めて思うよ。
わたしたちのことを眺めていたオーウェル様は、コホンと咳払いをすると全体に向かって語りかけた。
「さて……。場所を移して、今回の会議を行おうか。陸明、準備は済んでいるかな?」
「勿論です。さあ、移動しようか」
陸明さんの先導で、わたしたちは会議室に移動した。議題は、アルカディアとミーゼの同盟関係とリズカールへの対応について。
そもそも外交をアイドルがやって良いのかと思ったけれど、ミーゼではアイドルは
「ミーゼでは、去年伝染病が流行しました。国内に病気を留められはしましたが、犠牲者はゼロではありません。病気が特に猛威を振るった発生源と見られる地域では、その一ヶ月前にクレーターが出現しています」
「クレーターからは、毒素が噴き出す。それが原因と考えて差し支えないだろうな」
アルカディアだけではなく、ミーゼでも世界崩壊の足音は近付いている。話し合いは緊張感を帯び、息が詰まりそうなものだった。
けれど、そればかりではないとオーウェル様が微笑む。
「こうやって、同盟国同士で協力し合える。クレーターを作らせないための対処も可能となってきているからな。……簡単に、リズカールの思い通りにはさせん」
「同じことを、我が国の王も申しておりました。……ああ、忘れかけていましたが、こちらが親書です」
「ありがとう、ユキヤ」
オーウェル様は親書を一読して、頷く。それから、いつもの鷹揚な笑顔に戻ってわたしたちを見回した。
「これにて、解散としよう。ユキヤ、カムイ。親書の返事を書くから、書き終わるまで天真たちと過ごすと良い。天真、陸明、陽華も頼んだ」
「はい」
一旦解散となり、わたしたちは陸明さんの提案でお城の庭園へと移動した。前に一度行ったことはあるけれど、それ以来行っていない場所。
「相変わらず、アルカディアの城の庭園は素晴らしいな。刻々と移り変わる季節に応じて、表情を変えていく」
ユキヤさんの言う通り、今の庭園は秋模様だ。赤やオレンジ、黄色に色を変えた木々の葉が風に揺れる。目線を落とせば、芝桜に似た可憐な花が咲き揃っていた。
「ここは、秋の園だ。季節により、来客を案内する場所を変えているんだよ。勿論、他の季節の園は進入禁止じゃない。一番綺麗な物を見せたい、という王のはからいだ」
「確かに、この景色って今しか見られないですもんね……」
綺麗なものを見ると、心が落ち着いてくる。草花だからというのもあるかもしれないけれど、安心感があると思った。
その時、カムイくんが「でさ」と天真さんたちを見る。
「ここに連れて来たのは、ただ綺麗な景色を見せるためだけじゃないんだろ? 何が目的?」
「あけすけだな、カムイ」
呆れ顔のユキヤさんに言われ、カムイくんは頬を膨らませた。
「だってさ、普段ならすぐに闘技場に行って一戦やってたんだし、今回もそうだと思うじゃんか」
「それもそうだけど」
「ふふっ。この景色を見て落ち着いた上で、いつも通りのことをしようとしていたよ。だから正解だ、カムイくん」
陸明さんの言葉に、カムイくんは「ほら見ろ」と胸を張る。
そんなカムイくんの前に、天真さんが進み出た。けれど、何故かカムイくんが若干警戒しているように見える。どうしたんだろう。
けれど、天真さんはそんなことを気にした様子はない。
「今回はミリファと交戦したっていうカムイと手合わせがしたい。良いか?」
「い、良いよ。あんたは戦って負けたらしいな? その時のこと、試合の中で教えてくれよ」
「……わかった」
行こう。そう言って天真さんとカムイくんが向かったのは、秋の園からほど近いところにある闘技場だった。ドームがあるわけではなく、そこだけ何もない空き地のようになっている。
「ここが、闘技場ですか? 陸明さん」
「そうだよ。まあ、多くの戦士たちがここで鍛錬を重ねてきたために草木が全て掘り返されて何も育たなくなってしまった空き地でもあるんだけれどね」
「……空き地なんですね」
草木が生えなくなるまで使い倒すとは、一体どんな訓練や試合をして来たのだろう。
そんなことを考えている間に、目の前のフィールドで天真さんとカムイくんが試合を始めた。それを見て、陸明さんとユキヤさんが顔を見合わせる。
「じゃあ、ボクたちはボクたちでやろうか」
「良いな。容赦はしないぞ」
「望むところだよ。……陽華ちゃん、良かったら見学していて。ボクらの戦い方を」
「は、はい」
二試合が同時に始まり、わたしは交互に両方を見つめる。激しい戦闘が続く中、三十分程経った頃、王の使いという青年がユキヤさんとカムイくんを呼びに来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます