【困ったアタシ】
家の前まで送ってくれた広樹に何も言えず、ただ一緒に歩いとった。
「飛鳥、無理するな」
突然の広樹の言葉に俯いた。自分でもどうしたらえぇのか分からず、もがいとることを気付かれとる感じで、広樹の目をまともに見れんかった。
1つ1つの優しい言葉で、アタシの気持ちはどんどん広樹のことが好きで堪らんのに、それを頭はセーブしとった。
「ありがとう。全然、ムリしとらんし」
ただ、広樹に心配させて迷惑を掛けたなかったから、作り笑いで空元気で言った。
広樹は『無理しとるだろ』と、言いたげな顔をして納得しとらんかった。
家の前まで来て、会話が途切れた瞬間を見計らって、何も言わんで玄関に向かって歩き始めた。
いつもアタシが家に入るまで見とる広樹だから、今日も見とると思った。そんな態度をした自分が、めちゃんこ嫌で玄関の前で立ち止まって。
「ありがとう。また明日」
ただ、一般的な挨拶しか思いつかんかった。見とることは分かっとるのに、振り向くことなく家に入った。
部屋に戻ってから、広樹の部屋でのことを反省した。
えぇ加減なことをしとるから、広樹に信用されんのは、仕方ねぇと思った。このまま、広樹との関係が崩れることが怖かった。
ホントは知らん男と付き合うつもりねぇ、彼氏が欲しいわけでもねぇ。ただ、広樹の近くに居りたいだけだ。
アタシの気持ちを知って広樹が避けたら嫌だし、気まずい感じで話ができんくなるのも嫌だ。それが怖いから絶対に告白はしん。
例え広樹が、他の女子と付き合ったとしたら、平気でおれんけど、今までと変わらん付き合いが出来れば、それはそれでいいと思う。
アタシの心と頭は反比例しとる。自分でもどうしてえぇのか分からん。自分の体なのに、心は自分の気持ちだったけど、頭は別の生き物が指示を出しとる感じなんだよ。
それが普段の生活では、アタシの気持ちと頭は同じことをして仲良く付き合ってくれるんだけど、広樹のことになると別の生き物が出没する感じなんだよね。
そんなこと広樹に相談出来んし、綾子に言ったけど、黙って意見を言ってくれん。
たぶん、綾子にも分からんから意見が言えんのだと思う、アタシ自身が分からんから、詳しく説明が出来んのだと思う。
アキラ君のことがあってからなんだよ。アキラ君のことでは落ち込んどったけど、それは立ち直っとる。
後悔したことは忘れたらアカンと思って頭に入れてあるんだけど、それ以外は普段通りなんだけど可笑しいよ。
それも限定で、広樹のことだけだからね。考えとると、どうにかなっちゃう。
取り敢えず、綾子に電話してみよ。
『はい、どうした』
「うん、ちょこっと駅前に遊びに行かん?」
『うん、すぐに行くね』
電話を切って、綾子が来るのを待っとった。
迎えに来てくれて、駅前のファーストフードに行って話た。
「もう、おかんが塾、塾、五月蝿いんだよ。マサ兄やカズ兄には何も言わんかったのに、アタシには言うからムカつくんだよ」
塾に行かせるようになった綾子ママは、教育ママになっとるみたいだ。今まで、そんな言わんかったのに、どうしたんだ。
「でも、高校に入ったら、自由に遊べるじゃん」
「そうだけどさぁ、アタシの顔を見ると五月蝿いからね。飛鳥ママは何も言わんからえぇよ」
「アタシには何も言わんけど、パパとはケンカしとるみたいだから、ほかってあるけどね。最近は広樹の家に行っとるから帰りが遅いけど、それも聞かんけどね」
「そうなの。夕飯はどうしとるの?」
帰りが遅い事を言ったから、綾子が心配して聞いた。
「夕飯は広樹が作ってくれる。焼きそばと卵焼きとおにぎりなんだけどね」
「ふ〜ん、毎日それなの? 他に作ってくれんの?」
不思議そうな顔をした綾子が聞いた。言い方が悪かったと思った。
「うん、広樹に、それがえぇと頼んだの。何か分からんけど、自分で作るより美味しいし、最初、広樹が作ってくれてから、めちゃんこ嬉しいんだよ」
それを持ってくる広樹の顔を思い出して、思わず嬉しくて綾子の顔を見て笑った。
「飛鳥、落ち込んどると、自分で作っとったよね」
いつも行動を一緒にしとるから、そんな事も綾子は覚えとって言った。
「うん、小学校の頃から落ち込むと、それが食べたいんだよ。でも、広樹が作ってくれてからは、アキラくんのことは落ち込んどらんのに、それが作って欲しいんだよね。毎日なんだけど、広樹が作ってくれるのが、嬉しいんだよ。何なんだろうね。それしか食べたないもんね。不思議だよね」
「うん、不思議だね」
嬉しそうに笑って、綾子はアタシを見て言った。
さっきまで、綾子ママのことを怒っとったのに、そのことはどっかに飛んでった感じだった。
「あのさぁ~、広樹の家に謙二がきたんだけど、その時に紹介したい男が居ると言われたの。それでさぁ、広樹はめちゃんこ怒っとるし、謙二はいつものKYな態度でケンカになりそうだったから、思わず紹介してと言っちゃった」
謙二が来た時の状況を綾子に言った。この事で広樹との関係が崩れるのがイヤだった。
「でも、飛鳥は断るつもりなんだよね」
「うん、そのつもりなんだけど、広樹の気持ちも分からんし、心配されるのも辛い。その場の雰囲気で決めるよ」
「また飛鳥の悪女が出没するね。アキラくんに断るときも『アタシのことを本気にさせる自信があるなら』を出したからね。まぁ、えぇけどヤバくなったら、絶対に別れるんだよ。その時は協力するから、ちゃんと言ってよ」
「分かっとる。その時はちゃんと言うよ」
「広樹には知らんことにしとくね。アタシも飛鳥もちゃう意味でストレス溜まっとるけど、ちゃんと話してよ。飛鳥の相棒なんだから、1人で考えて行動しんでよ。そろそろ帰らんと、カズ兄が帰って来ると五月蠅いからね」
「ほだね。今度、会ったときは機関銃トークになるからね。帰ろ」
笑って綾子に話して、ちょこっと気が楽になった。綾子には何でも言えるから、頼りにしとるんだよ。
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