王子様
涼の部屋
Wデートをした日の夜。
「祐希、起きて……」
遠慮がちに体を揺らされ、閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
ボヤけていた視界がクリアになり、リビングとは違う、シンプルな落ち着いた部屋の景色が目の前に広がる。
白い勉強机と参考書が並んだ本棚。私と涼と健で撮った写真。
あ、涼の部屋だ……。私、いつの間に寝ちゃったんだろう?涼が掛けてくれたのかな。身体が布団に包まれてる。
「おはよう」
「ごめん。寝ちゃって」
「全然いいよ」
慌てて起きて謝ると涼は私に眩しい笑顔を放ってきた。
眩しい。朝日よりも眩しいっ。キラキラしてる。思わず目が眩んじゃうよ。
ってあれ?私、最初からベッドで寝てたっけ?確かリビングでみんなと一緒にホラー映画を見てたはず……。
「ねぇ。私、どうして涼の部屋に居るの?」
「気持ち良さそうに寝てたから。どうせならベッドで寝た方がいいと思って部屋まで運んだ」
「え?運んだって……」
涼が私をリビングから2階の部屋まで?その華奢な体で?う、嘘!?
「……重くなかった?」
聞きたくないけど、聞かずにはいれずボソッと尋ねる。だけど、何だかもう恥ずかしくて布団を鼻の辺りまで
すると、涼は目を細めて優しく微笑んだ。クスクス笑いながら私の頭を撫でてくれる。
「全然。そんなこと心配しなくていいよ」
「あ、ありがとう……」
首を横に振られ、いろんな意味で安心する。
やっぱり優しいや。涼は。心に浮かんだ不安まであっさりと消し去ってくれる。こんな風に頭を撫でて貰えるなんて今日は来て良かった……と思ったところで気付く。
そう言えば美雪と健はドコに行ったんだろう?姿が見えない。リビングに居るのかな?
「美雪と健は?」
「あの2人なら帰ったよ」
「え?帰っちゃったの?」
「何時間も前にね」
クスクス涼に笑われてポカーンとした顔を向けてしまう。
2人とも家に帰ったんだ……。それじゃあ、今、私と涼は2人っきり?それってかなり久々かも。って数時間前?
「えぇっ!?もう1時なの?」
誘われるように枕元の時計を覗いて驚く。体感的にまだ19時くらいだと思い込んでたのに、時計の針は既に午前1時を知らせてる。完全に寝惚けてたみたい。
ど、どうしよう?今日は涼の家に行くって連絡もしてないし、こんな時間まで連絡もしないでお母さん心配してるだろうなぁ……。
むしろ怒ってるかも。やだな。お母さん怒ると怖いし。
「あ、オバさんには俺から電話しておいたから」
「本当に?ありがと……!」
涼の言葉にほっと胸を撫で下ろす。
良かったー。これでお母さんに怒られなくて済む。さすが涼だ。分かってる。
「オバさんに泊まっていくって言ったけど。良かった?」
「泊まっ……え?」
確認を取るように聞かれ、思わず顔を上げて驚く。涼と目が合って急速に心臓の鼓動が速まっていくのを感じた。
だってお泊り?涼と2人で?このまま朝まで2人っきり?緊張する……。
「今から家に帰る?それともこのまま泊まっていく?」
“どちらでもいいよ”と言いたげに涼はあたふたしている私にニコッと微笑んだ。サラッと選択肢を与えちゃって、こんな時でも涼は優しい。だけど、全く動揺する様子が1ミリも無くて、ちょっとだけ寂しい。
「えっと、どうしようかな……?」
一方私は速答出来ずにモジモジしてしまう。明日は学校も休みだから泊まっても問題はないけど、涼と2人でお泊まりなんて久々で緊張しちゃう。
でも、次はいつお泊まり出来るか分からないしなぁ。こんな美味しい……、いや、チャンスなんて滅多に無いもん。
「もし、泊まって行くなら一緒にゲームでもしない?」
「ゲーム?」
「実はこの間、祐希がしたいって言ってたゲームを買ったんだ」
迷っていた私の答えを導くように涼がゲームソフトを持ち上げた。これ、私がしたくてしょうがなかったパーティゲームだ。
「するっ」
しないはずがない。これを買うためにお小遣いを貯めてたくらいだもん。こっそり買っちゃうなんて涼ったら優しいっ。お小遣いも浮いちゃったし。
「じゃあ、しよっか」
涼はゲームを抱き締めた私に笑顔を返してくれた。夜更かしの件はお母さん達には内緒にしておこうね、って。
First kiss♡王子様と俺様ヒーロー 柚木ミナ @yuzuki-mina
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