六日目
今日は初めての授業の日だ。驚くことに王女殿下の教育係に採用されたのだ。これでしばらくは食いつなげるかも。私がお屋敷に行くと歓迎され、すぐに王女殿下の部屋に通された。私は扉を開く、緊張の瞬間だ。
「はじめまして、ヨルさん。ティナと呼んでくださいね。」
そこにいたのは王女というにはいささか質素な格好をした、美しい少女だった。
「よろしくお願いします、ティナ様。ヨルです。」
「私は神話が大好きなんです!神様たちのお話や英雄譚なんかを小さい頃からずっと読んできました。是非、色々と教えてくださいね。」
「はい。では今日はこの国の建国神話から始めましょうか。」
ここ、シグルドル王国は英雄シグルドがカルソン人と春野の民の豪族たちをまとめ上げ、邪竜ファヴニールを討ち果たしたことによって建国された。英雄シグルドは神の使いと恋仲になったりと、色々な言い伝えが残っている。まあ、大体はその神の使いから直接聞いたんだけど。そんな彼の話や、ファヴニールの系譜などを教えてあげた。
「先生って博識なんですね!」
「えへへ、それほどでも。」
すっかりいい気になった私はシグルドの家系についても教えてあげることにした。
「シグルドが王になるまで、世界は神々を忘れていたの。宗教はあったんだけど、存在しもしない唯一神を崇めて、神官たちは法外な捧げ物を要求していた。その圧政に唯一抵抗していたのがシグルド家なの。」
「シグルド家?シグルドは家名を持ってないの?」
「今とは少し違ってね、当時のシグルド家は家長が代々シグルドと名乗っていたの。ちなみに彼の故郷はここよ。」
「え、今の王都じゃなく?」
「実はファヴニールは邪竜なんかじゃなくて、人を慮るいい竜だったの。でも彼は老いてしまったから、シグルドが最期を看取ったの。そしてファヴニールこそが、シグルドに神々の知識を与えた本人なの。」
「え〜、本と全然違う。」
「吟遊詩人が代々歌っているうちに変わってしまったらしいよ。」
そんな話をして授業は終わった。
「ソフィアちゃ〜ん、疲れたよ〜。」
「どうでした、初授業は?」
「王女様は大満足で、『授業日以外も是非お越しください。』だってさ。すごくかわいい女の子だったよ。ご飯はお弁当買ってきたからね、東方料理だって。これをビールで流し込んだら寝よっか。」
「お酒好きですね、ヨル様。」
「お酒は捧げ物の中でも最上のものだからね、嫌いな神様なんていないよ。」
へっへっへっ、と笑った私はソフィアとお弁当を広げてお話に花を咲かせていくのだった。
ヨルの日向ぼっこ Crystal Ship @user1971
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