終わるとしても

岬野 

1話

僕はいつも彼女の考えていることがよくわからなかった。


 藻岩山の頂上から札幌の街並みを俯瞰する彼女の横顔を眺めながらそんなことを思った。そこにあるはずの光り輝くネオンの街を見ているはずなのに、彼女の瞳は何か別のものをとらえている。


 「なにを見てるの?」


 彼女の瞳の先にあるその幻影を知らずにはいられない。思わずそう聞いた僕に彼女は


 「私が普段住んでる街もここからだとこんなに小さく見えるんだなって。なんかそれがすごく残念で」


 そう言った。


 「残念?」


 「うん。私たちが必死に毎日を生きてもそれは少し離れたとこから見たらこんなに小さく見えてしまうんだもの。それが残念。」


 彼女がそう僕に行ったときにきっとこの僕の恋という花は実ることなく枯れていくのだろうとわかってしまった。わかりたくないのにわかってしまった。


 それはまだ治療法のわからない病気になったことを医師から告げられた患者のような、まるで僕には手の施しようのないものだった。


 そしてその病はきっと今後も僕の心を蝕んでいく。


 「そろそろ戻りましょ、寒すぎて景色が楽しめないわ。中の温かいところでゆっくりしましょう。」


 彼女の言葉で僕は我に返る。


 「そうだね。中で暖まろう。」


 僕の冷えた手が彼女の手をつかむ。僕の手を一瞥した後、彼女は僕の目を見て笑う。ああ、なんて罪深いのだろうかこの女は。


 僕にとってこの思いがどれだけ本物だとしてもこの関係は虚構だ。僕は彼女にとっての山から見た街並みの一部に過ぎない。


 いやそんなことは元よりわかっていたことなのだ。彼女の映している物語の中に僕はほとんど存在していなかった。それは何も今に始まったことではないのだ。


 僕は彼女の手を強く握る。この力だけが、僕と彼女の世界をつなぎとめる唯一の手段だった。

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終わるとしても 岬野  @hy0221hy

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