第17話 異次元の能力

「――ってな訳で、わたし達、しばらくここに住むことにしました!」


 あれから1週間後、リンベルサウンドの3人は旅人の傷跡がある町の一角に立つとある物件に引っ越したことを碧に告げた。

 いくらNDKのサポートがあったとはいえあまりにも早すぎるだろうと思ったが、修行期間を2ヶ月と決めた以上、行動が早いに越したことはない。

 幸いにして彼女達は人気配信者。この程度の出費など大して痛くはないのだろう。

 元最大手配信者の一人として、ダンジョン配信者がいかに稼げているかはよく知っている碧だった。


 そして無事彼女達の安定した拠点を確保できたので、ダンジョンの広大な空間を活用して彼女達3人を本格的に鍛える時間が始まった。


「まず確認しておきたいのが、3人の能力についてだ。リンが光エネルギーを生み出し扱う能力、ネオンが銃器を生み出し自在に操る能力なのは分かった。だがベル子の能力はまだ把握していない」

「私の能力はこの"魔法の書"で定義した魔法を扱う能力です。なんでも出来るとまでは言えませんが、創作の世界で魔法による現象として扱われるような事は大体できます」

「ほぉ……それはまた便利な能力を持ってるなぁ」


 ベル子はどこからともなく取り出した分厚い書物を開いて見せた。

 そこには魔法を扱っている様子のイラストとその説明文が記載されている。

 パッと見た感じ、その威力や効果範囲などはある程度指定できるらしく、当人の努力次第で出来ることの限界が伸びることが想像できる。


「碧さんの能力は氷を自在に生み出して操る能力、でしたよね?」

「……違うな。それはあくまで俺の主要な能力の一つに過ぎない。俺の能力は……実際に見せたほうが早いか」


 碧がパチンと右手の指を鳴らすと、碧の影から三つの黒い小さな影が分離し、三方向に僅かに移動する。

 そしてその影から生えるように碧と全く同じ見た目をした分身が生み出された。

 

「わ……すごい!」

「碧さんが4人も……?」

「見ての通りこれは"自身と同格の分身を生み出す能力"だ。分身だがほとんど俺そのものだと思ってもらって構わない。今回はこいつらを使って一人ずつまとめて鍛えていく」


 ネオンとリンの二人は分身体がよほど気になるのか、後ろに回り込むなどしながら観察し始めた。

 だが、ベル子だけは不思議そうな顔をしながらこちら見て言った。


「碧さん。つまりあなたは二つの能力を持っている、と言うことですか?」

「それも違う。正確な数字は忘れたが、俺は少なくともの能力を持つ。氷の力も分身を生み出す力もその一部に過ぎない」

「なッ――そ、そんなことってあり得るんですか!?」

「俺の本来の能力が、複数の能力をこの身一つで扱えるものだったからこそ実現したものだ。ちなみに俺が他の能力を扱える事は世界で姉さんしか知らなかった。だから君たちで2〜4人目だ」

 

 その言葉を聞いて、3人は目を丸くした。

 碧はこの能力のことを表に出すことを好まなかったため、できればずっと秘密にしていたかったのだが、こうして本気で鍛えるとなった以上、出し惜しみはできない。

 碧は自身の持つ能力の知識から彼女達の能力を効率的に鍛え上げ、その出力を向上させることを目論んでいた。


「そんなインチキ能力があっても勝てないお姉さんってどれだけ強いんですか……」

「それはあの残影との戦闘でよく分かっただろう。あんなもの、姉さんの本気には程遠い。遊びみたいなものだ」

「あれで遊び???」


 リンが灯莉の真の戦闘能力を想像して頭を抱えた。

 灯莉は碧とはまた別次元の異常者なのだ。

 彼女が固有で持つ能力は"重力を操る能力"だけだが、それだけで十分――否、もはや能力すらなくても最強の座は揺るがないレベルで強い。


 何故自分たち姉弟だけがこれ程までに強いのか、その理由は碧には分からない。

 無論死ぬほど努力はしてきたつもりだが、それだけでは説明がつかないことがいくつもある。

 もしもう一度、灯莉との対話が出来る機会が設けられたのならば、今度こそ聞いてみたいと碧は思った。


 

 

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