第23話 起きて
※ご注意。
この辺りから、戦闘描写が増え始めると思います。一応セルフィングは致しましたが、苦手・嫌いという方は読み進まれないことをお勧め致します。
それでも大丈夫とおっしゃって頂ける方、感謝申し上げます。
☆☆☆
自分が眠っていることはわかっていた。そうでなければ、あの瞬間が何度も何度も繰り返されることなどありはしない。
俺はあの女の高笑いを耳にしながらも、二人をなんとか逃がそうと必死だった。
「くっ……。早く目覚めないと、あいつのことを」
約束を違えることは出来ない。あれは、短い間に俺にとって大切なものになっていたから。
何度目かわからない自分の血が噴き出すのを見たときのこと、倒れた俺の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「なん……だ?」
これは歌だ。よく知っている懐かしい歌。何故懐かしくてよく知っているかと言えば、俺たちが地球でアイドルをしていた時の持ち歌だから。
(『生々流転』。俺たちのデビュー曲だな)
拙く聞こえるその声は、小さな声量で歌っているが故だろう。俺を起こさないようにしているのだと察せられて、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「呼ばれている。起きないとな」
俺は動きにくい体を起こし、立ち上がる。すると、目の前に淡い白色に輝く丸い光が降ってきた。その光を掴むと、唐突に眠気が襲って来る。
「ああ……これはあいつの力だな」
優しくて、温かく、強い力だ。体に力が満ちるのを感じながら、俺はそっと目を閉じた。
☆☆☆
「ん……?」
「天真さん!」
ベッドの傍で作業をしていたわたしは、背後から聞こえて来た小さな声に驚いて振り返った。立ち上がり、天真さんの顔を覗き込む。すると、ぼんやりと目を開けた天真さんとしばらくして目が合う。
「……」
「……」
「……はる、か?」
「――っ。よかっ……よかったぁぁぁてんまさっ。……うえぇぇぇ」
「え? は? ちょ……何で泣くんだよ!?」
目覚めたばかりの天真さんを困らせている。早く泣き止まなければいけない。そう思っているのに、涙は止まる気配を見せない。後から後から流れる涙が頬を伝い、胸元を濡らして、拭う指から零れ落ちていく。視界は不明瞭で、天真さんの表情もはっきりとは見えない。
「うぅっ……ぐずっ……」
「……ったく。心配かけたな、陽華。ごめん、それからありがとう」
「てんま、さ……」
なかなか泣き止まないわたしに呆れたのか、天真さんが強く抱き締めてくれた。強くて大きくて、暖かい。ああ、目覚めてくれたんだって実感して、わたしは天真さんにしがみつくことしか出来ないでいた。
だから、わたしの声を聞きつけてやって来ていたある人の存在にしばらく気付かなかったんだ。
「……大胆だな、天真」
「…………え、姉貴……!?」
「久し振りに呼ばれたな、その呼び方で。しかも、女の子を抱き締めているなんて」
「こ……こここ、これは別にやましいことなんて……」
陸明さんに見付かったことで、天真さんが一気に慌てる。それでも泣き止み切れないわたしのことを離すことはなく、むしろ陸明さんから守るみたいに抱き寄せてくれた。泣くことでいっぱいいっぱいだった時とは違い、わたしの胸の奥が痛いくらいに音をたてる。この心臓の音が、天真さんに聞こえてしまったらどうしよう。
「てんま、さん……え……えっと……」
「まあ兎に角、目覚めて良かった。これでも案じていたんだぞ?」
「それは本当にごめん。あと、ありがとう。……何とか、こいつが呼んでくれたから戻って来られたよ」
わたしは陸明さんが来ていることを知って、慌ててごしごしと目元を拭う。顔はぐしゃぐしゃで目は充血して酷い顔をしているだろうけれど、陸明さんに報告しなければならないことがあった。
「あっ……の、りくあ、さん!」
「ん? どうした、陽華ちゃん」
天真さんの腕の中にいることを何故かその時忘れたわたしは、天真さんの服を握り締めたままで陸明さんに向かって「天真さんが」と口にしていた。
「天真さんが、起きてくれました! ……よかったです」
「うん、そうだね。……ねえ、陽華ちゃん」
「はい?」
鼻をすんすんいわせながら首を傾げたわたしに、陸明さんが楽しそうに微笑みながら言った。
「そのままだと、天真の理性がもたないかもしれないよ?」
「え? ……あ。ご、ごめんなさいッ!?」
「お……おお」
わたしは慌てて天真さんから離れた。何で慌てたのかも、陸明さんの言った「理性」の意味もよく理解しないまま。天真さんもすぐにわたしを解放してくれて、しどろもどろになってしまう。
「わ、悪い。痛くなかったか?」
「だ、大丈夫です。わたしこそ、服をしわにしてしまってごめんなさい」
「問題ない。……何か言いたそうだな、陸明」
天真さんが話題を向けると、陸明さんは不意に表情を変えて頷いた。
「ああ。クレーターのところに行ってからの経緯を、お前からも聞いておきたいと思っていたんだ。教えてもらえるよな」
「ああ、勿論だ」
天真さんは一つ頷くと、あの時何が起こったのかを話そうと口にした。
「あの時、まさかクレーターの近くに人がいるなんて思いもしなかった。その人がまさか、リズカールのアイドルだとはな」
嘆息し、天真さんは話し始める。あの時、一体何がどうなったのかを。
少しずつ少しずつ、本物の危機が近付いている気配がした。
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