【大輔との出会い】

 次の日。いつもと変わらん態度で、広樹が話してきた。広樹に感謝した。なんでそんなに大きな人なの。めちゃんこ尊敬するんだよ。

 昨日は悪いことをしたと思ったけど、謝るタイミングを逃して謝ることが出来んかった。

 放課後。机の中に入っとる教科書やプリントを整理し、必要な物だけを鞄に詰め込み帰る支度をした。

 鞄を持って帰ろうと顔を上げると、前方で立っとる広樹が、じっとアタシの行動を見とった。

 そんな広樹の行動が嬉しかったけど、それって、好きな人にしたり、彼女にしたりするんだよ。勘違いしちゃうよ。

「飛鳥、もう帰れるか? 一緒に帰ろう」

 同じクラスだった広樹は、ツレと話をしとっても、アタシが教室を出る時にはツレと別れとった。

 だから、毎日一緒に帰っとった。

 確かに広樹は面倒みがえぇけど、それが今のアタシには辛く苦しんどる。

 気持ちが抑え切れんで、暴走しちゃって冷静な態度で居れん。勘違いして喜んで、後でショックを受けるのはアタシなんだと、自分に言い聞かせて居るんだけど、広樹に対しての気持ちが抑え切れん。

 広樹の家に行く前に、コンビニで買い物をした。飽きもしんで毎日、同じ物を買った。

 コンビニのドアを開けて中に入ると、外とは違ってめちゃんこ暖かかったので、手袋を外してポッケにしまった。

「何買う? アタシはいつものを買う」

 コンビニに入ると、毎回同じことを広樹に聞くのも日課になっとる。

「毎日同じで、えぇ加減飽きんか?」

 呆れた声と顔をして、アタシを見た広樹は「見とる俺の方がうんざりだ」と言いた気な顔をしとった。

「うん、飽きんよ」

「あっそ、バカの1つ覚えなんだな」

「ちゃうし、アホの1つ覚えだし。 知らんかった?」

「そんなの知らんし、初耳だ」

 普段、そんな言い方をしん広樹。

 落ち込んどるアタシをちょこっとでも元気にさせる為に、わざとそんなことを言った。

 知らんうちに、だいぶ広樹に気ぃ遣わせとる。ツレのアタシに、そこまで気ぃ遣わんでえぇ……勘違いしちゃうから……

 そんな会話でアタシは、広樹の顔を見て笑った。久し振りに声を出して笑った気がした。

 笑っとる顔を見た広樹は、ちょこっと安心した顔をして笑った。

 買い物を済ませてコンビニを出てから、広樹の家に着くまで、学校で綾子との話をして帰った。

 玄関に入って靴を脱ぎながら。

「先に部屋に行ってろ、着替えてから行くで」

 階段を通り過ぎ、風呂場の方に向かって歩いて行った。

 階段を上がり広樹の部屋へ向かった。部屋に入ると、いつも綺麗に掃除がされとる。前日、散らかして帰っても、翌日には必ず片付いとった。

 広樹が学校に行っとる時、お母さんがきて掃除でもしとるんかな? 日曜日の昼前に来ても片付いとった。誰が掃除をしとるんかな? 年上の女の人と付き合っとるかな? 広樹の部屋には、女物は1つもねぇ。

 着替えをして部屋に戻ってきた広樹は、冷蔵庫からビールを出して隣に座った。テレビのリモコンで電源を入れ、見たい番組にチャンネルを変えとった。

「お前、明日、何時に来る予定だ?」

 一緒にテレビを見とると聞いてきた。画面から目を離し広樹の顔を見ると、優しい顔をしてアタシを見とった。

 約束をしとった訳でもねぇ。アキラくんのことがあってから、毎日一緒に居ってくれとったから、不思議にも思わんかった。それが当たり前になって、広樹の優しさに甘えとった。

 やっぱ、付き合っとる人が来るんかな? 

