第18話 光の勇者の育て方①
「さて、そろそろ始めようか」
「はい! お願いします!」
リンこと
彼女はリンベルサウンドのリーダーであり、3人の中では一番強い(らしい)。
さらに剣士として前衛を務める立場にあることから、リンベルサウンドの3人には彼女を主軸とした戦闘スタイルを想定して強くなってもらうのが最も効率的と言えるだろう。
彼女が保有する能力は”光エネルギーを生み出し自在に操る能力”だ。
光は本来触れることが出来ないが、彼女が生み出す光エネルギーは彼女の意思で固体化し武器や足場として扱うことが出来る。
厳密に言えば光そのものというよりは、光り輝く高エネルギー体という別物といった認識が正しいだろう。
「しかし、いい能力を引いたもんだ」
「えっ?」
「キミの光や氷のような、直接エネルギーを生み出したり操ったりする系統の能力は、シンプルながら強力で、鍛えれば鍛えるほど分かりやすく出力が上がり強くなる」
「確かに戦闘を重ねるごとに、明確にパワーが上がっているのは感じていました」
「だから今回はそれを利用してその光エネルギーの出力を飛躍的に向上させる」
そう言って碧は今一度指を鳴らすと、更に分身体が一つ生み出され、リンの前に立った。
ただしその分身体は、一言もしゃべることなくただ腕を組んでじっと前を見つめているだけだ。
つまりはただの人形。ただしある能力のみに特化させた訓練用の人形だ。
「やることは非常にシンプルだ。キミはただこれに向かって限界まで光エネルギーをぶつけるだけでいい」
「えっ、碧さんに、ですか……?」
「これはただの人形だ。俺の見た目をしている必要はないが、作り変えるのも面倒だから我慢してくれ」
「わ、分かりました。でも光エネルギーをぶつけると言ってもどんなことをすれば?」
「光で作ったもので攻撃するんじゃなくて、純粋にエネルギーだけをぶつけるんだ。光を扱えるならレーザーとかビームくらい出せるだろ?」
「ええっ、そんな漫画やアニメの世界みたいなことしろって言ったって――まあ出せますけど……」
出せるんかいっ、と突っ込んであげるのが正しいのかもしれないが、配信業から離れて久しい碧にはそう言ったノリがしんどくなっているので心の中で留めておいた。
大人になるというのは、ユーモアを失うということなのかもしれないと自嘲するも、あくまでこれは真面目な鍛錬なので真面目な態度は崩さないほうが良いだろうとも思った。
そして碧の指示通り、人形の目の前にまっすぐ向き合う形で立ったリンは、右手のひらを突き出し、その手首を左手で押さえるようにして構えた。
「シュトラール!!」
大きな声で自らに発破をかけるようにその技名を口にしたリンの手からは、うっすらと緑がかったまばゆい光線が放たれた。
その光線は徐々に太さを増し、無防備に立つ碧人形の上半身を飲み込もうとするが、その光は肉体を焼き尽くすことは無く、そのまま体へと吸収されていった。
「――っ!?」
「気にせずそのまま撃ち続けろ。エネルギーがなくなるまで、ずっとだ」
「なくなるまでって、まだまだたくさんありますよ!?」
「だったらもっと出力を上げるんだ。どれだけぶつけてもアレは壊れない」
「わ、分かりました。それじゃあ全力で行きますよっ――!!」
その言葉通り、リンが生み出した光線はさらに輝きを増し、対には碧人形の全身を飲み込むほどに成長した。
しかし、碧人形の後ろに光線が進むことは無い。溢れた分も含めて全て吸収してしまっているからだ。
これは碧の持つ能力の一つ”何でも吸収し異空間に保有しておくことが出来る能力”によるものだ。
この能力の持ち主は、体内に宇宙を1つ持っているようなもので、形あるものないもの問わずなんでも別空間に放り込むことが出来る。
そして放り込んだものは能力者の意思次第で自在に取り出すことが可能だ。
「――っは! も、もう無理……」
「まだだ、もっと絞り出せ。撃ち終わった後干からびても構わない」
「構いますよぉっ!?」
まだ喋る余裕があるならば、それは限界ではない。
本当の限界まで使い切ってもらわなければ意味がないのだ。
ただ、リンは根性があるようで、無理と言いつつもそれから3分近く光線を照射し続けた。
そしてそのまま意識を失い倒れ込んでしまった。
「――よし」
それを確認した碧は、リンの光線を受けるがままだった分身体に指示を出し、その背中に軽く手を触れさせる。
そして先ほどたっぷり吸収したエネルギーを別の能力で変換し、リンの回復に用いる。
