第9話

えっ!

何でアタシなの?

ちゃうよ。


営業スマイルをした小柄な女性は、納得した感じで2、3度頷いた。

2人の会話が理解出来んかったから、首を傾げて2人を見とった。


「飛鳥ちゃん、左手出して」


言われたまま、素直に左手をショーケースの上に出した。


「ご綺麗な手をしてますね」


持ってきた小さめの箱から、指輪を出して小柄な女性がはめてくれた。


何でアタシの指なの? 

アタシとアキラくんは、まだ付き合って1ヵ月くらいだよ。

何の為にアキラくんが、アタシに指輪をくれるの? 

理解できんで、はめてくれた指輪を呆然と眺めとった。

しかも、指輪のサイズがピッタリなんだけど。


「飛鳥ちゃん、気に入らんかった?」


小さな声で聞いたアキラくんは、アタシの肩に手を置いて心配そうな顔をしとった。


頭の中で今の状況を整理しとったけど、理解出来んかった。

けど、アキラくんと店員さんがアタシを見とったから、取り敢えずアキラくんの立場を考えた。


「ごめんなさい。ただ、ビックリして呆然としちゃった」


慌てた言い方をして、不安になっとるアキラくんに笑った。

ホッとした顔に戻ったアキラくんは、嬉しそうに笑って小柄な女性を見た。


「これ、お願いします」


「ありがとうございます。ご用意致しますので、少しお待ち下さい」


軽く頭を下げた小柄な女性は、アキラくんとアタシに笑って小さめの箱を持ってレジに向かった。


でも、アキラくんから指輪をもらっても……

希望に応えることが出来んのに……

もらってえぇのかな? 

いつでも別れてえぇと思っとるのに、物でどうこうなると思っとるのかな? 


やっぱり広樹が好きなんだよ。

悪戯して笑ってくれたり、落ち込んどる時に優しい顔をしてくれる広樹が好きなんだよ。


黒い小さな紙袋を持ってきた小柄な女性は、ショーケースの上に置いた。


「お待たせしました」


ポッケから財布を取り出したアキラくんは、小柄な女性に1万円札を2枚差し出した。


「2万円お預かりします」


頭を下げた小柄な女性は、ユーターンしてレジに戻って行った。


えっ? 

さっきの指輪……確か1万円しんかったのに、2万円って何でなの? 


お釣りを持って戻ってきた小柄な女性は、レシートと一緒に渡した。


「5千円のお返しです。ありがとうございました」


頭を下げた小柄な女性は、笑顔でアタシ達の顔を見た。


黒い小さな紙袋を持ったアキラくんは、アタシの手を握って歩き始めた。

百貨店を出て駅の近くの公園に行った。


ベンチに座ると、アキラくんは隣に座ってさっきの黒い紙袋を渡された。

中には小さな箱が2つ入っとった。

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