「分からん。起きた都合で決める。何か予定あんの?」

 素っ気なく答えとったが、週末に必ず聞く広樹の言葉に、嬉しさを感じとった。

「何もねぇ」

 アタシ以上に素っ気ねぇ言い方をして、ビールを飲んでテレビの方に視線を向けた。

 ホントにアタシのことをどう思っとるのか、不思議に思って広樹の顔を見た。変に優しいから、勘違いしちゃうよ。ただのツレに、そこまでしんでもえぇと思う。

 もしも、ちゃう女にしとったら、きっと嫉妬するんだろうな。きっとじゃねぇ。絶対に、嫉妬するんだろうと思う。

 学校では、女子と話しとることは滅多にねぇ。広樹は、ツレと一緒に居る所しか見とらん。アタシと綾子には話し掛けとった。他の女子に、自分から話し掛けたところを見たことがねぇ。

ただ、他の女子に用事があって話し掛けとるのは、何度か見たことがある。

 ガチャ! 玄関のドアが開く音がした。

 この家では広樹が帰って来ると、開けっ放しだった。いつでも、誰でも出入り出来るんだよ。普通の家では、考えられんくらい不用心なんだよ。

 階段を上がって来る足音なんだけど、それが1人ではねぇことが分かった。たぶん、謙二が紹介したい人を連れて来たんだろう。

 足音を聞いた広樹は、心配そうな顔をして見とった。いつもアタシのことを心配そうな顔で見とる。アタシの気持ちを知らんで苦しめとる。

 本当に来ちゃったよ。何でこんなバカなことをしたんだろう。そんなことしとったら、本当に広樹がアタシの近くから、去って行くかもしれんのに。

めちゃんこ後悔だわ。

 そんな不安を懐きながら、平気な顔で無理な作り笑いを広樹にした。自分では分からんが、だいぶ顔が引き攣っとると思う。

 ここまで自分でやっちゃったんだで、後には戻れん。こうなったら、もうヤケクソだ! 後悔しても始まらんで、考えとってもアカン! なるようにしかならん! そう自分に言い聞かせとるけど……ちっとも覚悟が出来んかった。

 普段、綾子と遊んどっても、なるようにしかならんで始めちゃっとるけど、広樹の心配した顔を見ると、いつもみたいには決まらんかった。

「広樹、飛鳥、居るか? 入るぞ」

 男にしては、ちょこっと高い声の謙二なんだけど、言い終わる前にドアが開いた。私服姿の謙二は、これから紹介する男を自分の後に立たせて、見えん状態だ。

「飛鳥、驚くなよ。カッコイイ奴だからな」

 得意気な顔をして、謙二が笑って言った。それに比べて、広樹しか興味ねぇから、どんな表情をしてえぇか分からんで無表情で居った。

 どんだけカッコいい男を連れてきても、本気にさせる男は居らん。隣に座っとる広樹以外は……そこまで、自分の中で答えが出とるのに、バカなことをしとると思った。

 あの状況だったから仕方ねぇと、自分に言い聞かせて納得しようと思った。

「飛鳥、お前に紹介したいヤツを連れて来た」

 人の気も知らんで、目の前で能天気にニコニコと笑っとる謙二が言った。

 そんな話を持って来なければ、こんな思いもしんかったんだぞ! 人の気持ちを、ちょこっとは分かれよな! 

 気持ちのやり場がねぇから、完全に謙二の所為にしとるだけだ。ホントは、アタシが1番悪いのはわかっとる。あの状況でも断れば良かったのに、バカなことを言ったと後悔しとる。

「うん……」

 謙二の態度とは違って、無表情のまま答えとった。いざそうなると、隣に座っとる広樹のことが気になって仕方なかった。

 ドアの所に突っ立て話をしとった謙二は、中に入って紹介する男を自分の隣に座らせてアタシの顔を見た。

「こいつ俺のツレで――」

「俺、大輔よろしく‼」

 謙二が紹介しとる途中で、遮って親指を立て笑顔でアタシを見た。

 大輔の第1印象は、何だコイツとしか思わんかった。

 謙二と大輔の態度を見て呆然としとると、こたつに入っとる広樹に足を突っつかれ現実に戻り慌てた。

「あぁ、アタシ、飛鳥」

 大輔の積極的な態度に焦った。焦ったというより、大輔の態度にドン引きしとった。初対面の人に、そんなに積極的な態度が出来る人が居ったんだと感心しとった。それはKYの謙二が連れてきた人だから、大輔もKYの部類かと思って見とった。

「こいつ、お前のことを気に入ったみたいでな」

 今度は言う前に一度睨み付けて、言うなという態度をして、謙二は大輔のPRをした。取り敢えず、大輔は謙二に睨まれて黙っとった。

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正義の悪女 @pocoaporo

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