第7話 インタビューについて
「インタビュー対象について。現状では、運動部、文化部、成績優秀者の三人にしようと思ってる。以前にもインタビュー記事があったからそれを参考にしたんだけど、紙面の幅や内容の充実を考えると三人がちょうどいいと思う」
スクラップブックの該当箇所を開いて絵美に見せる。
インターハイの前に、有力な部活に対してインタビューを行ったものだ。
自力で文章を考えるのが面倒だからという理由でインタビューしたことが透けて見える、薄っぺらい内容のものではあるが、参考になる部分もあるだろう。
絵美が難しい顔をして、記事を流し読みしている。
「そう、ですね。人数はそのくらいがよさそうです。枠の割り当てもいいと思います。もしかして具体的な人選も済んでますか?」
「候補は絞ってるけど、ゴーサインが出たのが今さっきだから、声かけはまだ。文化部はほぼ確定のつもり。運動部は複数候補がいるけど、とりあえず第一希望が色々な意味で一番上手くいきそうだから、そいつ次第。問題は成績優秀者。聞きたいんだけど絵美って今回の実力テスト学年何位だった? ちなみに俺は三位ね」
「二位です」
「やっぱり。一年のときの定期テストも毎回二位だっただろ?」
「はい。知ってたんですか?」
「いや、俺も毎回三位だったから。不動の一位はよく知ってるし、他に勉強できそうな知り合いで二位をとったことあるやつがいなかったから。じゃあ成績優秀者も決まりだな。俺たちよりも順位が低いやつに対して、成績優秀者っておだててインタビューするなんて嫌味にしかならないし」
「それは……。ええと、不動の一位って優木さんですよね? その……、大丈夫ですか?」
普段の悠永の俺に対する態度を見ているならば、そう言いたくなるのはよくわかるが、絵美の口から聞くと少し面白い。
「何とかする。最悪俺が絵美にインタビューするよ。逆でもいいけど」
「……そうならないことを信じて、お任せします」
「大船に乗ったつもりで任せたまえ」
悠永は他人に対して当たりが強いが、理不尽ではない。だからこそ余計近寄りがたいというのもあるのだが。
筋を通して誠心誠意お願いすれば、すげなく断られることはないだろう、と信じることにする。
「それにしても学年トップスリーが同じクラスって、クラス分け適当過ぎだろ」
「主要科目はクラス混合の少人数制だから、クラス分けに学力は関係ないのでは?」
「そんなもんかね。今のクラスで都合がいいから、どうでもいいか」
「……そうですね」
二年生なら進学実績への影響も三年生ほど気にしなくていいだろうし、学力以外の事由を配慮した結果なのだろう。
「では、私は文化部の方に声かけさせてもらえますか?」
「気持ちはありがたいけど、それには及ばないよ。琴音!」
「お安い御用だよ!」
カウンターで読書をしつつも聞き耳を立てていたのだろう。事情を説明せずとも快く了承してくれる。
読み止しの本に栞を挟んでから、こちらに歩み寄ってくる。
「で、私は何をすればいいの? 二人が難しい話を始めてから全然聞いてなかったよ」
前言撤回。俺の声から頼み事の気配を察知して、とりあえず返事をしただけのようだ。
気を取り直して事情を説明した。
「オッケー。お安い御用だよ。いつやる? 今日?」
「いや、まだ作戦会議中だから今度な。他のやつの都合もあるから、調整できたら改めて伝えるよ。今年も部活は毎週水曜だろ?」
「うん、来週は祝日だからお休みだけど。図書委員も今月は大丈夫だよ」
「わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
琴音は再びカウンターへと戻っていった。
「こんな感じ。最悪俺一人で全部やり遂げなきゃならないことを想定してたから、締め切りもあるし可能な限りの仕込みは済ませちゃってるんだ」
「私にできそうなことって何か残ってますか?」
俺の下準備癖にも慣れてきたのか、絵美は落胆を見せずに尋ねてきた。
「残ってるも何も、仕込んだ材料はもうこれで全部だ。絵美には俺の用意した材料を上手いこと調理する方に力を注いでもらいたい。つまり、これまで説明した部分以外はノープラン。ということで何か疑問点や気になった点があれば、率直なご意見をお願いします」
「敦君のことだから完全にノープランではないはずです。ノープランということにして、私が気兼ねなく意見を出せるようにしてくださってるんですよね?」
「そう思わせることで、絵美に意見を出すことを強いてるのかもね」
「もう。敦君は私にどうさせたいんですか?」
わずかに頬を膨らませて怒っているポーズをとるけれど、声色は楽しげだ。
「すまんすまん。絵美の緊張が解けてきたのが嬉しくて、ついからかいたくなっちゃった。怒った顔も可愛いな」
「かわ、そ、そんな……」
顔を真っ赤にして、しどろもどろになる。照れた顔も可愛いぞっと。
追撃したくなる気持ちをぐっとこらえて、絵美が立ち直るのを待つ。
「落ち着いた?」
「はい、大丈夫です」
「よかった」
「よかった、じゃないです。そもそも、あっ、いえ、大丈夫です。何か言うとまたからかわれそうなので黙ってます」
