ep.4 確率

エミリーは困惑した表情を浮かべた。



「博士、運命は確率では測れません これは彼の思い込みではないでしょうか?」


「そうかもしれないな。しかし、モーガンが私たちを挑発しているのは一目瞭然だ」



とマイロは答え、眉を顰める。



「彼の自信が、私たちを次のステップに導くかもしれない。さあ、彼のオフィスに行こう」




二人はモーガンのオフィスへと向かった。


オフィスの中は高級感にあふれ、壁にはハーリングが遺した作品や彼の業績に関する展示物が並んでいた。


モーガンは背筋を伸ばし、マイロとエミリーを迎え入れた。



「お待ちしておりました、博士。私の宝石ビジネスについてお話しする機会を頂けるとは」とモーガンは口を片手で抑えながら微笑した。


「あなたの宝石ビジネスには、興味が尽きません。しかし、我々はあなたの考え方について話しがしたいのです」とマイロは言った。



モーガンは一瞬怯んだ様に目を細めた。



「確率はすべてのビジネスにおいて重要です。それを無視する者は、自らの運命を誤って選ぶことになるでしょうから」


「では、あなたの運命がどれほどの確率で変わるか、私たちに見せてください」とマイロは言葉を続けた。


「ハーリングの死と宝石の行方には、あなたの選択が深く関与しているはずです」




モーガンは微笑みながら、机の上に置かれたダイヤモンドを手に取った。



「この美しい石は、確率の象徴です。正しい決断をすることができるのは、ほんの一握りの人間だけなのです」



エミリーはじっとモーガンの目を見つめ、鋭い疑念を抱いた。



「あなたは、確率論を用いて、彼を殺したのでしょうか?」



モーガンは肩を震わせた。



「それはあなたの思い込みです。私が関与したのは、運命の意志に従ったという事だけに過ぎません。宝石を持っている者が、その価値を知るのは当然のことです」



その言葉に対し、マイロは眉を上げた。 



「運命の意志?それはどういうことで?」


「確率と運命は同じものです。私たちが選ぶ道に従い、時にその結果が私たちの選択を変えるのです」



エミリーは呆れたように言った。



「博士、彼は確率と運命に縋り付いているだけですよ」


「それが彼のトリックだ」



とマイロは思索にふけった。



「彼は、自らの行動が如何にリスキーであるかを理解していない。確率は常に変動する。 それが、人間の持つ不確実性なのだ」


そこで、マイロは突然立ち上がり、モーガンに近づいた。



「実は、あなたの信じる運命の裏には、私が用意した罠がある。私がこのダイヤモンドの真実を見つけるために、あなたをおびき寄せたんです」




モーガンは驚いた顔をしたが、その表情の裏には隠された恐れが覗いていた。



「何を言っているのですか?この時に冗談はよしましょう」



マイロは、「あなたの確率的な論理は、実はあなた自身の首を絞める結果です。ハーリングが遺した数々のメモには、ダイヤモンドの正体が記されている。あなたがその価値を知ることは、運命を引き寄せることに他ならないのだ」


「メモ?そんな物…」モーガンは小さく呟き、目を見開いた。「でもそれはどうやって証明するのでしょう?」


「それは簡単だ、モーガン、私たちは貴方を法廷で争わせる必要がある。ハーリングの死の真相を暴くことで、ダイヤモンドの行方も自ずと明らかになるだろう」



とマイロは言い、エミリーに目を向けた。



「確率的に言えば、真実は必ず明らかになるはずだから」



モーガンはその言葉に反論する間もなく、マイロとエミリーはオフィスを後にした。


外に出ると、エミリーは笑いを堪えて言った。



「博士、今回は確率と運命の逆転を見せてもらいましたね」


「確かに、時には、確率が我々の前に立ちはだかる障害となる。しかし、その法則を理解することで、真実を暴く道が開けるんだよ、まだこの事件は曖昧だけどね」とマイロは微笑みながら答えた。



「さ、次の事件は待ってないから戻ろうか」


そう言いながら二人は駆け足で美しい街を駆け抜けていった。

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マイロ・ウェリントン博士はアブストラクトな夢を見る 翡翠 @hisui_may5

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