ドレスを着た彼女

柊 こころ

ドレスを着た彼女


夕方に起きて

顔を作って

髪を結って

職場へ向かう


私はドレスを身にまとい

「初めまして、蘭です。」


と、名刺を差し出し

ドリンクを聞いては作り

話を合わせ

相槌を打って

出来る限りの場内を取る


その1日だけは

「嬢」を纏う。



「皆勤賞だー…」

先月は1日も休まなかった。


そんな私、蘭。28歳。


そろそろ水商売とも

サヨナラしなくてはならない。


だけど私には目標がある。



「1000万貯めてから」


高望みかもしれないけど

それなりに貯まっている



使い道なんて分からない

だけど



何か刺激が欲しかった。



何かは分からない。




人のために使う偽善か

自分のために使う善意か


躊躇っている私がいる。









そんな私は今日も

ドレスを身にまとい


夜の世界へ行く。



ずっと、ずっと

叶わぬ恋をしたまま。



「元気かな…」



なんて思ってたら

肩がぶつかった。



「すみません!」



道にいたのは

ずっと片思いしていた相手だった。



「蘭…?」


「美月…?」



あ、あれ?



こんな人…だった?




彼はホストになっていた。

そこそこ売れているのか

身にまとう物が高めだったと思う。




「元気…?」


「酒飲み過ぎて肝臓やばい、そっちは?」


「まぁ、私も同じく…かな」


「蘭なら余裕でしょ!」




って、交した相手

美月との約束があった。




お互い30歳までフリーだったら

お試しで付き合ってみる。


そんな、屑っぷり。




「美月はフリーなの?」


問いかける私に

美月は苦笑いで、こう言った。




「仮面夫婦だね。」










あぁ、私の恋は

儚く、一瞬で散ってしまった。


そっか…と言う私に対し

美月は問いかける



「蘭、幸せにな」





うるさい。


うるさい。うるさい。うるさい。



言われたくなかったよ。

その言葉。



叶わぬ願い、想いは

儚く散っていった。




ポツポツと歩く私



「目標、なんだっけ」



完全に見失ってしまった。






何のためにお金を残し

何のために働いていたか

全くお先真っ暗で




「辞めどきだな」



そう、思った。












もう、ドレスは纏わない。


願い事がないから。

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ドレスを着た彼女 柊 こころ @viola666

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