ep.3 確率
今日のロンドンの街は薄暗い曇り空に覆われ、霧が立ち込めていた。
マイロ博士は助手のエミリーとともに、犯罪心理学の研究の一環としてまたも奇妙な事件に直面していた。
それは、街でも名高い宝石商エドワード・ハーリングが自宅で死亡し、貴重なダイヤモンドが消失した、というものだった。
ハーリングは、自身の宝石に関する書籍を執筆中であり、その内容が彼の死後に明らかになるのか、と疑念を抱かれていた。
「エミリー、これがプロバビリティというものだよ」
と緑色のウィスキーグラスを片手に持ちながら、机の上の資料にマイロは目を通していた。
「確率的に考えると、ハーリングが亡くなることはまず、あり得ないはず。彼は自宅で独り身だったし、特に危険な状況にも置かれていなかった」
エミリーはその言葉に首をかしげた。
「博士、確率はあくまで統計的なものであって現実はそれを覆すこともあるでしょう?」
マイロはニヤリと笑い、チッチッと口を鳴らしながら指を立てた。
「その通り。しかし、私たちがここで探るべきは、その確率の裏に潜む真実なのだ。ハーリングの死因を特定することが、ダイヤモンドの行方を突き止める鍵になるだろう」
二人はハーリングの書斎に向かった。部屋には書籍や原稿が散乱しており、彼が遺したメモやスケッチが床に転がっていた。
エミリーはふと一枚のメモを拾い上げ、眉をひそめた。
「このメモ、『確率論の法則』と書かれています この法則は、特定の条件下でどれだけの確率で結果が出るかを示すものですよね?」
マイロはそのメモを手に取り、じっくりと観察した。
「そうだな ハーリングはその理論を用いて、宝石商業のリスクを計算していたのかもしれない。しかし、彼がリスクを計算しすぎた結果、命を落としたのではないかと考える事も出来る」
エミリーはその距離を詰め、興味津々で質問した。
「では、私たちが求めるべき情報は、彼の周囲の人々や、ダイヤモンドに関する具体的な情報ということですか?」
「そうだ エミリー、これは周囲の人間関係を把握し、誰がこの事件で最も利益を得るかを考える必要がある。そして、ダイヤモンドの行方がどのように変わったのかを追求するのだ」
調査を進めると、二人はハーリングのビジネスパートナーであるルシアス・モーガンに行き着いた。
モーガンはハーリングの死後、突然大きな商業契約を結んでいた。
その契約内容は、ハーリングが生前に彼に提案していたものであり、ダイヤモンドの取引に関するものだった。
「モーガンは確率に基づいてハーリングの命を利用したのかもしれません」とエミリーは言った。
「それが、彼の計算による合理的な選択だとしたら?」
「確率的な要素を利用した、まさに計算高い手法だ」とマイロは頷いた。
「だが、彼が実行したのはあまりにもリスキーだ いかに計算高い人間でも、確率の逆転はいくらでも起こりうるからな」
その時、二人の元に一通の手紙が届けられた。
差出人はモーガンだった。
「ハーリングの宝石が私の手に渡った時、彼の理論において真実が明らかになる。恐らく、我々の間には不可避な運命が待ち受けている」と記されていた。
「これは面白い」とマイロは大きく音を立てながら拍手をした。
「彼が自らの運命を信じることで、ハーリングの死とダイヤモンドの行方に何らかのヒントを残したようだ」
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