絵美が恨めしげな目で見てくる。いい傾向だ。
気兼ねなくあって欲しいのは意見だけではないのだから。
「ごめん。真面目に話を聞くから許して」
「次はないですよ」
「はい、肝に銘じます」
「それなら、許します」
「ありがとうございます」
平伏するように、机に両手をついて頭を下げる。
「またふざけて……、もう、いいです。話を戻します」
「ああ。残りは完全に出たとこ勝負のつもりだから、絵美を頼らせてくれ」
「わかりました。ではまず、インタビューの質問内容は具体的に決めてないんですか?」
「そうだね。全員親しい間柄だから、変に構えるよりは雑談のつもりで話して、テーマに沿った内容をピックアップしていく形がいいかなと」
型通りの質問をするなら、わざわざ二人で出向いて対面でインタビューする意味が薄い。
せっかく絵美を巻き込むのだから、フリースタイルの方が効果的だろう。
「なるほど。運動部はどなたに頼む予定ですか?」
「野球部の桑原和真(くわはらかずま)。一応俺の幼馴染。明日部活が休みらしいって噂だから、多分断られない」
「そうなんですね。野球部は確か、去年の秋の県大会で創設以来初めて準決勝に進出したんでしたっけ?」
「だね。まあ世間的には地味な実績だけど、和真は一年生で四番打者として活躍したから」
より好成績を残している部活もあるが、活躍していると言える二年生で一番扱いやすいのは和真だ。俺にとっては、だけど。
「体が大きいから、ボールも飛ばせるんですね」
「そんな感じ。絵美は野球どのくらいわかる? そこそこ話が通じそうだけど」
「父が野球好きで、一緒にテレビ中継を見ることがあるので、基本的なルール等は問題ないと思います」
「記事に書けないようなマニアックな話にはしないから、野球の知識はそれで十分」
「わかりました。他に知っておいた方がいいことってありますか?」
「これは提案なんだけど、できれば絵美には先入観なしのフラットな状態でインタビューに臨んでもらいたいんだよね。俺と君が違う視点に立つことで見えるものがあると思うから」
両の目が異なる位置から観測することで、立体的に物が見えるように、せっかく異なる視点を持っているのだから、それを重ねてしまうのはもったいない。
それにそっちの方がきっと楽しいことになるだろう。
「本物の新聞に載せるようなインタビューだったら、対象のことに詳しくないのは失礼極まりないんだろうけど、三人ともそんなことは気にしないから」
「……いいんでしょうか?」
「まあ、一人目でダメだったら次からはやり方を変えよう」
「そうですね。わかりました」
「後は?」
「では最後に、紙面の構成は私に任せてもらえませんか?」
「是非頼むよ。実のところ、俺はそういうの疎いから絵美がやってくれるのならめちゃくちゃ助かる。過去の新聞をサンプルとして見てもらったけど、ぶっちゃけ今一つじゃないか?」
雑誌や新聞のようなレイアウトに工夫を要する媒体とは縁遠いから確信は持てないが、文章の内容云々以前に面白味を感じないデザインだと思う。
やっつけ仕事に質を求めること自体がナンセンスなのかもしれないが。
「色々事情があるでしょうから、あまり言いたくはありませんが、質の高いものではないと思います。パッと見て目を引くところがありませんし、単に情報を羅列してるだけのように見えます」
「なるほど。俺たちの目的を考えると致命的な欠点だ。いい感じにできそう?」
「今すぐは無理ですが、やってみます。他にも気になる部分があるので、参考にこれを持ち帰りたいんですが、できますか?」
「そのままじゃ無理だけど、コピーして持ち帰る分には大丈夫だったはず」
「うん、お兄ちゃんの言う通りだよ」
琴音の声に振り返ると、気付かぬうちに背後に立っていた。絵美は琴音に対して問いかけたようだ。
「いつの間に」
「ちょうど今。本が読み終わってキリがいいから、何か手伝えることないかなって。私がコピーしてくるよ」
「助かる。ちょっと待ってて」
財布を取り出すために鞄に手を突っ込む。コピーは一枚十円だったかな。
「いらないよ。ちょっと遠いけど職員室に行って、先生に委員会で必要だって言えば、コピーしてもらえるから」
「賢いな」
「私たちのことなのに、わざわざそこまでしてもらうのは申し訳ないです」
絵美が本当に申し訳なさそうに言う。
琴音が自分から言い出したのだから、返事は決まりきっている。
「大丈夫。お安い御用だよ」
琴音がドヤ顔で言いきった。
戸惑いながらこちらを見る絵美に、口の動きだけで「大丈夫」と伝える。とりあえず琴音の好きにさせてやってくれ。
「……はい、では、よろしくお願いします」
「任せて。もし誰か来たら、お兄ちゃん何とかしといてね」
「ああ、手続きは覚えてるから大丈夫。じゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます」
琴音はスクラップブックを抱えて、図書室から出ていった。
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