【大輔との出会い 後編】

 面識もねぇし、話をしたこともねぇのに、気に入ったとはおかしな話である。

 一般的な女の子から見れば、確かにカッコイイ部類に入ると思う。だが、アタシにとっては、何の興味も沸かん人だった。ファンクラブのヤツ等と同じで、アタシの顔が好みなだけだと思う。中身を知らんで気に入ってもらっても、有難くもねぇ。

 友達は芸能人の誰々が好きだとか、この人カッコイイと騒いどる。アタシは、おかしいみたいで全然興味がなかった。興味があるのは、今隣に座っとる広樹だけなんよ。

「うん、昨日聞いた」

 素っ気ねぇ言い方で言っとるのに、大輔は爽やかな笑顔を崩さんかった。

「俺と付き合ってくれ」

 直球勝負で言われてビックリした。

その言葉を聞くまで、素っ気ねぇ態度だった広樹は、アタシの顔を見て心配した顔をしたのが、視界の端っこに入ってきた。

 自分自身がおちて行くことも、荒れとることにも、気付いとる。止めることが出来ず、成り行きに任せとる。自分で何がしたいとか、目標を持つことが出来ねぇで、行き当たりばったりで生きとる。

 いずれ、底があって足がつくところがあると思った。それが、どんだけ深い底なのか知らんけど、足がついたところで這い上がって来れば何とかなると思った。今はまだ、どんどん深くおちて行っとる最中みたいだ。

「うん、えぇよ。でも、アタシを本気にさせる自信があるならね」

 謙二とハイタッチして喜んどった大輔は、アタシの顔を見て笑った。細い目を見開いて口をポカンと開けた広樹は、アタシを見て固まっとった。

 ここに居る3人の男たちは、ホントにアタシが言ったことを理解して居るのだろうか?

「俺、南中の2年でサッカー部だ」

 話しながら、どんどん接近して来とる。本気にさせようと必死な態度だ。今までの女が、それで本気になってもアタシにはムリなことだ。

 拒否反応でアタシも広樹の方に占領しとった。アタシが占領しとっても広樹は何も言わんかった。

「あっ、うん。同い年なんだね」

 積極的な態度に返事を返すのが精一杯だ。絶対に隙を見せたら、アカンと思った。

 隣で黙って座っとる広樹は、無表情でアタシを見とった。そんな広樹が、気になって仕方なかった。

「今日から俺の女だ」

 自信満々に言った大輔は、態度もともなっとった。今まで何人の女の子が、大輔を好きになったんだろう。

「……うん……」

 全然付き合う気もねぇ。広樹のことが気になって、それどころじゃねぇ。自分でバカなことをやって、自分に腹が立って、半分投げやりだった。

 軽はずみな返事を聞いて、広樹の顔が変わったのが視界の端に入ってきた。眉間に皺を寄せて怒った表情をしとった。後ろめたい気持ちで、広樹の顔を見ることが出来んかった。

 謙二の方に視線を向けて見ると……。こんな空気の中、余裕綽々でテレビを見ていやがる。

 お前が紹介したんなら、最後まで責任持つのが筋だろ‼︎  今がどんな状況だか分かっとって、テレビ見て余裕すかしてんのか? そんな時くらいは、頼むから空気読めよ。

 それを見て、段々謙二に対してイライラしてきた。

「謙二くん」

「……んだよ」

 呼ばれた謙二が面倒臭そうに振り向いた瞬間、顔を見てKYさにムカついた! というより、手が届く位置だったら、無言で殴っとるくらいだ。

「死ね!」

 めちゃんこムカついて思いついた単語が、その一言だった。思わずそれを口にした。ケンカ越しのその言葉に腹を立てた謙二は、眉間に皺を寄せてアタシを見た。

「生きるしぃ」

 小バカにしたような顔をして、言っとる謙二にムカついた。それは謙二の態度にもムカついとったが、自分がバカなことをしとることで、自分自身にムカついとったのが大きかった。

「バカ!」

「バカじゃねぇし! アホだ」

 あぁ言えばこう言う、こう言えばあぁ言う。ちょこっと腹が立ってムキになった。

 謙二とのやり取りを聞いて笑っとった大輔。それに比べ、さっきから黙っとった広樹は、謙二のとやり取りを見とった。

「……えぇ加減にしろ!!」

 突然低い声で怒鳴ったので、声のした方を向くと、広樹は眉間に皺を寄せとった。

 広樹の一声で、謙二と大輔も体をビクッとさせ静かになった。

 部屋の中は急に静まり返って、テレビからの声が流れとるだけだった。流石にKYの謙二もテレビを見んで、正面に座っとる広樹を見とった。隣に座っとる大輔は、広樹の方を向かず正面を見とった。

 いつもの冷静で素っ気ねぇ態度に戻った広樹は、謙二に視線を向けた。

「……謙二、大輔を連れて今日は帰ってくれ。俺、飛鳥と大事な話がある」

 いつもの低い声で素っ気ねぇ言い方をした広樹に、ちょこっとビビりながら頷いて帰る支度を始めた。支度が終わった謙二は、チラッと大輔の方を向いた。

「……大輔、行くぞ」

「……またな、飛鳥」

 素っ気ねぇ態度でビールを飲んどった広樹の方をチラッと見て、大輔はビックリした顔をした。

 すぐに広樹から視線を逸らして、アタシに視線を向けた。何もなかったような顔をして大輔は、軽く手を上げた。

「……うん……」

 大輔の顔の変化を見とった。返事だけで、後の言葉が出んかった。

 部屋を出ていく大輔の顔は、絶対に広樹のことを知っとる感じだった。

 何で広樹が、ここに居るんだ? そんな顔をしとった。

 大輔が広樹のことを知っとろうが、そんなことは、どうでも良かった。

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