第23話奴隷

「ほら!早く歩けと言うとろうがっ!!大事な荷物まで散らかしやがって!」


「…ひっ!?」


 俺とティアは声が聞こえた場所へと向かったんだ。すると辺りには物が錯乱していて、その錯乱した物の近くで子供に対して鞭を振るおうとしている男性の姿が視界に入ってきた。俺は慌ててその男性の腕を掴んでソレを止める。俺の意思を認識したサチがそんな風に動いてくれただけなんだけどな。



 とにかく男の腕を掴んだまま視線を子供へと移す。その子は薄汚れており、頭には犬のような獣耳、お尻辺りからは犬の尻尾が生えていてプルプルと震えている。服装はというとボロボロの布を纏ったような感じで服という代物では到底ない…。布を纏っていない部分からは鞭で叩かれたのが分かる傷やその跡が垣間見える。



「な、何だ!貴様はっ!この手を離さんか!」


「鞭を振るうのを止めてもらえるなら離しますけど…?」


「止める?何を言っているんだ貴様は?私は私のモノに躾をしているところなんだ!」


「この子はモノじゃないだろ!」


「私の奴隷をどう扱おうが貴様にとやかく言われる筋合いはない!」



 奴隷…か…。この世界の奴隷の扱いはどうなってるんだサチ?詳しく聞いていなかったよな?


『──そこの男性の言う通り…モノ扱いです…。ですので…男性が言うように自身の所有物をどう扱おうがまかり通ります…。仮にですが…殴られ蹴られ…その結果、最悪奴隷が死に至ったとしても…罪には問われません…』



 じゃあ…どうにもならないのか…?



「では、わたくしの領地に居る間はと助かります」 


 凛とした女性の声が響いた。


「次から次に…そんでいい加減、お前は手を離せっ!!痛いだろ!」


 ティアが話をしてくれるみたいなので、俺は一旦男性の手を離す事に…。


「──おお…いてててっ……で、おたくは誰なんだ?領地がどうのこうのは聞こえたけども、痛みのせいで聞き取れなかったもんでね…」


 ティアを知らないという事はこの人は他所から来た人なんだろう…。


「わたくしはこのカシオペア領の領主のティア・カシオペアです」


「っ!?こ、これは…領主様でしたか…言葉遣いが失礼だった事はお詫び致します。ですが…奴隷の扱いに関しましては領主様といえども口に出される謂れはありますまい。こちらはお金を出してこいつを奴隷商で買ったんですよ?その証拠にこのように眷属の首輪と奴隷紋もあります」


「…確かにそのようですね…」


 そうなのか…サチ?ティアでも口を出せないのか…?


『──はい。ありませんね…。先程も言いましたが奴隷はモノ扱いです…。マスターは不思議に思いませんでしたか?ティアさんも一緒にこの場に駆けつけたんですよ?奴隷でなければマスターよりも早くティアさんが男性を止めていたでしょうね…。ティアさんはいち早く奴隷の証である首輪と手の甲に刻まれた奴隷紋に気がついた為に口を閉ざしていたんです…』


 くそ…そこまで奴隷の扱いが酷いなんて…。リーンとリカが必死でグレンさんに追い縋っていたわけだな…。



「でしたら…「ですが…」…なんでしょう…?」


「そちらにいらっしゃる男性は女神様がこの世界に召喚なされた人なのです」


「め、女神様が…!?」


「はい」



「…どうやら…領主様がおっしゃられてる言葉に偽りはないという事ですか…」


「勿論です。女神様の名にかけて」



『なあ、サチ。どうしてあの人は偽りはないと断言してるんだ?』


『──女神様という言葉を使って嘘をついたり、悪い事を行えば神罰がその者にすぐに下されるからです。その者には裁きの雷が落ちてその者を焼き尽くします』


 それでなんだな…。まあ、ティアさんは嘘は言っていなしな。

 


「その男性が止めろとおっしゃっていますので…せめてこの領地にいる間だけでもそういうのは控えていただけますとありがたいのですが…」


「…わ、分かりました。この場は言う通りに致しましょう……さっきは悪かったな…?ここに居る間はコイツを鞭で叩いたりしないから勘弁して欲しい…」



 男性は俺の方へと顔を向けながらそう言って頭を下げてくる。


『この場は…とか、ここに居る間は…って事は…この地を離れたらまたこの人はこの子に鞭を振るうって事なんだよな…?』


『──残念ですが…マスターの思われてる通りです…。マスター…酷な事を言いますが、時には割り切る事も必要になります。奴隷は奴隷でこの世界にはまだ必要な存在なのです。理由として労働力という点が一番ですが当然その他諸共です。この子に限らずもっと酷い仕打ちを受けている奴隷も中には当然います…。全員を救うのは不可能です。それこそ王になり奴隷廃止を訴える王命を出して、それに意を唱えるものを全員斬り捨てる覚悟が必要になるでしょう』