詳しい原理は分からないが、リンのようなエネルギーを生み出す系統の能力者は、体内にそれを生み出す炉のようなものを持っており、炉は能力者の体力を燃料としてエネルギーを生成する。
そしてその炉は、能力者の体力が尽きるまで燃やし続けると、次に体力が回復した際により効率的にエネルギーを生み出せるように進化する。
恐らくは次に同じ分だけエネルギーを生成しても倒れなくて済むように、という自己防衛本能からくるものだろうと碧は推測していた。
「うっ……」
「起きたか」
「ここは……ああ、さっきの場所、ですか」
しばらくしてリンの体力が一定値まで戻ったのか、彼女は意識を取り戻してふらふらと立ち上がった。
吸収した光エネルギーをそのまま流し込んでも体力回復にはつながらないが、碧の能力によってそれを変換させることによってこのように回復させることが可能になるのだ。
ということはつまり、リンはまた光エネルギーを生み出すことが出来るようになったということになる。
「よし、もう少し休憩したらさっきのことをもう一度やってもらう」
「ええっ!? また気絶するまでですかぁっ!?」
「そうだ。今日は少なくともあと3回はやってもらう」
「さ、3回……?」
碧の言葉を聞いたリンがドン引きした。
だが、これは冗談でも何でもない。炉の進化は体力が回復するたびに起こり続けることは自らの身をもって確認済みだ。
よってこれをやればやるだけ強くなる、というのが事実なのだ。
碧はそれについてリンに語り聞かせ、この鍛錬の意義を説いた。
「最初の2週間はほとんどこれだ。基礎出力を上げなければ、どれだけ小手先の技術を磨いたってあのダンジョンでは勝てない」
「うぅ……優しそうな顔をしているのに中身は鬼教官だぁ……」
「でも、やるんだろう?」
「ええ、やりますよ! やりますけどね! わたしだって強くなりたいですし!」
その言葉通り、リンはきちんと最後の1回まで全力でやり切った。
そして本日最後の回復で意識を取り戻したころには、心なしかげっそりとした顔になっていた。
せっかくの美人が台無しになってしまっているが、これは必要なことなので仕方がない。
だが、辛うじて喋る元気は残っていたのか、リンはゆっくりと口を開いた
「碧さんは昔こんな事ばっかりやっていたんですか……?」
「まあ、そうだな」
「頭おかしくなりそうとか思った事ってないんですか……?」
「……ない、な。それが当たり前だったから。俺の一番古い記憶を辿っても、その時から俺は姉さんに鍛えられてた。それこそ何度も死にそうになるくらいには」
「そう、ですか……」
それからしばらくの間沈黙が場を支配した。
自分が異常者であるという自覚はあった。それでもここ数年間は精いっぱい普通の人間として振舞ってきたつもりだ。
それでも、こうしてほぼ全てが明るみに出てしまった以上、もはや隠す理由はなくなったのだ。
そして今、自分がやろうとしていることは、普通の人間である彼女を
流れるがままに彼女たちに頼ろうとしてしまったが、果たして本当にそれでよいのかという考えがあの日からずっと脳裏にチラついていた。
だからこそ、碧はその言葉を言ってしまった。
「なぁ……今更だが、姉さんのことは――」
「俺一人で何とかする、とでも言うつもりですか?」
「……なぜわかった?」
「顔に書いてありますよ。巻き込んだことを後悔してるって顔です」
「…………」
どうやら一線を退いてから随分とモノを語る顔になってしまっていたらしい。
次の言葉が見つからなかった碧に対して、リンは「違いますよ」と言った。
「わたし達……いえ、少なくともわたしは、自分の意思で今回の件に首を突っ込んだんです」
「そう、なのか?」
「わたしには目標――夢があります。でも、それを叶えるためにはどうしても力が要ります。だから今回、こうして碧さんを
「…………」
「……つまらない話ですけど、少し、聞いてください。わたしがダンジョン配信を始めた理由についてです」
きっと彼女は、碧に気を使ってくれたのだろう。
だが、純粋に彼女の話には興味があった。何故わざわざダンジョン配信という命懸けの道を選んだのか。
その理由は人それぞれ千差万別。因幡燐という少女について理解を深めるためにも聞いておくべき話だと思い、静かに耳を傾けた。
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