ep.2 毒
クラブの支配人に話を聞くと、ある情報が浮かび上がった。
事件当日の夜、オルコットのテーブルにワインを運んだのは、新人ウェイターのピーターだった。
彼はワインに関しては全くの無知で、ベテランソムリエの指導を受けていたが、犯行当日は何故かそのソムリエが当日欠勤していた。
「どうやら、私たちはピーター君に少し話を聞く必要があるな」
マイロはそう言いながらクラブ支配人に指示し、ピーターを呼び出してもらった。
やがて現れた青年は、緊張した面持ちでマイロたちの前に立った。
「君がオルコットのテーブルにワインを運んだのか?」
マイロが優しく尋ねると、ピーターはオドオドしながら頷いた。
「はい…ですが、僕はただ指示通りに運んだだけです。ワインに毒なんて入っているなんて思いもしなかったので…」
「もちろん、君が直接手を下したわけではないのは安易に想像出来る。しかし、君の行動にはほら、誰かの影響があったんじゃないか?」
マイロは鋭い眼差しでピーターを見つめた。
「…あっ!そう言えばあの夜、クラブのメンバーの一人が僕に“このワインを特別に出してくれ”と言ってきました。彼はワイン通だと聞いていたので、疑いもしませんでした」
ピーターの声は震えていた。
「その人物の名前を教えてくれないか」
マイロの声には、問い詰めるような厳しさはなかった。
ピーターは少し躊躇しながらも、
「それは…ジェームズ・モリス様です」
と答えた。
マイロとエミリーはすぐにジェームズ・モリスを訪ねることにした。
彼はオルコットと長い付き合いがあり、かつてはビジネスパートナーだったが、数年前に大きな投資で失敗し、オルコットとの関係が悪化していた。
「これはこれは、マイロ博士、突然の訪問とは、何かご用で?」
モリスは優雅な仕草でソファに座り、紅茶を一口含んだ。
「ええ、少し気になることがありまして、あなたはオルコットの死に何か心当たりは?」
マイロはゆっくりと質問を投げかけた。
モリスは笑みを浮かべたまま首を振った。
「彼の死は私にとっても悲しい出来事ですが、何も知らないですよ」
「そうですか、」
マイロは静かに立ち上がり、部屋を見渡した。そして、飾られたワインコレクションに目を向けた。
「ところで、ワインに詳しい方とお聞きしましたが、オルコットの最後の晩餐に出されたワインについて、何かお心当たりは?」
モリスは視線を泳がせた。
そして微かに笑みを浮かべながら言った。
「それは、何もないです。ワインに詳しい?そんなのただの噂ですよ、私はただ味が好きでワインを飲んでいるだけです」
「なるほど。ですが、あなたがワインに詳しいという噂が真実であるならば、私がここにいる理由もお分かりいただけるでしょう?」
マイロは鋭い目で彼を見据えた。
モリスはハッとして息を呑んだ。そして次の瞬間、彼の左手から紅茶のカップが落ち、床に甲高い音を立てて割れた。
♦︎♦︎♦︎
翌朝のテレビでは大きくモリスの顔が報道されていた。
「やっぱり、モリスだったんですね。博士、あの後警察に?」
「いいや、自分で行ったんだろう。僕の仕事は犯人に罪を自覚させるだけだよ、あーそれで結局、モリスは自分の投資失敗をオルコットのせいにして恨んでいたんだって」
「そうだったんですか、まあ私たちが出来る事は限られてますからね とにかくモリスは怨恨でワインをすり替えて毒を入れた、と やっぱり犯罪は複雑ですね。」
エミリーは感心しながらマイロに言った。
「そう、複雑だが単純でもあるどんな犯罪にも、隙が必ずあるんだよ」
マイロは空を見上げて大きく伸びをした。
「さて、次の事件は何かな。もっと面白い事を期待したいね」
彼はそう微笑みながらまた新たな謎を求めるように歩き出した。
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