【2人の会話】

 いったい何の話があるんだろう? 広樹から、今まで大事な話があると言われた事がねぇ。それがめちゃんこ気になった。

 謙二と大輔が帰った後、部屋は静かだった。謙二が帰る支度をしてた時、広樹がテレビを消したから、余計に静かになった。

 お互い何も言わず黙っとるから、やたら電化製品の音が気になるくらい部屋の中で唸っとる。普段なら全然気にならん電化製品の音が、今はめちゃんこ耳障りだった。

 お前とはツレとしても、付き合っていけねぇと言われたら……不安な気持ちになる。軽はずみな行動したことに、怒って去られたら……

 謙二と大輔が来る前に大事な話があるなら、話す時間があったじゃん。それが2人を帰してするのは、さっきの大輔と付き合うことしかねぇ。

 広樹の言葉を待った。アタシをじっと見とる広樹の視線は、めちゃんこ心配しとる感じだ。今のアタシには、その視線が痛いんだよ。

「飛鳥、お前……ーー」

「うん、大丈夫」

 広樹の言いたい事は、何となく分かったから、適当な事を言って遮った。アキラくんの事があってから、広樹の心配した顔を何度も見とる。そんな顔は見たくねぇのに、アタシのバカな態度が原因だ。

「本気で言ったんか?」

 いつもの低い声で広樹が聞いた。アタシの気持ちとは裏腹で、余計に心配した顔をして見た。

 投げやりな態度をしとる事くらい、自分が1番よぉ〜分かっとる。それを見透かされとるのがイヤだった。

「……」

 何も言えんかった。ただ、めちゃんこ後ろめたくって、広樹の顔をまともに見る事が出来ず俯いた。 

「飛鳥……そんなヤツじゃねぇだろ」

 なんでいつもいつも、そんなに心配してくれるの? 広樹にとって、アタシはただのツレなのに、どうしてなの? そんなに心配されると、広樹がアタシの事を好きだと勘違いしちゃう。

 ヤケになっとる事も知られとる気分だ。そんなヤツじゃねぇって、広樹はアタシの事をちゃんと見ててくれたんだ。いつも素っ気ねぇ態度をしとるのに、ちゃんと見てたんだ。

「……」

 俯いたまま、黙っとった。何も言えんかった。

 アキラくんの事を本気で好きだから、ヤケになっとると思っとるの? それは、ちゃう大きな勘違いだよ。

 広樹の気持ちが分からんから、ヤケになっとる。ツレなのに、そんな優しい態度をされたら、誰でも苦しむんだよ。友達以上、恋人未満の態度が苦しいんだよ。鈍感だったら、そんな態度をされても苦しむ事もねぇと思う。

「……どうしたんだ?」

 心配して聞いとる広樹は、言葉通りの表情で見とった。

 『どうしたんだ?』と聞かれても、なんと答えればえぇのよ。まさか『広樹の態度や言葉が苦しんだよ』と言える訳ねぇじゃん。

 それとも『アタシのこと、どう思っとる?』と聞いたところで『ただのツレだ』とか『俺、好きな人おるから』と言われるのが、おそがいから聞けんじゃん。そんなこと言われたら、ショックで立ち直れんじゃんか。もっと、答えやすい質問してくれんと困るんだけど、答えが見つからんじゃんか。

 アタシの思考が読めんで、広樹は困った顔をして見とった。そりゃそうだよ。自分自身が、この気持ちのやり場に困って、黙っとるから当然のことだ。出来ることなら、アタシも困った顔しとりたいよ。

「……」

「……お前、謙二のツレだろ?」

 心配な顔して、広樹はアタシを見て優しく問い掛けた。

 ホントにアタシのこと心配しとるのは分かる。でも、その心配はツレとして心配しとるんだよね。それがアタシには、めちゃんこ辛いし、苦しぃ〜んだよ。

「ツレじゃねぇ。知人だよ」

 もうヤケクソだった。自分自身の事で精一杯。とても広樹の事まで考える余裕などねぇ。

「……?」

 アタシの返答を聞いた広樹は、かなりビックリして黙って見とった。

 言ったアタシも、自分の事なのに分からん。謙二までに八つ当たりして、広樹の事も8割以上傷付けとると思った。どうしてえぇのかとか、どうして欲しいのか分からん。普通の人だったら、素直に聞いたりしとると思った。

