第19話 光の勇者の育て方②
リンというダンジョン配信者の原点。
遡るは今から10年ほど前のこと。
当時小学生だったリンは、休みの日になるといつも元ダンジョン攻略者である父
「おとーさんっ! 今日もダンジョンのお話聞かせてよ!」
「ああ、いいとも。燐は本当にダンジョンの話が好きだな」
「ううん! おとーさんのお話だから好きなの!」
「そうかそうか。今日はそうだな、あのダンジョンの話でもするか」
周輔はリンが6歳になるまでは現役のダンジョン攻略者であり、戦闘能力も探索スキルもそれなりに高い、所謂中堅と言った立ち位置にあった。
当時はダンジョン配信などという概念はなく、調査目的で撮影機材を持ち歩くことこそあったものの、それが娯楽作品として世に出ることは無かった。
ダンジョン攻略者はあくまで純粋なダンジョンの攻略をするだけの人間だったのだ。
だがある日のダンジョン攻略で、周輔は魔物たちの巣に単独で転移させられるトラップを踏んでしまうという致命的なミスを犯してしまった。
その結果、なんとか逃げに徹することで窮地を脱する事こそできたが、周輔は仲間二人に加え自らの片目と片腕を失うこととなり、心身ともに大きな傷を負った事で攻略者を続けることを不可能と判断して引退した。
それ以降はNDKに就職し、後進の育成やダンジョン管理と言った元攻略者ならではの仕事に就くことになる。
「――そこで見つけた剣がなんと純金製だったんだ!」
「わーっ! 金ぴかの剣ってなんかかっこいいね! つよいのかな?」
「いやぁ、流石にそんなものを魔物に振り回すわけにはいかないよ。だからお宝として持ち帰ったんだ」
「へぇ~それじゃあ一気にお金持ちになったんだね!」
「それがそうでもなくてなぁ……」
ダンジョン攻略をしていると、所謂宝箱と呼ばれるものに出会うことが時折ある。
誰が設置したのか、希少価値の高い宝石であったり特殊な能力が付与された武器であったりと様々なものが見つかることがあり、今でもそれを目的としてダンジョン攻略に挑む人間は少なくない。
だが、ダンジョン攻略という仕事は金のかかる仕事である。
魔物との戦闘で必須となる武器防具はもちろん、サバイバル生活を生き抜くための備品、ダンジョンに挑む際に必要となる受付料やNDKからのサポートを受けるにあたっての手数料などなど。
このあたりを借金をして用意する人も少なくはなかった。
さらに見つけたお宝を鑑定してもらう際にも手数料がかかるので、一度お宝を見つけたからと言って、一生安泰という訳にはいかないのだ。
そして周輔がひと通りそのダンジョンで起きた出来事などを語りつくすと、燐はいつも決まってこう言った。
「わたしも大きくなったらダンジョン攻略者になっていっぱいお宝見つけたい!」
そう言うと、周輔は困った顔をしながらリンの頭を撫で、それに対して首を振った。
「はは……確かにダンジョン攻略者は夢のある仕事だけど、出来れば燐には違う仕事に就いて欲しいなぁ」
「えーなんでよー! わたし、きっと強くなるよ! だって光を操るっていうすごーい能力があるんだもん!」
「確かにそれは凄い能力だ。お父さんにはそんな特殊な力なんてなかったから、羨ましいとすら思うよ。もし、現役時代にそんな力があったらあのダンジョンももう少し先に進めたかもしれないなぁ……」
「あのダンジョンって?」
「今は”
「へぇ~でもそんなすごいダンジョンならすっごいお宝とか眠ってそうだよね!」
「そうだなぁ……もし体が万全だったら、もう一度挑んでみたいなぁとは今でも思うよ」
周輔が語った深淵の招手と呼ばれるダンジョン、その攻略はそのままリンの夢となった。
周輔は父として大事な娘であるリンには危険なダンジョンとあまり関わってほしくなかったようだが、娘の夢を頭ごなしに否定するのも良くないとの思いであまり直接的なことは言わなかった。
そしてリンが成長し、いよいよ将来の進路について考え出す頃に、周輔は病に倒れてしまった。
♢♢♢
「――その後、父は亡くなりました。そしてわたしは結局、ダンジョン攻略者の道を選びました。配信という形で世にわたしのダンジョン攻略記を発信し続けることで、天国の父がかつて見れなかった光景を見せてあげたかったんです」
「……なるほどな」
いくら配信したところで、死んだ人間には決して届くことはない。
仮に届いたとしても、いつ死ぬかわからない危険な仕事に就いてしまった娘の姿を見て父も心中穏やかではないだろう。
そう思った碧だが、この状況でそれを口にするのは憚られた。
一方でそれと同時に、あの時彼女たちを救えて良かったとも思った。
「……でもあのダンジョンで思い知りました。わたしには力が足りないと。これまで大きな失敗というものを経験したことがなかったので、正直ショックでした」
「あそこは異常なんだ。それこそ当時の俺たちですら攻略に失敗するほど、な」
「でも、そんな言い訳は本当にピンチの時通用しませんよね?」
「それは……そうだな」
すみません、舐めてました! 今回は攻略諦めるので見逃してください!
そんなふざけたことを抜かしたところで、魔物たちが攻撃の手を緩めてくれることなどあり得ない。
どれだけ不測の事態が発生したとしても、それに対応できてこそ真の攻略者。対応できなかった時点でそれは彼らの能力不足であり準備不足に過ぎないのだ。
これに関してはリンの言っていることの方が正しい。
「だから、今回を機にちゃんと強くなりたいんです。もしまた同じような状況に陥った時に、自分たちの力で乗り越えられるように」
「そういうことなら俺も可能な限り協力する。少なくともあんな上層で二度と苦戦することなどないように」
「そうですね! よーし、なんかやる気出てきた!」
「そうか。ならさっきのやつ追加で3回やってもらおうか」
「3回!?」
「やる気があるなら余裕だよな?」
「ひぃー!! やっぱ鬼畜だっ!」
なんだかんだ言いながらも、結局リンは碧が指定したメニューを全てやり遂げた。
口だけではなくちゃんと根性もあるようで、力尽きて倒れるリンの姿を見て碧はやや満足げに頷く。
これに耐えられるならばリンはきっともっと強くなる素質があると碧は確信していた。
(しかし深淵の招手、か。懐かしい響きだ)
それはかつてDトラベラーズが完全攻略を果たしたことで話題になったダンジョンの一つ。
リンはそれの攻略を配信で届けたいと言っていたが、あの旅人の傷跡裏ルートを攻略できるようになればあの程度のダンジョンは余裕だろうと考えていた。
日本全国のあらゆる高難度ダンジョンを制覇してきた自分が言うのだ。間違いない。
(しかし、こうなると他2人の理由も気になるな)
他の2人もリンのように強くなるために努力を惜しまない人間であるのか。
それを知るためにも、是非とも理由を聞いておきたいと思うようになった。
碧は本体を通じて他の分身体に、自らが得た経験とそれから発生した提案を情報として送りつけた。
ダンジョン管理人の憂鬱〜匿名で美少女ダンジョン配信者を救助したら、失踪した元最強配信者だと疑われてバズってしまった件〜 あかね @akanenovel1
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