童話「窓をつくるひと」

ふみその礼

第1話 窓をつくるひと


むらさき色の空の下

わたしは花束を手に

荒れ地を歩いてゆく


わたしは誰かから誰かへ

花束を届ける

依頼人は村の少女

花束を届ける相手は

「窓をつくるひと」

その言葉のほか何も聞いてない


教会の鐘楼だけが高く

土や煉瓦れんがでできた低い街並

わたしは教会を訪ねる


最近亡くなられた方はいますか

街を出ていかれた方は


亡くなられた方はいません

でも

ゆうべ夢の中で

マリヤ様からお告げがありました

この街に「窓」ができたと


どこかに新しく窓ができた家は

ありませんか

わたしは尋ねて回ったけど

そんな家はどこにもなかった


すっかり夜になり

白銅色の月の光がさしていた

ある家の窓から

ちいさな山羊やぎがちいさなそりをひいて

月の光の中へ飛び立とうとしていた


待ってください

わたしは山羊やぎに待ってもらい

ちいさなそりを見せてもらった

まっ白なこころが一つ乗っていた


わたしはこころにたずねてみた

どうして行ってしまうのですか


この世界にはわたしの

こころの置き場がないのです


部屋には寝息を立てて眠る女性が

こころが離れた女性に声はかけられなかった


わたしは山羊やぎにきいてみた

窓をつくるひとはどこにいるの


山羊は月に向けて旅立ちながら

教会の鐘楼のそばを通った


そこには大きな帽子を被った

ちいさく年老いた精霊の姿が


あなたが窓をつくるひとですか?


青年よ わしが見えるということは

お前も こころが病んでいるのかい

その花束はわしに窓を依頼するあかし


わたしは花束を託してくれた

少女の願いの意味を知った


約束は守らなければならない

でもわたしは

窓をつくるひとにきいてみた


わたしが

窓をつくるひとにはなれないのですか


人間のお前は

窓をつくるひとにはなれない

しかし お前を窓にすることはできる


村の少女はある朝

自分のこころが旅立てる窓が

作られたことを知った


ちいさなミツバチが

ちいさなちいさなそりを引いてくれるはずだった

でもミツバチは いつまでたっても旅立たない


なぜって その窓には

いつもいつも美しい花が咲いて

ミツバチを旅立たせてくれなかったから





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 童話「窓をつくるひと」 ふみその礼 @kazefuki7ketu

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