 分かってる。よく漫画でもそうあうのは見たよ。割り切らないといけないシーンも当然あった。もちろん全てを救う展開も漫画ならあったよ。


『──創作は…自由ですからね…。現実はそんなに甘くありません』



 それも分かってる…。だけど…俺はあの子のあんなすがるような目から視線を背ける事はできない。それだけじゃない。あの鞭で叩かれた跡もそうだ。見たからにはなんとかしてやりたいんだ。例えそれが偽善と言われても…せめて手の届く範囲だけでも…。


 頼むよサチ…今回だけでも力を貸して欲しい。どうすればこの子を引き取れる?



『──仕方ありませんね。マスターは…。今回は幸いその子を救えますが…救えない時も必ずあります。ですので…時には見て見ぬ振りもして下さいよ?』



『サチならなんとかしてくれそうだけどな?』


『──神様じゃないんですから、それは無理な話です。まあ、今回はマヨネーズで交渉するとしましょう。先日と同じく私の言葉を伝えて下さい』



 分かった。ありがとうな、サチ…



「…少しお尋ねしても?」


「なんです?」


「その子を譲っていただけませんか?」


「えっ…?いや、しかしそれは…」


「勿論。ただでとか厚かましい事は言いません。お金でもいいのですが、お金では今は買えない物と取り引きというのはいかがでしょうか?見たところ商売をされてるんじゃないですか?商売をされてるならコレの価値が分かられると思うのですが」


「ええ。確かに商売をしていますよ。ここに来たのも、ここの地域で取れるエレファントゴリラの肉等の買い付けですしね」


「ですよね。それに合う調味料が取り引き商品になります。これは今朝炙っておいたエレファントゴリラの肉を火で表面だけ炙ったものになります。料理名はつけるなら【エレファントゴリラの肉たたき】といったところでしょうか」


 俺はそう言ってすぐに、今朝軽く炙って切って皿に盛りつけしておいたエレファントゴリラの肉をアイテムボックスから取り出した。先日肉屋で買った肉の中にエレファントゴリラの肉もあったんだよな。魔法があるこの世界だから安心して生でも肉が食べられるのは凄いよな。まあ、作っておいたのはアイテムボックスがあるからだし、そのおかげで保存は完璧だし、いつでも出来たての料理を取り出せるから、空いた時間についでに作っておいたほうがいいということで作って収納しておいたんだよな。まさか早速役立つとはな…。サチに言われた通りにしてて本当に良かったわ。



 んっ…?もしかして…コレもサチは見越していたんじゃあ…


 

『──さぁ、マスター。男性が待っていますよ』


 分かってる。ティアは物欲しそうにこっちを見ないで?後であげるからね?約束ですよって勿論です。ですので…後程…はい、宜しくお願いします。

 


「…コレにこの特製調味料のマヨネーズをかけて出来上がりです」


「まよねぇず…?」


「さあ、どうぞ食べてみて下さい。このマヨネーズは女神様が作られた別世界、つまり俺がいた世界では有名な調味料なので!」


「…こんなブニュブニュしたものが本当の美味しいのか?しかし…女神様が作られた他の世界では有名だと言うし…いただこう……パクっ……

…もぐもぐもぐ………ごくんっ………これは………美味い…」


「このマヨネーズは他にも野菜にもあいますよ?」  


「野菜にもか!?一度食べたら…確かに忘れられない…もう一度求めてしまう味をしているな…」

 

「今のところの話になりますがこのマヨネーズは出回る予定はありません」


「…どのくらいこのまよねぇずはいただけるんだ…?それなら価値が凄くあるのではないか?逆にこちらが足りないのでは?」  


「いえ、こちらが無理を言っているのは分かっているので足りないなんて事はありませんよ。量は小樽一杯分をお渡しします」

 

「…分かった。奴隷は手に入るがこれは手に入らなそうだからな。しかしこの子との契約解除はどうするのだ?この街に奴隷商はないだろう?」

     

 奴隷商でそういうのはしないと行けないのか…。この人について奴隷商があるところまで出向くか…?




「──それならウチがその子の奴隷契約の解除をさせてもらいまスッ♪ 」



 そう言って声をかけてきたのは俺より少し歳が上だと思われる女性だった。






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2024年12月18日 18:00 毎日 18:00

異世界でスローライフを満喫する為に(出来たらいいなぁ) 美鈴 @toyokun

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