友人との陰の支え合い

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

私が就労サポート支援事業所の講習で、彼女と出会ったのは偶然だった。しかし、その偶然が、私にとって大きな意味を持つことになった。


彼女はトゥレット症候群を持っていて、最初に会った時、彼女が突然発する言葉や動きに驚いたのを覚えている。トゥレット症候群について少しは知っていたが、実際にその症状を目の当たりにしたのは初めてだった。正直なところ、最初はどう対応していいのか分からず、何度も気になっていた。しかし、同じ講習を受け続ける中で、隣に座る機会が増え、自然と会話をするようになった。話し始めると、彼女は自分が今までどれだけ苦労してきたのかを話してくれた。


トゥレット症候群の症状が現れるたびに、周囲の無理解に直面し、誤解されたり、差別されたりしてきたという。彼女にとっては、普通の会話や日常生活でさえも簡単なものではなかった。特に、彼女には吃音症も併発していたため、話すことがさらに困難になることもあった。それでも、彼女は笑顔で「慣れちゃったけどね」と言う。その言葉の裏に隠された辛さや孤独感を、私はすぐに感じ取ることができた。


なぜなら、私も同じように社会の無理解に苦しんできたからだ。私自身は発達障害と統合失調症を抱えていて、昔からずっと周囲と違う自分を感じていた。学校ではいじめを受け、理解のない人々から揶揄われたり、孤立を味わったりすることが多かった。友達を作るのが難しかったし、周囲に溶け込むこともできず、常に自分だけが違う世界にいるような感覚があった。


そんな経験を持つ私にとって、彼女の話は自分自身の過去と重なる部分が多かった。障害の種類は違うけれど、孤立や不安、社会からの疎外感を経験してきた私たちには、何か特別な共感の瞬間があった。それをきっかけに、私たちは自然とお互いを理解し合うようになった。


講習が終わり、私たちはそれぞれ違う作業所に通うことになったが、それでも連絡を取り合うようになった。お互いにとって、日常の中でふとした瞬間に話したいことや聞いてほしいことがあった時、連絡を取れる相手がいることがどれだけ心強いかを感じている。


私たちの関係は、単なる友達以上のものだと感じることがある。お互いの存在が、ただの会話や時間を共有する以上の意味を持っている。時折、周囲の理解がない人たちから「恋人みたいだ」と言われることもあるが、実際にはそのような意識はまったくない。私たちはお互いに恋愛感情を持っているわけではなく、むしろ、親友のような、いやそれ以上の絆で結ばれていると思う。お互いの障害に理解があり、支え合いながら生きている。お互いが無理をせず、沈黙さえも心地よく感じられる間柄だ。


特に、私たちは会話が苦手な部分でも共通している。彼女は吃音があり、私は人前で話すことに強い苦手意識がある。そんな私たちだからこそ、無理に話さなくてもいい関係を築けたのだと思う。沈黙が訪れても、それを気まずいと感じることはなく、むしろその沈黙が私たちにとっては安心感を与えてくれる時間となっている。言葉が必要ない場面でも、相手の存在を感じられることが、どれほど大切かを実感している。


彼女との出会いは、私に多くのことを教えてくれた。トゥレット症候群という、私がそれまであまり知らなかった障害について、もっと深く知るきっかけになった。そして、自分にはまだまだ知らない障害や、その背後にある苦労が多く存在することを痛感した。障害に対する理解は、単なる知識だけではなく、その人自身の経験や感情に寄り添うことが大切だと感じたのだ。


私たちが支え合うこの関係は、外からは見えにくいものかもしれない。しかし、私たちにとっては非常に大切で、互いの存在が日々の生きづらさを少しでも和らげてくれる。お互いが障害と向き合いながらも、陰で支え合っている。この絆は、普通の友人関係とは少し違うかもしれないが、それが私たちの関係の特別なところだと思う。


今でも、彼女とは定期的に連絡を取り合い、時には一緒に過ごす時間も持っている。お互いにとっての支えとして、無理をせず、自分らしくいられることが何より大切だと感じている。私たちの友情は、障害を越えて、静かに深く続いている。これからも、彼女と一緒に支え合いながら、少しずつでも前に進んでいきたいと思う。

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友人との陰の支え合い 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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