「アタシのツレは、広樹と綾子だけ」

 その言葉を聞いた広樹は、目を見開いて固まった。自分でも驚く事を言ったと思う。

 今のアタシにとって、大切なのは綾子と広樹だ。この2人は、辛い時に傍にずっと居ってくれて、めちゃんこ助けられた。その2人が大切なだけ。

 確かに、謙二や他の人もツレには変わりねぇ。自分の言っとる事が、間違っとるし、矛盾しとることも分かっとる。アキラくんの事や大輔の事で、自分が潰される気分だった。

「それにアタシ、1番好きな人と付き合わんし」

 目の前の広樹に言った。自分の言っとることが、めちゃんこバカみたいに思えた。

 広樹は、ツレとしか見とらんのに、そんなこと言ってどうするんだ? 広樹に何を求めようとしとるのか、自分でも分からん状態だった。

「どういう意味なんだ」

 顔色を変えて体を強張らせた広樹は、アタシをじっと見て様子を見とった。

 また、バカなことをやると思って、そんな顔色を変えたり、体を強張らせてんの? バカな事なんかやる余裕もねぇ。

 今の気持ちをどうしたいのか分からん。自分をコントロールするだけで、いっぱいいっぱいなんだよ。そのコントロールが上手く出来んから、自分自身が不可能になっとる。

 なんで、そんな反応をすんの? バカな事くらい知っとるじゃん。

「別れたねぇし、ケンカもしたない……ただ、ずっと近くに居って欲しいだけなんだよ」

 広樹に対しての気持ちを素直にぶつけた。広樹の近くに居るだけで幸せな気分だった。

「……あっそ……ところで、最近、綾子どうした?」

 バカな事をやらんと分かると、いつもの顔に戻った広樹は、素っ気ねぇ言い方で聞いた。

 突然話が変わって、綾子の事を聞いた。まぁ、アタシにとって、話題が変わってくれて良かったけどね。

「なんで?」

「最近、遊ばねぇから」

 アタシの事をずっと見とったみたいだ。いつも学校で綾子と一緒に居るけど、帰りは別行動をしとった。アタシは広樹の家に行って、綾子はそのまま帰っとった。広樹の家から帰って来ると、用事がある時は電話で話すくらいだ。

「なんか12月頃から、親が五月蝿いみたいで塾に行っとる」

 塾と言った瞬間、細い目をめいいっぱい開いてアタシを見た。

 そんな驚く事なのか? 普段の綾子を知っとるから、しゃねぇか。

「綾子が塾? 勉強? どうしちゃった⁇」

 どえらい驚いた顔をした広樹は、首を傾げた。

 そんな驚かんでも、えぇとちゃう? 綾子に失礼だよ。綾子が塾に行ったり勉強するのが、そんなに驚く事なんか? 

「綾子、めちゃんこイヤがっとるのに、無理やり塾の送り迎えまでされて強制的に行っとるから、めちゃんこストレスが溜まっとるみたい」

 納得した感じで相槌をしとった。

 来年の今頃には、志望高とか受験で焦らなアカンから、今からやっとるだけ。

 強制的にやられるから、綾子もストレス溜まっとるんだよね。アタシが広樹と一緒に居るからストレス発散もできんのだよ。近いうちに綾子とストレス発散に駅前まで遊びに行こう。

 一瞬だけ真顔になって「……だろうな」と言って、広樹はニンマリとしながら、自分の顎を触って苦笑いをした。アタシと綾子の性格をよぉ〜分かっとんね。

 悪い雰囲気がなくなると、急に腹が減った事に気付いた。

「広樹、腹減った。いつもの作って」

「ん? ……あ、あぁ、分かった」

 一瞬、戸惑った表情をしとったが、立ち上がって笑顔で部屋を出て行った。

 広樹と一緒に居るようになってから、アタシの夕飯を広樹が作ってくれとる。焼きそば、卵焼き、おにぎり、烏龍茶と変わらん一定のメニューなんだけど、自分で作るより広樹が作ってくれた方が美味しい。

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正義の悪女 @pocoaporo

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